木質素材の熱化学還元処理をわかりやすく解説しよう4

⑤水分除去(乾燥)では形状寸法を安定化出来なかったオイルパームの材組織をどのようにすれば固定できるのだろうか?続編“
上図は、オイルパームの材組織中の糖類が熱化学還元処理によって変化している証拠を示すものです。この実験結果は東京農業大学の教授をしておられた林隆久氏の協力で行なったものですが、CとFが熱化学還元処理後の材中の糖を示しています。
St(無処理)と比較していずれの糖も明らかに減少していることが分かるでしょう。
これらの糖類が熱分解してしまえば、前回お見せしたようにオイルパームの材組織が変形してしまうでしょうが、処理後の材の形状を見ても明らかなように樹脂化して組織を固めたことが分かるでしょう。その結果、下図に示すように処理材の強度は明らかに増加します。
この実験はオイルパームの材組織にそれぞれ種類の異なる糖類の溶液を含浸させた後熱化学還元処理を行い、処理後の物性を無処理材と比較したものです。
図から明らかなように、無処理材(×)および組織から予め糖を除去した処理材(○)と比較して熱化学還元処理した材は、糖を加えたものも加えないものも明らかに最大応力、ヤング率が増大することが分かります。この結果から、熱化学還元処理によって材組織は自己組織化が生じ、材を強固にすることが明らかになりました。
スギの場合も同様で、単位比重当たりの強度は最大で48%も上昇し、スギ材の欠点の一つである「割れ易さ」や「表面の柔かさ」が著しく改善され、その用途は建築材のみならず家具材、建具材と広い分野での利用が可能になります。

図6

図7

―⑥高温乾燥材の真実”
“木質素材の熱化学還元処理をわかりやすく解説しよう”の②で紹介した高温乾燥材について内部割れの欠陥を指摘しておいたが、材質の面ではどうなのかを含水率、収縮率の面からチェックして見た結果をお見せしよう。
米松(ダグラスファー)のドライビーム(正角材)4本について表面割れの有無を調べると共にJIS規格試験用サンプルを所定の部位から夫々10個作成し、比重、含水率、収縮率を求め、表に夫々10個の平均値で示した。
ドライビームは高温処理で材表面をドライングセットさせ、表面割れを抑える目的で処理されているが、実際は小割れが発生していることが分かる。一番大きな問題は、内部割れ(ミカン割れ)が発生していることである。最近はかなり改善されているようであるが、表に示したように、含水率も平衡含水率(気乾含水率)を超えているばかりか、収縮率はほとんど改善されていない。
このような材料が我国の建築業界を席巻している現実は住宅を購入する消費者のほとんどわかっていない。ミカン割れの柱で枘(ほぞ)を作ると枘の部分に割れが入っているので強度が保てない。これを補強するために蹄鉄金具などで補強するのであろうが、この部分だけ剛構造になり、地震などによって破断し易くなり、住宅の損壊はより激しくなることが予測される。

図8

図9


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