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【WARP】Artificial Intelligence Reissue

テクノ史においてとても重要な作品とされる、ワープが1992年にリリースした「アーティフィシャル・インテリジェンス」というコンピがある。

またそのコンセプトに沿って「AIシリーズ」として1992年から1994年にかけて制作された一連のアルバムがコンピを含めて全部で8枚ある。

「身体」のためではなく「心」のための音楽、12インチシングルとして消費されるだけではない作品として残る音楽、電子楽器を使用したテクノはダンス・ミュージックだけではなく、様々なことを表現できる音楽であることを証明したような作品群で、個人的にはカール・クレイグがやろうとしていたことを押し進めようとしていたのではないかと思っている。

(1)V.A. / Artificial Intelligence(1992)

このコンピにはエイフェックス・ツインやらオウテカやらリッチー・ホーティンやらブラックドッグやらとにかく後のスターになるような人達がこぞって参加していたという意味でも重要なのだけれど(唯一有名だったのはThe Orbくらい。エイフェックス・ツインも名を馳せていたがここでは違う名義での参加。おそらく契約にうるさいR&Sの仕業もあるのか)、このコンピが 、発売30周年を記念して、今年初めてアナログでリイシューされるようだ。

このコンピのタイトルのせいで、この手の音楽がインテリジェント・テクノなどというちょっとどうかと思うネーミングをされたりしたので、そういう意味での賛否はあるのだが、作品としては間違いなく、自分もテクノにハマった理由の一つにこのAIシリーズがあり、ダンスミュージックだけではない、シンセサイザーとリズムマシーンを使った音楽の幅の広さを知ったというのは間違いなくある。ちなみにインテリジェント・テクノというのはメディアが使っていた言葉で、当のワープはジャケットにもあるように、Electronic Listening Musicを標榜していた。

自分はこのコンピが中古などのアナログ盤で売られているのを見たことがなく(友人が一人だけ持っていたのを見たことはある)、またコンセプトの性質上CDの方が相応しいと思っていたということもあり(当時はレコード=クラブで使うものという意味合いが強く、良くも悪くもダンスものはアナログでそれ以外はCDのような風潮があった。一方でじゃあDJが使いやすいものしかクラブでは流れないのかという議論もあったり)、探してもいなかったので、これはいよいよ買わざるを得ないなと思っている。

ジャケットも素晴らしく、当時は珍しかった"CG"を使用して、リビングルームでソファーに座り、マリファナを吸って(いるように見える)、音楽を聴く男のようなものが描かれており、これもコンセプト共々とてもハマっていた。聴いている音楽は、クラフトワークの「Autobahn」、ピンク・フロイドの「The Dark Side of The Moon」、ワープのコンピ「Pioneers of Hypnotic Groove」だろうか。

このリイシューがあまり日本では騒がれていないような気もするのだが(気のせいだろうか)、個人的にはとてもとても祝祭的な気持ちになっている。

(2)Polygon Window / Surfing on Sine Waves(1993)

エイフェックス・ツインの別名義作品で、「Selected Ambient Works 84-92
」の次に出たアルバムということになる。1曲目のPolygon Windowという曲がコンピにも収録されているが、コンピの方では、The Dice Manという名義で収録されていた。「Quoth」などという「Digeridoo」路線のインダストリアルでハードなトラックはシングルカットもされている。しかし一際輝いているのは、「テクノ専門学校」にも収録されていたラスト・トラックの「Quino-Phec」というアンビエント。かの石野卓球も出た当初はこの作品が大好きで「寝ている時も含めてずーっと聴いている」的なことを言っていたと記憶している。

(3)Black Dog Productions / Bytes(1993)

3人組だったブラック・ドッグが、様々な名義で発表したトラックをまとめたコンピレーション的アルバム。分裂後、Plaid名義で中の2人が活動を始めるが、そのPlaid名義の作品も既に含まれている。カール・クレイグのPlanet Eが出した「Intergalactic Beats」に収録されていた、Balil名義の「Nort Route」という素晴らしい曲があるのだが、Balilとしての別の作品も本作には収録されている。ワープ史上、最も重要なアルバムであるとも言え、エレ・キングがワープ・レコーズ10周年の特集をした際も、最も多くのアーティストが口にした思い出深いアルバムはこれだったとのこと。確かにとても素晴らしい作品で、ブレイク・ビーツと美しいフレーズやコード、電子音が飛び交うトラックの数々が、魔法のような高揚感を誘う。

(4)B12 / Electro-Soma(1993)

何気に全シリーズの中で最も地味な印象のアルバムだが、内容はとても素晴らしい。コンピにMusicology名義で収録されている曲や、Redcell名義の曲など、過去にリリースした楽曲をコンパイルした印象もあり、純粋にアルバムとして制作されたものではないものの、シンセサイザーの美しい音色で奏でるフレーズと、剥き出しのTR-909や808によるタイトで華麗なリズムは、シンプルな音楽的な衝動を見出せて面白い。制約から自由な現代人にはこの音楽を作るのは難しいのではないかと思う。

(5)F.U.S.E. / Dimension Intrusion(1993)

コンピにはUp!名義で参加していたリッチー・ホーティンも、F.U.S.E.名義でのアルバムをシリーズに提供している。しかし、F.U.S.E.名義はダンスものの印象も強く、それらのトラックも収録されているため、このコンセプトからはちょっとずれるかなという印象もある。しかし、Plastikmanのようなトラックが既に作られていたり、シングルのダンストラック以外は、比較的AIシリーズに寄せたものと言えなくもない。リッチーには珍しい美しいメロディーやコードを持った曲もある。但し、デザインをデザイナー・リパブリックではなく実弟が手がけている、故にアルバムタイトルを()で囲っていないなど、プラス8と共同でリリースであったということもあり、異質と言えば異質。

(6)Speedy J / Ginger(1993)

プラス8からのハードテクノのリリースで名を馳せたスピーディーJが、ある意味とても意識的に、AIスタイルのアルバムを制作したのがこの作品。とても軽やかな音色を使いつつも、4/4キックが多く使われており、ただのダンスものではなく、総じて傑作と言っても良い出来栄えのアルバムだと思う。個人的にはシリーズを通して、このアルバムが一番好きだったりする。何故かSpotifyでの配信がされていないのが惜しいところである。本当に何故だ?そしてこのリリースも古巣プラス8と共同リリースではあるが、こちらではタイトルの()が復活している。

bandcampでは購入可能。Spotifyで聴けないならこちらで買いましょう。

(7)Autechre / Incunable (1993)

今となっては超人気なオウテカだが、先述のワープ10周年特集号では、「オウテカのような売れていないアーティストの作品もしっかりと支えてリリースするレーベル」のように名指しでマニア向けのように書かれていた。そんなオウテカのファーストアルバムが、AIシリーズのアーティストアルバムとしてはラストを飾っている。しかし、本人たちがはこれはコンピで、セカンドのアンバーこそがファーストアルバムと明言しているのでそうなのだろう。サードのTri Repetae以降の音とはかけ離れており、売れているオウテカ以降が好きな人にとっては取るに足らないアルバムのように聞こえるかもしれない。

(8)V.A. / Artificial Intelligence II (1994)

ファーストのインパクトは越えられなかったというか、この手の音楽がごちゃっと増えていったということもあり、あまり話題にはならなかったような覚えがある。そしてこの作品も何故かSpotifyにはいない。しかし、このコンピの最大の魅力はビデオであった。あのビデオはDVDになったりしているのだろうか。X-MIXのようなアナクロなクオリティーのCGだが今となっては懐かしさもあり改めて見てみたい。

こちらも是非bandcampで買いましょう。


とこのように素晴らしいAIシリーズの30周年を盛大に祝いたいなと思って文章を書いてみたものの、今回レコードで再発されるのは、最初のコンピだけであることも添えておく。興味を持っていただけたら幸いです。

最後にArtificial Intelligence IIに収録の、Speedy JによるSymmetryという美しい曲と、件のビデオの気持ち悪い映像のYoutube動画をどうぞ。


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