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偏愛と、愉快な違うことたち

同じことは嬉しくて、違うことは面白い。

自分と他人との共通点や差異について、そう感じられたら素敵だと思っている。


自分の欠点と相手の良いところを比べて落ち込むより、自分の欠けらはそのままに「いいなあ」と憧れたい。

インターネットやSNSの発展によって、生き方や働き方、趣味などの選択肢が増えるとともに、それらを知る機会が一気に増えた。

この環境の変化は、「好奇の心を満たす楽しさ」や「繋がる喜び」だけじゃなく、「行き場のない怒り」と「孤独感を伴う哀しみ」も一緒に連れてきた。

誰かが得をしていれば自分は損をしたように感じたり、幸せそうな人を見て妬ましく思ったり、理解できない相手の行動にイライラしたり……なんで私はこうなんだろう、とちっぽけな自分にしょんぼりする。


考え方や価値観の不一致は、食べ物の好き嫌いみたいなもの。
人の発言や意見は、どんなものでも"その人が"思ったこと考えたこと。

そう考えるようになってから、自分に変えられるものと変えられないものの境界線がくっきりして、ことばの範囲が感じられて、少しだけ生きやすくなった。

(後者の発想は、あかゆしかさんのnote『あくまでも守りたい「わたし」という一人称について』 より)


***

会社の研修合宿で茨城県ひたちなか市に行ってきた。

キラキラ輝く海を横目に、まずは真面目に語り合う6時間。

考えること、伝えること、聞くこと。
それらでたくさん頭を使ったあとは、まちに待ったBBQタイム。

食べて飲んで、歌って踊って。

花火に灯をともすと、瞬く間に消えいる儚さの隙間に、過ぎ去った夏の香りがふわりと漂う。

夏と秋が混在する夜。

こころを解放してダンサンブルな曲に身をまかせれば、燃えさかる炎が寄り添い。ふらり海に足を向けたら、打ち寄せるさざ波と闇夜を照らすおぼろ月が私のなかの秋を深めていく。

年に一度の宿泊行事にこころ浮き立つ私たち。

日付が変わっても話は尽きず、夜が深まれば20代の男女らしく恋の話で盛り上がる。

今夜のテーマは、偏愛。
女性陣が胸に秘めるフェティシズムが披露された。


「高身長」
昔から女性が男性に求めるもののひとつ。男性の私にはない感覚だけど、まあわかる。ちなみに、見下ろされてる感じと見上げる感じが良いらしい。

「院卒、学校の先生」
院に進んでまで勉強に励む姿勢や、好きなことを仕事にして、その好きなことを熱く語り伝える姿に萌える、とのこと。この偏愛属性を持ちあわせていない私でも、理由には共感する。

「地方出身 & 方言」
これは東京出身者のあるあるのひとつ、だと思う。微妙なイントネーションの違いにキュン。方言で「好きです」なんて言われた日には、もう、たまらない。結婚したら子どもを連れて相手の実家を訪れることが楽しみのひとつ、とのこと。


ここまでは想定内で許容なできごとだ。
ノープロブレム。無問題(モウマンタイ)。

偏愛の真髄を垣間見たのは次の新卒の子のフェチだった。


「八重歯がすっごく好きなんです!○○さんの八重歯が完璧で、歯型を取ったら欲しいです。メガネ、というか目が悪い人も好きです。ああ、この人は歪んだ世界を見てるんだなあ…って思うじゃないですか。あと、ほくろも好きなんですけど、紫外線に負けてメラニンが色素沈着しちゃったんだなあ...って思うと可愛いですよね!そういう人の不完全さにキュンとします」

「???」


完全についていけなかった。
日本語は理解できているのに思考がついていかない。

八重歯フェチはわかる、可愛いよね。えっ、歯型欲しいの?

メガネ属性もわかる(というか、私もあるかな)。でも歪んだ世界とか想像したことない、確かにそうだけど。

ほくろはチャームポイントにもなる。紫外線?色素沈着?……その妄想力に感服するし、一周まわって素敵すぎる。


本当に驚くと、人は思考が停止して言葉が出なくなってしまうみたいだ。これはそんな体験だった。

「違うこと」は理解できなさ過ぎると異質で気持ち悪く感じるけれど、そのこと自体、もしくは背景の思いどちらかには多くの場合共感できるものがある。

「違うこと」を自分とは別な世界のものと捉え、どこかの政党のように排除するのではなく、その違うことのなかに自分と重なるものを探していきたい。

少しでも重なりがあれば、きっと、違うことも愉快だと思えるから。


同じことは嬉しくて、違うことは面白い。

大人になった私は、世界が白黒の二項対立ではないことを知ったからこそ。

不一致の驚きをそのままにせず、私とあなたの重なるところを、ゆっくり時間をかけて探してもいいと思う。


そしたら、明日からまた少し、なごやかに生きていける気がするのだ。

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