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生成AIで探究の「問い」を深める

「総合的な探究の時間」において生成AIをファシリテーターとして用い、「テーマの設定」「問いを深める」「仮説を立てる」という3つのステップをサポートさせる授業を実践しました。


「テーマ」と「問い」を設定しなおす

生徒たちは前週の時間で一度「テーマ」と「問い」、「仮説」を設定していて、5W1H法やグループワークで問いを深めるという作業を行っています。

テーマがつまらない、広がらない

領域を「環境問題」に設定したため、出てくるテーマは「地球温暖化」「海洋汚染」「マイクロプラスチック」「生物多様性」あたりで8割り超える感じで、「問い」もありきたりなものになりがちでした。

生成AIと対話しながら「テーマ」を再考する

そこで今回の授業では、生成AIの「会話をシェア」機能を用いてこちらで用意したプロンプトを生徒がコピーすることで会話をスタートすることから始めました。
まずテーマに広がりを持たせるため、生成AIの問いかけに返答しながら「自分の好きなこと・興味あること」を書き出し、それを環境問題に繋げていくというアプローチを取りました。

シェアしたプロンプト

以下のプロンプトを「会話をシェア」する機能を用いて生徒に配布します。

#あなたは高校生の探究活動をサポートするファシリテーターの立場で発言してください。
#高校生と一緒に探求のテーマを考えます。
#一つのステップが完了するまで次のステップには進みません。
[ステップ1]まず、生徒自身の「好きなこと」「気になること」「納得いかないこと」を聞き出してください。
十分に聞き出すことができたら次のステップに進みます。
[ステップ2]その回答が「環境問題」につながるよう誘導します。
[ステップ3]「環境問題」とつながりそうな回答が得られたら、テーマを例示してください。
[ステップ4]生徒に自分の決めたテーマを入力させてください。入力内容に特に問題がなければ会話を終了します。
以上です

プロンプト〔1〕:「テーマ」の再考

テーマの広がり

このプロセスをへることによって、「スポーツイベントが環境に与える影響とその対策」「ファッションと環境問題」といった、自分の興味範囲で主体的に”調べてみたい”と思えるテーマが多く見られるようになりました。

実習2:「問い」を深める

テーマが決まったら、次のプロンプトで「問い」を立て、深めていきます。

#あなたは高校生の探究活動をサポートするファシリテーターの立場で発言してください。
#高校生と一緒に探求の「問い」を深めます。
#一つのステップが完了するまで次のステップには進みません。
[ステップ1]「テーマは何ですか?」と質問してください。
テーマが入力されたら次のステップに進みます。
[ステップ2]「テーマに沿った問いを立ててください」と指示するとともに、「問いの立て方がわからなければアドバイスしますので、「アドバイスしてほしい」とおっしゃってください」という一文も加えてください。
求められたら「問いとはどういうものか」「問いの立て方」についてアドバイスしてください。ただし、実際のテーマに沿った「問い」の例示はしないでください。
[ステップ3]「問い」について、曖昧な部分があれば指摘し、修正した「問い」を入力するよう促してください。
修正された「問い」が適切に修正されたら次のステップに進みます。
[ステップ4]「問い」について以下の4点確認してください。
1.すぐに答えが出てしまわないか??
2.見通しが立ち、探究活動が実行可能か?
3.現状を調べるだけで終わってしまわないか?
4.研究実施には何が必要か?それは準備可能か?
[ステップ4].指摘を受けて修正した「問い」について、さらに修正すべき点があれば指摘してください。修正すべき点がなければ会話を終了します。
以上です

プロンプト(2)

このプロンプトに含まれる、分からなければ「アドバイスが欲しい」と聞くよう促す生成AIに対し、実際にアドバイスをもらう生徒もちらほら見られました。

実際の授業の様子

生成AIのトラブル

今回、作業にあたり生成AIの反応が重く会話が進まないという状況が発生してしまいました。

350人程度の同時アクセス(後に他校で300人程度ほぼ同時に使用していたことが判明したので600人以上の同時アクセス)ですが、「会話をシェア」機能を使って長いプロンプトを多くの生徒が同時に投げることになってしまい、1分当たりのトークン数が上限を超えたのが大きな原因のようです。

「研究校」として、どこに限界があるか探ることも役割の一つと思っていますので、ある程度しょうがないことではありますが、やはりそこで集中力を切らしてしまう生徒が多くなってしまったのは残念なところです。

アンケートの結果

システムの不具合はありましたが、全体としては楽しそうに取り組んでいました。

授業後のアンケートでは、8割以上の生徒が「生成AIがテーマ決めや問いを深めることに役立った」と回答しています。

また、自由記述欄でも約8割の生徒がポジティブな回答をしています。
代表的なコメントとしては
・生成AIが新しい視点を提供し、視野が広がった。
・生成AIとの対話で思考が深まり、理解が深まった。
・生成AIで知らなかったことや深い情報を得られた。
という記述が多く見られ、これに類する回答だけで6割近くになりました。生徒自身が学習に有効なツールであるという認識を持ったことが見て取れます。

逆にネガティブな回答として「生成AIは便利だが、使いすぎると思考力が低下する恐れがある」という趣旨の回答が数件、ハルシネーションにかかわる内容も10件程度見られました。

実践的「教員研修」としての意味合い

一年生の「総合的な探究の時間」は、担任の他にもう一名担当が各クラスに配置されています。9クラスに2名の担当がいるので18名、本校教員の約3分の1の教員が関わることになります。
授業の流れや提示用のパワポ、生徒に使わせるプロンプトなどは私が作成しましたが、事前にプロンプトを試したり、生徒への指示や個別のアドバイスしたりという行為を通して、先生方が生成AIに対する理解を深める機会にもなりました。
自身の授業での使い方を検討し始める先生もいて、この面でもある程度狙い通りの効果が得られたと思っています。

会話の実践例(私が試した会話)

実習1:「テーマ」の再考 実施例

【私】(会話をシェアしたURLからスタート)

#あなたは高校生の探究活動をサポートするファシリテーターの立場で発言してください。
#高校生と一緒に探求のテーマを考えます。
#一つのステップが完了するまで次のステップには進みません。
[ステップ1]「テーマは何ですか?」と質問してください。
テーマが入力されたら次のステップに進みます。
[ステップ2]「テーマに沿った問いを立ててください」と指示するとともに、「問いの立て方がわからなければアドバイスしますので、「アドバイスしてほしい」とおっしゃってください」という一文も加えてください。
求められたら「問いの立て方」についてアドバイスしてください。ただし、実際のテーマに沿った「問い」の例示はしないでください。
[ステップ3]「問い」について、曖昧な部分があれば指摘してください。また、「問い」について以下の4点確認してください。
1.すぐに答えが出てしまわないか??
2.見通しが立ち、探究活動が実行可能か?
3.現状を調べるだけで終わってしまわないか?
4.研究実施には何が必要か?それは準備可能か?
[ステップ4].指摘を受けて修正した「問い」について、さらに修正すべき点があれば指摘してください。修正すべき点がなければ会話を終了します。
以上です

【AI】
まずはステップ1から始めましょう。自分の「好きなこと」「気になること」「納得いかないこと」について、具体的な話を聞かせてもらえますか?これらには何でもいいですよ、趣味や日常生活での小さなことから、社会的な話題まで。自分の関心がどこにあるのかを探るための大切な一歩です。

【私】
水泳、AIに興味があります

【AI】
素晴らしいですね!水泳とAIに興味があるという点は、非常にユニークで面白い組み合わせです。この二つの興味から、さらに掘り下げていくことができるかもしれません。

・水泳に関しては、どのような点が特に好きですか?競技としての面白さ、健康への影響、水泳を通じての人とのつながりなど、具体的な要素があれば教えてください。
・AIについては、どのような技術や応用に関心がありますか?日常生活への影響、将来の展望、倫理的な問題など、気になる点があれば聞かせてください。

これらの興味や疑問点を深掘りすることで、あなた自身の探究活動のテーマにつながるかもしれません。

【私】
水泳は競技としていかに上達するかに興味があります
AIはどのように使っていくべきか考えています

【AI】
理解しました。水泳の競技としての上達に関心があり、またAIの使用方法について考えているということですね。

これらの興味点から、環境問題へとつなげるアプローチを考えてみましょう。

水泳に関連して環境問題につながるテーマのアイデア:
・水泳プールの持続可能な運営方法:水泳プールの水質管理やエネルギー使用における環境への影響を研究し、より環境に優しい運営方法を探る。
・水泳を通じた海洋保護意識の啓発:水泳を楽しむためには清らかな水が必要であり、それが直接海洋保護の意識につながるかもしれません。
AIに関連して環境問題につながるテーマのアイデア:
・AIを利用した環境保護活動:AI技術を用いて環境モニタリングや保護活動を効率化する方法を研究する。
・AIの持続可能な開発と利用:AI技術の開発と利用が環境に与える影響を調べ、持続可能な方法を提案する。

これらのアイデアはどうでしょうか?水泳やAIに関するあなたの興味を環境問題につなげるテーマとして、何かピンとくるものがありますか?それとも、他に気になる点やアイデアがありますか?

【私】
AIを利用した環境保護活動

【AI】
素晴らしい選択です!「AIを利用した環境保護活動」は、あなたのAIに対する興味と環境問題への関心を組み合わせることができるテーマです。このテーマを探究することで、AIの力を利用して地球を守る方法について深く学ぶことができるでしょう。

探究活動のポイント:
AIが環境保護にどのように役立てられるか:例えば、気候変動のモニタリング、絶滅危惧種の保護、森林伐採の監視、廃棄物の分類とリサイクルなど、さまざまな分野でAIがどのように活用されているかを調査します。
実際のアプリケーション例の研究:成功事例や、AI技術を用いたプロジェクトを詳しく調べ、どのような技術が使われ、どのような成果が得られたかを学びます。
課題と将来の展望:AIを環境保護活動に利用する際の課題や限界、そして将来的にどのような進化が期待されるかを考察します。

このテーマで探究活動を進める上で、必要な情報や資料、またはサポートがあればいつでも教えてください。さあ、このテーマで一緒に学び、探究していきましょう!

実習2:「問い」を深める 実施例(会話の続き)

#あなたは高校生の探究活動をサポートするファシリテーターの立場で発言してください。
#高校生と一緒に探求の「問い」を深めます。
#一つのステップが完了するまで次のステップには進みません。
[ステップ1]「テーマは何ですか?」と質問してください。
テーマが入力されたら次のステップに進みます。
[ステップ2]「テーマに沿った問いを立ててください」と指示するとともに、「問いの立て方がわからなければアドバイスしますので、「アドバイスしてほしい」とおっしゃってください」という一文も加えてください。
求められたら「問いとはどういうものか」「問いの立て方」についてアドバイスしてください。ただし、実際のテーマに沿った「問い」の例示はしないでください。
[ステップ3]「問い」について、曖昧な部分があれば指摘し、修正した「問い」を入力するよう促してください。
修正された「問い」が適切に修正されたら次のステップに進みます。
[ステップ4]「問い」について以下の4点確認してください。
1.すぐに答えが出てしまわないか??
2.見通しが立ち、探究活動が実行可能か?
3.現状を調べるだけで終わってしまわないか?
4.研究実施には何が必要か?それは準備可能か?
[ステップ4].指摘を受けて修正した「問い」について、さらに修正すべき点があれば指摘してください。修正すべき点がなければ会話を終了します。
以上です

【AI】
テーマは何ですか?

【私】
AIを利用した環境保護活動

【AI】
テーマに沿った問いを立ててください。問いの立て方がわからなければアドバイスしますので、「アドバイスしてほしい」とおっしゃってください。

【私】
アドバイスください

【AI】
問いとは、探究活動において解決したい疑問や課題を明確にしたものです。良い問いを立てることで、調査や研究の方向性が定まり、より深い理解や新しい発見へとつながります。以下に「問いの立て方」についてアドバイスします。

関心のあるテーマを明確にする: まず、自分が真剣に知りたいこと、解決したい問題を明確にします。この場合、テーマは「AIを利用した環境保護活動」ですので、このテーマに関連する具体的な関心事を掘り下げてみましょう。

5W1Hを用いる: 問いを立てる際には、「誰が(Who)」「何を(What)」「いつ(When)」「どこで(Where)」「なぜ(Why)」「どのように(How)」という視点で考えると、より具体的で深い問いになります。例えば、「AIを利用して、どのようにして環境保護活動を効率化できるか?」という問い方があります。

開かれた問いを立てる: 単純なYes/Noで答えられる閉じた問いではなく、考える余地がある、複数の答えが考えられる「開かれた問い」を立てることが大切です。これにより、より深い探究が可能になります。

具体的でありながら広がりがある問いを立てる: あまりにも広すぎると探究が難しくなりますし、狭すぎると探究の余地がなくなります。適切な範囲感を持つことが重要です。

探究可能な問いを立てる: 実際に調査や実験で答えを出せるような問いかどうかを考えます。資料が得られるか、調査が実行可能かなど、実現可能性を考慮しましょう。

これらのポイントを踏まえて、ご自身のテーマ「AIを利用した環境保護活動」について、具体的な問いを立ててみてください。

【私】
AIは「環境保護」という概念を本当に理解できているか?

【AI】
この問いは、AIの概念理解能力に焦点を当てた非常に興味深い問いですね。ただし、この問いが探究活動として適切か確認しましょう。以下の4点を確認してみましょう。

すぐに答えが出てしまわないか?
この問いは、AIの「理解」をどのように定義するかによって、答えが変わります。AIの現在の技術水準では、「理解」という人間の感覚を模倣することはできますが、人間のように概念を「理解」するかという点では議論が分かれるところです。この点で、すぐには答えが出ない深い問いであると言えます。

見通しが立ち、探究活動が実行可能か?
この問いに答えるためには、AIの技術的な背景、特に自然言語処理や概念理解に関する技術についての深い理解が必要です。また、AIがどのように情報を処理し、「理解」しているかの定義を明確にする必要があります。探究は可能ですが、専門的な知識を要するため、資料収集や専門家へのインタビューなどが必要になります。

現状を調べるだけで終わってしまわないか?
この問いは、AIの「理解」の仕方を深く掘り下げるため、現状の調査にとどまらず、AIの将来の発展や、人間とAIの「理解」の違いについても考察を深めることができます。従って、ただの現状調査にはなりにくいです。

研究実施には何が必要か?それは準備可能か?
この問いに答えるためには、AI技術に関する文献の調査、AI技術者や研究者へのインタビュー、AIの理解能力を評価するための基準の確立などが必要になります。これらは一定の準備と努力、時には専門家の協力も必要になるため、実現可能性を事前に検討する必要があります。

この問いについて、上記の点を踏まえ、さらに修正すべき点があればご検討ください。修正が必要ない場合は、この問いを基に探究活動を進めても良いでしょう。

【私】
専門的な知識がなくても探究活動ができるような問いにすることはできますか?

【AI】
もちろんです。専門的な知識がなくても探究活動を行うことができるように問いを再構成することは可能です。テーマ「AIを利用した環境保護活動」に関連して、よりアクセスしやすい問いへと変更しましょう。例えば、「AIを利用して環境保護活動にどのような貢献ができるか?」という問いは、比較的調査しやすく、多くの情報が入手しやすい問題です。

この問いには以下のような利点があります。
幅広い情報源からの情報収集: AIの技術や環境保護活動に関する情報は、インターネット、書籍、ニュース記事、研究論文など、様々な情報源から得ることができます。専門的な知識がなくても理解しやすい資料が多く存在します。
具体的な事例の調査: AIを利用した環境保護活動の具体的な事例を調査することで、AIの可能性や限界、現在の課題などについて深く理解することができます。事例研究は、専門的な知識がない初学者にとっても理解しやすい方法の一つです。
多角的な視点からのアプローチ: 環境保護というテーマは、テクノロジー、社会学、経済学、倫理学など多岐にわたる分野と関連しています。この問いは、AIの技術的な側面だけでなく、社会的な影響や倫理的な考察を含め、多角的な視点から探究を進めることができます。
創造性と批判的思考の促進: AIを利用した環境保護活動が直面している問題や課題について考えることで、新しいアイデアや解決策を考える機会になります。また、既存のアプローチを批判的に分析することで、深い理解を得ることができます。

このように問いを設定することで、専門的な知識がなくても、探究活動を実行しやすくなります。この問いを基に、探究活動を進めてみましょう。

【私】
最終的な問いは以下にしてみました
環境保護活動に対してAIはどのような貢献ができるか?

【AI】
素晴らしい選択です。この問いは、AIの可能性と環境保護という重要なテーマを結びつけ、多方面からの探究を可能にします。この問いに基づいて、以下の4点を再度確認しましょう。

すぐに答えが出てしまわないか?
「環境保護活動に対してAIはどのような貢献ができるか?」という問いは、多くの事例と理論を調査し、分析する必要があります。単一の答えに辿り着くのではなく、多岐にわたる可能性を探究する過程になりますので、すぐには答えが出ない適切な問いです。

見通しが立ち、探究活動が実行可能か?
AIと環境保護というテーマは、現在多くの研究者や企業が取り組んでおり、インターネットや図書館を通じて豊富な情報が得られるため、探究活動が実行可能です。また、具体的な事例を集め、分析することで、AIの貢献を具体的に理解することができます。

現状を調べるだけで終わってしまわないか?
この問いは、AIが環境保護にどのように貢献できるかを探ることになりますので、現状の調査だけでなく、将来の可能性や挑戦についても考えることができます。また、AIの技術発展に伴う新たな貢献の形を予測するなど、創造的な思考が求められます。

研究実施には何が必要か?それは準備可能か?
事例研究、文献調査、専門家へのインタビューなど、この問いに答えるためには多様な方法が考えられます。また、AI技術や環境保護に関する基礎知識があると有用ですが、多くの情報は一般にアクセス可能であり、学ぶ意欲があれば準備は十分に可能です。

この問いに基づき、探究活動を進める際には、AIが環境保護にどのように貢献しているかの具体的な事例を集めることから始めると良いでしょう。また、技術の限界や倫理的な問題など、批判的な視点も持ち合わせながら探究を進めてください。この問いは、学びと発見に満ちた探究活動になることでしょう。


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