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肉食とヒト。悠久への旅

この記事の主な参考文献
「人類はなぜ肉食をやめられないのか 250万年の愛と妄想の果てに」
マルタ・ザラスカ 著

『人類はなぜ肉食をやめられないのか』という本を読んでぼくが印象に残った部分をまとめました。

この本は「肉は体に良くないよ」と言うスタンスのカナダ人ジャーナリストが、それなのになぜ人類は肉食🖤なのかについて考察した本。

部分的にネット情報などで盛ってまとめてます。

祖先はヴィーガン

6500万年前の祖先

初めての霊長類といわれてるのは、マウスとリスの中間のような姿のプルガトリウス。

体長は10センチほどの木登りの名手。

そのプルガトリウスの子孫の一部が後に進化して人類になったといわれている。

この時代は地球全体の気温が高く、世界中に熱帯雨林が広がっていて、プルガトリウスのすんでいた北アメリカにも亜熱帯性の森林が広がっていた。

果実をつけるタイプの樹木も同じ時代に繁栄し始め、それまでの祖先のような虫中心の食をやめ、森林の樹上で主に果実を食べるようになった。

プルガトリウスの子孫たちは、それから何千万年もの間、植物中心の食事を続けていた。

人はいつ肉を食べはじめたか

時はたち、今から250万年前に起こった気候変動は、それまで多く存在した多雨林を草原に変えてしまった。

そこでは、人類の祖先が食べるのに適した植物がほとんど実らず、一方で草食動物の数は増えていった。

初期のヒト属(この時代はホモ・ハビルス「器用な人」)は、この環境の変化に順応する過程で肉食を採用した。

人類の特徴である大きな脳はエネルギーを大量に消費する。

脳が大きくなるには、他の臓器である腸に消費されるエネルギーを切り詰める必要があった。

腸が短くなるためには、カロリーの高い食事が必要であり、そのような面からも肉は適した食べ物だった。

こうして人類は、サバンナにいた草食動物たちの肉を食べ始めた。

肉食という手段を取ったことで行動範囲は広がり、その後アフリカから世界各地へ出ることが可能となった。

生きていくために、当時は手に入る食べ物の中で肉が最善の選択肢だったということ。

肉食🖤が形成された背景

欧米発、肉食の栄養神話

19世紀のドイツ。ユストゥス・フォン・リービッヒという学者らは、タンパク質だけが本物の栄養素であると賛美し、また人間が丈夫であるためには肉が必要であると主張した。

リービッヒの弟子のフォイトにおいては、激しい労働を行う人は1日あたり150グラムと言う膨大な量のタンパク質を食べるべきと主張した。

しかもそのタンパク質の35%以上を肉から摂取すべきであると勧告。

これには彼らのほとんどがもともと肉をとても好んで食べていたという背景があった。

世界はこれを間に受けた。

この神話の影響は、現代にも根強く残っている。

だが、たとえばアメリカ疾病管理予防センター(CDC)によれば、平均的アメリカ人のタンパク質必要量は1日あたり、体重1キログラムにつき、わずか0.66グラム。

当然ある程度のタンパク質を摂取することは重要だが、動物の肉を摂取する必然性はない。

日本で肉食が普通になったのはいつ?

この著者は日本のことを「東アジアにおいて、肉の食欲を確立させた最初の国」と評している。

典型的な日本人は、1939年というさほど遠い昔ではない時点でも、1日に肉を食べる量は年平均でわずか2.8gであったらしい。

ほとんどベジタリアンなその状態から、わすかな期間で日本人は肉を愛好するまでになった。

この驚くべき変化の背景には西洋の影響がある。

中世の日本は、ベジタリアン同然の国だった。仏教と神道は、どちらも植物を中心とした食事を奨励していた。

また何より中世の日本ではあまりに多くの森林は伐採され、田畑に変えられていたため、動物性タンパク質を育てるための耕地が不足していた。

一方で人口は増加し、やがて鹿や猪の姿は消えていった。

こうした状況下で、支配者たちは肉食禁止令を発令し、多くの種類の肉食を禁止してきた。

それが18世紀になると変化の風が吹き始める。

最初の変化をもたらしたのはオランダ人だった。

オランダ人の影響により、日本人はやがて体の大きなヨーロッパ人たちが食べている肉は進歩の証であり、封建的な社会からの決別の象徴であるとみなすようになっていった。

1872年、明治天皇が公の場で初めて牛肉を食べ、国民に肉を食べる許可を与えた。

それからわずか5年間で、東京における牛肉の消費量は13倍以上に跳ね上がった。
(当時の肉の主な調達元は朝鮮)

それでも肉食に対する忌避感は近代以降まだしばらくは残っていた。

しかし、食の欧米化や大規模な多頭養豚経営、肥育牛の食用への転用などにより、1955(昭和30)年ごろからは急速に肉食が一般化してゆく。

その結果、戦後生まれの世代からは肉食があたりまえの世の中となり、現代に至る。

ブロイラー(食肉専用・大量飼育用の雑種鶏の総称)が出てきたことで、鶏たちが大量生産されるようになり、仕事帰りに焼き鳥で1杯が可能となった。

肉食は健康か

肉の栄養素

肉にはカロリーだけでなく重要な栄養素、すなわちビタミンA、B1、B6、B12、Kに加え、必須アミノ酸、鉄分、カルシウム、亜鉛、ナトリウムなどが詰まっている。

ただしこれらの栄養素は肉以外からとることもできる。

例えば豆類と炭水化物を同時に食べることで、必須アミノ酸の全てはまかなえる。

ピーナッツバターサンドや、ブリトーなど。

ビタミンB12は、肉、卵、乳製品に多く含まれるが、これらは魚介類、藻類からも摂取できる。

現代の肉について

今日私たちが購入している肉は、旧石器時代のサバンナで祖先が手に入れていた種類のものとは異なる。

現代、私たちが食べている肉の大部分は、骨格筋を大量につけることを目的に飼育され、狭い場所に閉じ込められ、人工的な餌を与えられた家畜の肉である。

そうした肉には、飽和脂肪が多く、したがってあまり健康的ではない。

健康リスク

動物性タンパク質ばかりの食事をしていると、腎臓機能が低下する。特に糖尿病の人は腎臓がまったく機能しなくなることさえある。

また炭水化物に対するタンパク質の比率が高い食生活をしていると、骨粗しょう症や心臓病、がんなどのリスクが高まるといわれている。

もっと身近な健康リスクの例は、便秘。

19世紀半ばまで、便秘がアメリカ人の国民的な悩みとみなされていたが、肉が多く野菜の少ない食事がまさにその原因であった。

生殖能力への影響

進化は必ずしも長生きする人間を好まない。

遺伝子は、長生きする人間よりも、多く子孫を残せる人間を好むから。

より多くの動物性タンパク質を消費するほど早く生殖能力が備わり、その結果、より多くの子孫を残せることがこれまでの研究でわかっているらしい。

それでも人類が肉食🖤の理由

おいしいから

草食動物の肉を調理すると、メイラード反応と呼ばれる独特の芳香が生まれ、人々を魅了する。肉の芳香に関わる物質は1000以上もあり、また脂肪も食欲をそそる。

メイラード反応には、アクリルアミドという発がん性物質を発生させる可能性があるという負の側面もあるが。

また芳香だけでなく、食感のなめらかさ、溢れる肉汁、しっかりしたかみごたえなどの感覚も、人々を魅了する。

他の食べ物がどれほど豊富にあろうとも、決して満たされることのない、動物の肉への普遍的な渇望のことを、肉飢餓と言うらしい。

男らしさ、強さ、社会的ステータス


旧石器時代のマンモス狩りの主目的は、肉ではなく象牙であったらしい。

様々な道具や装身具、芸術作品を作るために大きな動物を求めた。

また社会集団で暮らす人々にとって、力強い大きな動物を仕留めること自体にも意味があった。

狩猟採集社会では、有能な狩人が、若く働き者の妻を得られ、狩りの下手な男よりもたくさんの子供を授かる傾向があったことが研究からわかっているらしい。

また現代では、発展途上国の多くの人々にとって肉は現代化や進歩、階級的な社会からの決別を象徴するものとなっている。

祖先から学ぶ、これからの食

肉食の歴史をたどると、祖先が非常に高い順応性をもっていたことがわかる。

生まれつき肉食だったのではなく、日和見主義的に、昆虫から果実へ、果実から草や木の葉へ、草や木の葉から肉や塊茎へと、環境に順応するために、その都度食事を変化させてきた。

昨今、肉の消費を減らさなければ地球温暖化や水不足に直面する可能性は著しく高いといわれている。

だが肉食の歴史をたどってみれば、例えば日本では誰もがあたり前のように肉を食べるようになったのは、せいぜい半世紀程度のことだ。

祖先たちから学ぶべきことは、完璧な今の食事を求め続けるのではなく、その時々の状況の中で、それぞれが最善な食事のスタイルをフレキシブルに選択してゆくことだ。

以上。

人間の肉との関わりの歴史は、も少し色々調べてみる必要がありそうと感じました。

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