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2019ベルリン観劇記録(15)『abgrund』

10月20日

abgrund 

劇場 Schaubühne シャウビューネ

作 Maja Zade

演出 Thomas Ostermeier トーマス・オスターマイアー

舞台美術/衣装 Nina Wetzel

音楽 Nils Ostendorf

サウンドデザイン Jochen Jezussek

ドラマトゥルギー Maja Zade

照明 Erich Schneider 


シャウビューネ所属のドラマトゥルクMaja Zade 劇作家デビュー二作目。演出はシャウビューネの芸術監督でもあるトーマス・オスターマイアー。(同氏演出の東京芸術祭2019招聘作品『暴力の歴史』は10/24-26, 東京芸術劇場)


オスターマイアーの演出を初めて観たのは2005年の『ノラ』(「日本におけるドイツ2005/2006」の招聘)だった。何しろ、多感な演劇学科演出コースの一年生が初体験した<ドイツ演劇>である。<ドイツ演劇>といえばオスターマイアー的な演出、という刷り込みがあることを、否定できない。例えばミュンヘン・レジデンツテアターで『群盗』(※1)を観て以来すっかりファンになってしまったUrlich Rascheの演出に注目していても、彼の作品をthe ドイツ演劇!とは思わない。『ノラ』以降、渡独の度にオスターマイアーの新作をできる限り観るようにしているのだが、学部生時代からのハロー効果が強く残っている為か、だいたい何を観ても「安心のオスターマイアー演出だなあ、よ、待ってました、ドイツ演劇!」と感じてしまう。

※1 ラッシェ演出『群盗』のトレイラー↓


スマートフォンに代表される電子機器の技術進歩を巧みに取り入れ、ライブ映像の使い方も常にブラッシュアップしている。昨年『暴力の歴史』を観たときは、スクリーン全体にライブ中継しても荒くならないiPhone の画質に驚いた。常にユーモア、皮肉を忘れず、テンポの良い会話と間合いで面白く見せながら、締めるところはしっかり締め、吐き出したものを反芻しようが、土を口に含もうが、血糊でべちゃぐしょになろうが、オシャレでスタイリッシュな世界は崩れない。(個人的な理由による先入観はあろうと思います)シャウビューネの客席は段差がしっかりあり、一番安い席でも舞台全体が100パーセント見えることもあり、オスターマイアー演出の上演で集中力が切れることはまず無い。

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さて、abgrund が描くのは、六人の男女が表面的な会話を楽しむホームパーティの断片だ。後半でかなり厳しい事件が起こるのだが、そこは<ドイツ演劇>なので安易に同情や同調を求めはしない。客席は驚くほど温かく、冒頭で装着が指示されるヘッドフォンのチェック音声にさえ、いちいち爆笑していた。照明オペレーターの隣に座ってヘッドフォンに入るマイク音声のモニターをしていた女性が、「そんなにウけること? 笑いすぎじゃない?」と私に話しかけてきたほどだ。

いくつかの演劇批評(※2)で「特に機能していない」と指摘されているヘッドフォンだが、外国人の私には「よく聞こえるからありがたい配慮」だった。演出効果は、距離を近く感じる割に空虚な会話が尚さら空虚に響く、だろうか。第四の壁には多くのシーンでごく薄い紗幕が下りている為、他人の生活を覗いている様な印象を受ける。

会話の流れで葛藤や対立が高まってもオチを見せずにシーンが切り替わる。彼らの上っ面を断片的に見せて行くことで、現代人の「他者への無関心」が悲劇を起こしえる、と伝えたかったのだろうか。前撮りの映像は状況説明以上の効果を生んでいないと思う。ライブ映像の扱いも精彩を欠いている印象だ。

良い意味で目立つのが「スマホをいじる」行為で、気まずい、退屈、一人になりたい、と様々な感情を表現する。終盤では、加害者の親に「話したくなったらいつでも電話してね」と言いながら帰宅のタイミングを探すソワソワ感や、いざ電話がかかってくると「ええ、どうしよう、私無理、あんた出てよ!」とスマホを渡そうとする友人、「なんで他人のスマホで俺が話さなきゃならないんだよ!」と拒否する友人たち、などを見せつけられる。観客の多くは嫌な気持ちになると言うより、「あるあるw わかるw」と自分たちのカリカチュアを受容し、笑っていた。

今までに観たオスターマイアー演出と比べてしまうと特に目を引く部分はなかったのだが、特筆すべき所のない戯曲でもかなり面白くしてしまう演出力と出演者の技は、流石としか言いようがない。

abgrund 出演者6名(子役がもう1名)のうち3名、Laurenz LaufenbergChristoph GawendaAlina Stiegler は『暴力の歴史』にも出演。Christoph Gawenda は「ふじのくに⇄せかい演劇祭2018」に招聘された『民衆の敵』でストックマン医師を演じています。


※2 ご参考までに↓


ドイツで観られるお芝居の本数が増えたり、資料を購入し易くなったり、作業をしに行くカフェでコーヒーをお代わりできたりします!