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#80読書から旅する⑨

今回はこちら、

『ベロニカは死ぬことにした』
パウロ・コエーリョ 著 江口研一役

この作品も例の「ポルトガル」テーマの延長。とはいえ、原著がポルトガル語であって作者はブラジル人である。
著者もその作品も世界的に有名だし、この本も、もう世に出されて四半世紀経っているそうだが、私は一昨年ぐらいに初めて同氏の『アルケミスト』他数編を読んだだけで、実は、この本では手に取って初めて、同市の作品だと気づいたほどだ。
『アルケミスト』は世界中の万人が認める良書で私も同意するが、個人的には『星の巡礼』や『第五の山』の方が面白く読んだ。

さて、肝心の『ベロニカは死ぬことにした』であるが、ストーリー云々より、次の単語をキーとして感想を書く。

音楽(ピアノ)、絵画(ビジョン)、図書館司書、修道院、法律、弁護士、同僚に配偶者や家族

これらが徹底的に無機質なものに追いやられる舞台設定。
彩りを持っているはずの音楽や絵画でさえ、ところどころで人間の熱が窺えるものの、努めて限りなく透明のグレーで覆おうとする主人公ベロニカの言動が、とても情熱的に、生きることに必死(この字面はなんとも皮肉だが)に見えてくる。
ー果たして、ラストはそうなるのだけれど。

また、生きるとは、どうあれ、やはり己ひとりで空(くう)を突き進んでいくことであり、普段どっぷり浸かって右往左往している環境や他者との関わりは、結局は副次的に現れる幻想に過ぎない。

人であることに他者から強制的に制限をかけられる壁の内側の、この物語は、私自身が己ひとりであることに覚悟を決めることを促してくる。

追伸:原著の素晴らしさを、訳文が余す所なく(或いはそれ以上かもしれないが)伝えてくれる小説である。

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