『記憶する体』(伊藤亜紗、春秋社、2019)

『記憶する体』(伊藤亜紗、春秋社、2019)

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多様な障害を持つ12人の「体の固有性」について記した本。それぞれの身体の記憶性を探っているはずが、読んでいるうちに自らの身体と対話しているように感じるから不思議。「おい、お前はどうだ」と自らの身体が他者として現れ、対話する。知見を広げる読書というより、感覚を深めることができた読書で非常に有意義だった。

エピソード8の「VRは思い出体験」はなんとなくわかるような。サッカーをしていたからか、サッカーゲームでスライディングボタンを押すと、右足の太腿部分が「ピクッ」と動くことはままある。瞬間的な「通電」・・・。スライディングをするときに、どの筋肉を使うのかわかっているからこその反応なのかもしれない。そう考えれば、ヴァーチャルと現実の境界を越えることは容易なのかもしれない。アクション映画を見ていると、攻撃を思わず避けてしまうような。

エピソード11で取り上げられた若年性アルツハイマー型認知症の大城さんの話で、無意識に合わせる行動ができなくなり「野球やゴルフなど、テレビゲームがとても下手になった」(P.256)と書いてあった。これはイップスとも似たような症状なんだろうか。ミスが怖くなって、オートマティックな機能が失われた結果、これまで通りの動きができなくなったという意味で。
イップスも、エピソード10に出てくる柳川さんのように「極を作る」ことによって解消されるのかもしれない。沖縄タイムスが紹介した元プロ野球・ロッテの川満寛弥投手はイップスの克服の転機となったのが遠投を取り入れたことだという。「思い切り投げるうちに指先の感覚が戻ってくるようになってきた」(2020年2月18日15面)。これも「キャッチャーミットを狙って丁寧に投げる」という極と、「何も狙わずただ力任せに投げる」という極を生み出したことによって「安定性」が戻ってきたのかもしれない。

身体は自らのものであり、自らそのものである、という自明性が揺らぐ。そのことによって身体を意識し、身体と向き合うことができた。オートマ整備をしながら、日常を過ごすという新たな楽しみが生まれた。

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