個人的2023年ベスト映画
今年劇場鑑賞した映画で、特に印象に残ったものを10本選びました。
10.アステロイド・シティ
最初から最後まで全てが虚構で良かった。戦争、宇宙人、核実験、母親の死。全てこの世のどこかで起きているかもしれない出来事なのに、そのどれもがポップで嘘臭い。皮肉なことにその嘘っぽさに現実世界で起きている社会的事象を想起してしまう、という構図が妙だった。
9.J005311
説明的な描写はほとんど無く、登場人物に密着するようなカメラワークはとにかく見づらく、1カットが極めて長く、何も変化が起きないような時間が大半を占める。録音環境も劣悪で、登場人物が何を言っているのかもはっきり聞こえない。
しかし、この作品の極端な不親切さこそが、逆説的に物語に深みを持たせている。この男はどこへ向かおうとしているのか、何を思い何を伝えようとしているのかを、登場人物の些細な表情の変化から読み取ろうとさせる。退屈せずラストシーンまで粘り強く観つづけてほしい。
8.いつかの君にもわかること
派手なストーリーの起伏は無いものの、窓越しの他人の豊かな生活をいくつも見つめ、養子縁組の面談を何度も重ねながら、息子にとっての幸福と自らの死生観について考えていく素敵な映画だった。ジョンが白線の上を落ちないように歩くシーン、切なすぎるぜ。
7.枯れ葉
好きな相手のために食器を買ったり、食事を作ったりするという行為が、万国共通でこれほどかけがえのないものであることに嬉しくなった。
食前酒(アペリティフ)を一気飲みするシーンとか、最後まで若さにしがみつこうとするカラオケ王が滑稽で良かった。
6.ゴーストワールド
卒業式を終え、校舎に向かって中指を立てるシーンで名作を確信した。社会に迎合しようとするレベッカと、現代的な価値観に対するアンチテーゼを抱えながら生きるイーニド。資本主義に順応するのにも、興味のあるアートやカルチャーを突き詰めたりするのにも同じくらいの覚悟と熱量が必要なんだろうな。
「彼の良さを分かってあげているのは自分だけ」と思い込むイーニドの存在が、シーモアの目に魅力的に映らないのは、彼が確固たる自分の世界を持っているからであり、イーニドにはそれが無いからだろう。何者にもなれず幽霊のように街を彷徨わないために、おれも仕事や趣味に誠実に向き合おうと思った。
5.aftersun / アフターサン
前半はトルコの青々とした空や海の映像がシームレスに繋がり、DVカメラを通して父と娘のヴァカンスの様子が紡がれる。
娘のソフィは父親と過ごす以外の世界にも気付いていき、次第に大人になっていく。一方、31歳になるカラムは父親としての責務を立派に果たしながらも、ふと自身の過去(おそらく性自認)に関する深い悲しみに襲われる。
物語の後半でカラムがソフィに伝えた「何でも話してほしい」というメッセージは、娘の将来を思う気持ちだけでなく、苦悩を打ち明けることができなかった過去の自分へのメッセージでもあると思った。
テレビや鏡に反射する2人を定点で映した長回しのカット、今年観た映画で一番良かったな。
ラストシーンは不思議な形で幕を閉じたけど、人の感情というのはそんなに分かりやすいものではないし、このくらい多様な解釈を許す方が作品として面白いと思った。
4.まーごめ180キロ
"大鶴肥満というのは、まーごめの器でしかないんですよ。大鶴肥満は空っぽで、まーごめを注ぐことで大鶴肥満が完成する。"
めちゃくちゃ笑った一方で、学生時代に受けていた壮絶ないじめを語るシーンや3年ぶりに訪れた実家での不和はかなり心にくるものがあった。2時間の密着映像を通して、大鶴肥満の「まーごめ」は単なるギャグではなく、心の隙間を埋めるための魔法の言葉のように聞こえた。
3.RRR
昨年10月公開の映画だが、観るタイミングを逃してしまい年を越してしまった。まさに友情・努力・勝利という感じで、テーマパークのアトラクションに乗ったみたいな爽快感と充実感があった。
2.エドワード・ヤンの恋愛時代 4Kレストア
『牯嶺街少年殺人事件』(1992)と比べるとストーリーは随分と分かりやすく、メロドラマ的。登場人物は相手の話を遮りながら自分の思いを吐き出し、すれ違い続ける。色鮮やかな台北の街から、灯りのない空間へと映像が移り変わっていくにつれて、自分が本当に望むことに気付き、親密さを獲得していく。素晴らしいラストシーンだった。
1.PERFECT DAYS
繰り返される一日のルーティンと、トイレ清掃に対する丁寧な仕事ぶりに平山の几帳面さと献身性が浮かび上がってくる。
不満の無い日々を過ごしているように見える彼だが、姪のニコには「(妹と自分は)住む世界が違う」と話す。平山が清掃する公衆トイレはどれもデザイン性に優れた綺麗なものであり、その違和感が利用者と管理者、貧富の隔たりをより強くしているように感じる。小さな幸せを見つける彼の生活は彼自身が望んだものではなく、家族との不和をきっかけとする、諦めの末にあるものではないか。
居酒屋ママの元夫、友山の言葉をきっかけに、平山は父親との確執と向き合う覚悟が出来たのだろうか。素晴らしい映画だった。10段階で言うと10です。
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