03 AEE, 新人世の課題
2017年の 9月から、2018年の6月にかけて私は デンマーク王立芸術アカデミー (以下KADK)のarchitecture and extreme environment(以下AEE)に交換留学しました。
今回はセオリーベース、次回は実例ベースで。AEEは何が特徴なん?というのは、まずは、暇な時にこの動画を見てみてください。
↑映画の導入みたいな動画ですが、フルスクリーンでイアホンして音楽と一緒に楽しんでいただければ、感じが分かります。
で、ホームページの方でテキストとしてはプログラムの内容が詳しく書いてあるので、 こちらを参照しようと思います。毎年、アマゾン等極限環境にいって動画とって旅行するプログラムならヤッター!なのですがそうではないようです。以下少々ホームページから抜粋
KADK_programme_architecture-and-extreme-environments
This Master programme pursues to explore the intersection between architecture, technology, culture and environment. Through a site-specific approach, we aim to respond to present and future global challenges through research by design and direct on-site involvement in the form of active expeditions to remote world locations where prototypes are put to the test and buildings are designed...中略
Architecture today often abandons site-specific knowledge and local design traditions that have allowed for sustainable and resilient environments. Parallel to this reality, science and technology
than what is currently applied to building and component design....中略
During the first semester, investigations and study on the proposed theme/site, generates areas of interest to be explored through 1:1 prototypes challenging present building component solutions, and engaging in environmental simulations. These 1:1 prototypes and components will be transported to the regions in question, tested and assessed during the expedition, which allows for concrete performance studies, and collaboration with the local community and institutions.
だいたい上記に書いている通りなのですが、キーワードを探すと、
site-specific knowledge and local design traditions = サイテスペシフィックな知識と伝統、これに並行して科学の語彙
1:1 prototypes challenging present building component solutions, and engaging in environmental simulations = 1:1のプロトタイプによって現代の建築要素に問いを投げ掛け、環境シミュレーションで解明をこころみる。
これがAEEのいうなればメインクエスト。 プロダクトデザインの手法でExtreme Userを想定する考え方がありますがそれの建築バージョンのようなものです。 例えば、アラスカ等めちゃ寒い 場所では、通常の建築以上にて断熱性が求められますし、 取れる材料にも限りがあります。 そういった状況でも成立するような、素材のあり方、物流のあり方を考察し、 ローカルな問題解決を図るのみならず、その手法を他の環境での新たな解法(イノベーション )にならないか交差点を模索するプログラム。9月開始で11月ごろの実地調査までフルで準備期間で、1ヶ月くらい現地に滞在して帰ってきて各種レポートをかくとこまでが1セメスター(半年)です。これがメインですが、実際にこれを遂行しようとすると特殊な知識や技能が必要になってきます。そこで筋トレとして以下のようなサブクエストをメインと同時並行でこなします。
-Digital fabrication and performance assessment: 木とか鉄を加工します。
-Visual Registration: Mapping methodologies: 調査かねてインフォグラフィックやります。
-The generation and use of data with an architectural prototype: arudinoとか ラズパイ使ってデータとります。
-Critical Thinking seminar: 自分の取り組みや思想を歴史的に位置付けたり自己批判したり、また学会に出すレベルの科学ペーパーとしてアウトプットしてもらいます。
-Environmental Simulation for Sustainable Design: grasshopper とかで光とCFDやります。
これらは、ヘッドのdavidの言葉をかりれば全てcrutial=超重要かつ必須、であります。ちなみにワークショップ等を少しでも遅刻したりサボれば減点されるようで、私は初回のミーティングに10分くらい遅れて入ったらdavidに凄い形相で一瞬にらまれて、おまえ...まあ交換留学生やし...腹立つけど今回はつっこまんといてやるか...みたいな顔やって、ヤバイこれは初回からやらかしたやつ、、、 とめっちゃ冷や汗かきましたし、 友達は講評会を5分遅刻して遅れたらDavidが扉の鍵を閉めて中に入れなくなりました。 (結局その時は発表してない。)そのとおり、AEEはスケジュールきつく、提出物が多く、かつ緊張感がパナイのです。面白いことに、このAEEプログラム、地元デンマーク学生に人気がありません、というのもAEEで少しでも課題の進め方でつまづくと週末が消えるので、土日は地元の友達や家族とヒュッゲしたいデニッシュにとってはそもそも不可能なスケジュールだからです。故にAEEにいるデンマーク人はちょっと変わったエクストリームな印象(後にインターンいって初めてデンマーク人という生き方やヒュッゲというものが分かった)他はヨーロッパ諸国や中国とかからの留学生です。
↑Infographicのエスキース、指摘が細かい。レイアウト、スペーシング、フォントetc 思えば日本でしっかり体系化したグラフィックというものを勉強していなかったなと
AEEプログラムの設立者であるDavidのバックグラウンドはAEEの取り組みの相対的な位置付けを確認する手助けになります。彼はUKのバートレット校でピータークックの薫陶を受け、 卒業後はノーマンフォスターとHenning Larsenで実務を経験したのちAEEを設立しています。ピータークックといえばUKの建築界隈で絶大な影響力を持っている(と思っている)アーキグラムの人、ノーマンフォスター卿は言わずと知れた世界のハイテック建築家です。Henning Larsenは、勝手な印象ですけどデンマークの日建設計みたいな感じ?AEEの目指す所は彼の背景の影響を個人的に感じます。ピータークックからはスペキュラティブな表現力の要素、ノーマンフォスターからはハイテックかつ軽量を志向するアーキテクチャー要素、ヘニングラーセンからは土着性とサステナビリティ要素をついでいる感じです。AEEで行われるインフォグラフィックや動画製作のようなイメージを換気させる表現技術、センサーやシミュレーションを使った数値化や極限環境と対話するための装置(デバイス)、そしてこれらをUN17等のゴールに社会的に関連付けていく志向性は、少なく彼の背景が反映してるのだろうと。どれも日本ではあまり教育現場でふれない項目なので興味深い。建築について語る時、どれぐらいのタイムスパンをイメージしてるかは、その目指している思想の射程を暗に物語ますがdavidがプログラムのプレゼンの最初にスライドで言及するのはAnthropocene人新世です。Anthropocene自体は、ドイツ人大気化学者パウル・クルッツェンによって提案された造語で、人類が地球の生態系や気候に大きな影響を及ぼすようになった近年の地質学的な時代を表しています。その中で私たちの人類の発展は常に建物の建設と共にありました。人口の急激な増加、世界規模でのセメント使用の増加、環境の変化、自然災害増加、、、、。建築の話題は、インターナショナルな議論だというわけです。
↑人口増加に比例して世界中でコピペで大量のビルが複製される。中国のビルのイメージ。画像*1
How can architecture deal with these challenges? The course functions as a bridge between design, reseach and practice at an international level sharing solution across boarders. (レクチャーより引用)
AEEで課題を通し、得に今回の例でいえばイギリスや北欧といった北ヨーロッパ圏を中心として重ねられてきた建築の美や意義に関する議論の系譜を追体験しているようで、自分は文字通り島国の中にいたのかもしれないと焦りのような気持ちを感じました。議論のスケールが日本と違う。これはAEEと話がそれてきますが、どうやらヨーロッパの方がどちらかといえば、地球規模で物事を捉える傾向があるというか、特にヨーロッパからアフリカ、中東辺りまでは自分ごとの問題、みたいな感覚という感じか。特に、デザイナーが意匠の話をしている時やエンジニアが技術の話をしている時に、その議論の目線の先にこういった「社会」があるかどうかという点で、大きく日本と違えてみえます。どんな技術を扱うにしろ、それで誰にどうすんの?という問いが常にあって、英語でいえばso what? 例えば、開発シーンであるような、か分からないですが、需要あるか分からないがとりあえずこんなサービスorプロダクト作ってみた、気になる人は連絡ください!的ノリ(目的なきDIYというか、無論pros consはあると思ってる。)がヨーロッパであまりなく、誰が求めてるかも分からないものにわざわざ個人個人の時間を投資しません、もっといえば、金(=需要)がなければ仕事しません、てスタンスで、彼らの効率の良さと保守的態度の一旦という感じで、だからプロジェクトのSet up期間には市場やユーザーリサーチは割りと念入りにやり、同時にEUのファンドや個人投資家にアプローチして資金計画を進める過程でビジネスを市場が金を出す形に修正してきます。そもそも、そういうエコシステムのようです。たしかに日本は島国で内需が強い面はありますが、それでも日本の技術や資源で地球規模の課題に影響を与えるような考えをしてきただろうか、例えばせめて韓国や台湾、フィリピン、シンガポールといった国と国境をまたいで議論でもしたかというとまだwell...not muchでまだまだ何かできるなあと思ったのでした。話は変わりますが、学部の頃は「若いうちに海外に行け」みたいなアドバイスに対して否定的で、いや海外行くぐらいで実力つくんやったら苦労せえへんで、カントだって生涯ほぼ故郷のケーニヒスベルグを出ることなく偉大な著作を書き上げていたじゃあないか、と思っていて今でも半分くらいそう思っていますが、半分は考えを改めました。たしかにこういう思考のフレームワークの違いは海外の地で現地の場所に長期でいて人とコミュニケーションとらんとわからないわ、なぜなら日本に居てメディアからくる情報はそれを伝える海外経験のレポーター達(私含め)のフィルタリングで偏り、島国に住まう我々日本人は彼らの語る海外情報の真偽を判断できないからです。その意味で海外行って一次情報の質に触れた方がいいとは間違いなく言えます。羨ましいのは、ヨーロッパなんて大陸は地続きでEU内ならパスポート無しで1万円くらいで言語の違う他国に行けるのですからヨーロッパにいる人の方が世界のリアル(1次情報)に触れる機会が多いわけで、道理でヨーロッパの人の語る世界情勢に関する話題には日本で聞くそれよりリアリティを感じるわけです。サスティナビリティの議論にしても同じことがいえると思います。SDG17の6番目の水の問題がどうしてゴールになってるのかは上水と特に下水処理インフラの整った日本ではピンとこなかったり、日本にいて持続可能性の恩恵を感じる機会って都市部だとエネルギー効率のいい設備設計のおかげでの光熱費台が安くなったとかの数値的指標でしか関連せずリアルを味わえません。本当の所、持続可能性は他にもやりようはあると思っています。前回、我々の社会はどこへ向うべき、という内の問いを持ってデンマークに来たということだったのですが、そりゃ技術的な議論は日本でも、というかいくつかの分野では日本の方が実践者の数は多いと感じますが、社会課題ベースの議論が行われる北ヨーロッパの環境それ自体がmind blowingな体験だったと言えます。
次回はタンザニアを具体的に触れふりかえる回です!
*1 https://uclaluskinabroad.files.wordpress.com/2015/08/mohan_image.jpg
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