デザイナーあらため、41歳の新人漫画家・まえだたかしです。
ぼくはついに言った。「漫画家になる」と。
2018年10月20日、佐渡島庸平さんの「編集ブートキャンプ」という合宿に参加した。編集合宿、最後の課題は「自己紹介」だった。そこで、ぼくはついに言った。「漫画家になる」と。これは30年間以上たってこの日ようやく言えた言葉だ。ぼくが本当になりたかったのは漫画家だ。
本当は予定が入っていたけど、スケジュールがぽっかり空いたのでたまたま参加することができた。合宿の食事の時間、佐渡島さんの目の前を遠慮なく陣取った。漫画の話になって熱い想いがよみがえってきた。
以前から佐渡島さんには漫画に興味があることは伝えていた。「前田さん漫画描きましょう。僕が編集しますよ。」と言ってくれた。まさかの発言に耳を疑ったが、30年前に閉じたフタをあけるのは今なのかもしれない。
「いつかやる」はいつまでたってもやらない。
「漫画はいつか描く」ずっと言っていた。でも、言っていただけで安心していたのかもしれない。「いつかやる」はいつまでたってもやらない。ぼくはどこまでも慎重で臆病な人間だから。
父の病気はフンギリがついたきっかけだったけど、本当はもっと早くあたらしい世界に飛び込みたかった。
「漫画家になりたい」というのは30年以上、フタをしてきた気持ちだから中身は腐っているかもしれない。現在41歳。この先、放っておいてもますますフタを開けられなくなるのはわかっていた。それでも、それでもいいってフタにフタをしていた。
「今」やりたいことをやろう。そう誓って脱サラしたんじゃないか。
好きなものを否定されるのが怖かった。
僕の漫画の原体験は『キン肉マン』。おもしろくて、でもかっこよくて、頭の中の妄想が止まらなくなった。そんな妄想ふくらむ漫画が好きだ。次は『ドラゴンボール』。小学校1年生の時にはじめて買った「少年週刊ジャンプ」は完全に表紙の絵に惹かれた。絵だけじゃなく読んでみると妄想が止まらなくなった。目をつぶって漫画の世界に浸る。僕は妄想が好きだった。
鳥山明氏は漫画家になる前は、グラフィックデザイナーだったんだ。ぼくはどこかそのことが頭に残っていて、デザイナーの道を選んだのかもしれない。漫画の世界に通じてるのかも?と大学のデザイン学科を志望したのもそんなところだ。
漫画家はもちろん、絵を学びたい、デザイナーになりたいっていうのもすごく抵抗があった。自分がほんとに好きなことだから、否定されて傷つくのが怖かったんだろう。
デザイナーを引退する。
デザインをすることは今でも大好きだ。本音を言えばデザインは続けていたい。これまで、ぼくは任天堂で15年、フリーランス3年でデザインをやってきた。振り返るとずっとエンターテイメントのコンテンツの仕事をしてきたんだ。コンテンツの魅力を「伝える」というのは清々しく気持ちがよかった。「物語」や「世界観」人が作ったものも根っから大好きだから。任天堂時代は「エンタメ絶倫」って言われたことがあるほどだ。
僕のキャリアには父の存在が大きく影響している。
幼稚園の頃、美術が好きになったのは父親とやった塗り絵だ。ストライプが美しかった。美大受験に失敗して落ち込んでる時には「5浪してもいい」ってくれた。任天堂を退社することになったのは、父が若年性アルツハイマーになったからだ。その時、人生を俯瞰してみるようになってこう思った。
本当にやりたいことを「今」やろう。
デザイン5年打ち込んでやりきったら、次は漫画だ。会社辞めた時はそんなことを考えていた。
オンラインサロンが「時間」と「距離」を一気に縮めた。
フリーになって2年目。飛び込んだのは幻冬舎の箕輪厚介さんのオンラインサロン「箕輪編集室」。そこでスポーツを楽しむようにひたすらデザインを楽しんだ。青春時代の部活のように闇雲にデザインしていくのは、モヤモヤしてたものがすべてぶっ飛んだ。
だから、クリエイターのためのオンラインサロン「前田デザイン室」を立ち上げた。そうしてるうちに箕輪さんのおかげでコルクの佐渡島庸平さんともつながりができた。佐渡島さんと言えば「インベスターZ」「宇宙兄弟」などヒット作連発の編集者。漫画界の中心にいる人だ。オンラインサロンが時間と距離をスキップしてくれた。
想定していたより相当早く、漫画の世界に一歩近づいた。
少年マンガでのヒット作をデザインする。
ぼくは3年前に任天堂を辞めて、フリーランスで活動した。オンラインサロン「前田デザイン室」を立ち上げ、たくさんの応援してくれる仲間ができた。おかげで41歳にして壮大なチャレンジに踏み出せる。
今後はすべてのデザインの仕事をリセットしていく。そして、夢を想い描いていた少年のころ、大好きだった少年マンガでのヒット作を出すための計画をスタートする。『キン肉マン』、『ドラゴンボール』の次の作品を自分で作ると決めた。
30年間以上気持ちを閉じ込めてきた分、これからは誰がなんと言おうときめた。ぼくは漫画家だ。
昨夜、NHKの『約束』というドキュメンタリーを見た。漫画家・羽賀翔一さんと編集者・佐渡島さんとの約束がテーマだ。
ぼくも佐渡島さんと「約束」したんだ。