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NO.84 バッハの音楽の本質は「悦び」にあるのか

もう何年も前のことになるけれど、あるギャラリーのイベントで、コンテンポラリーダンスのアーティストがバッハの《無伴奏チェロ組曲》によってダンスをするというパフォーマンスを見た。

見る前は「バッハのような精神性の高い音楽とコンテンポラリーダンスが果たしてマッチするのだろうか…」と少し半信半疑のままパフォーマンスを見たけれど、これが実に素晴らしかった。

会場をいっぱいに使って、バッハの音楽に合わせて飛び回るように踊る姿を見ながら、初めてバッハの音楽の根底には「舞曲」があり、その本質は「悦び」なのかも知れないと目から鱗が落ちるような気がした。

昨夜、録画したドラマ『さよならマエストロ』で、佐藤緋美(浅野忠信とCharaの長男)が演じる若きチェリストの弾くバッハの《無伴奏チェロ組曲》(第6番)を聴きながら、「ああ、やはりバッハの音楽の本質は悦びだったのだ…」と思い出して胸が熱くなった。

今年の初めから起きた震災によって、何をしていても心から悦びを感じるということが出来なくなっていたけれど、昨夜のバッハは、まるで乾いた砂に透明な水が静かに沁みとおるように胸の奥まで届き、深い呼吸が出来るよう。

今朝は、ジャン=ギアン・ケラスの2007年の録音によるバッハの《無伴奏チェロ組曲》を聴いているけれど、その軽やかで美しい響きが、固く強張った僕の心の扉を静かに開けてくれるような気がするのだ。


©『さよならマエストロ』より
ジャン=ギアン・ケラスによるバッハの《無伴奏チェロ組曲》(2007年)

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