『陽炎と木陰』

慎重に凍った地面を妹の手を引いて歩く。
「兄さん、大丈夫?」
「大丈夫だよ」
凍った地面は小刻みに揺れ、僕の震える指が妹に恐怖の感情が伝わらない様になっていた。
遠くでは、肩や頭から霧を噴き出しながら何人もの巨人が行き交っている。ぶつかった巨人同士が喧嘩を始めると、お互いに砕けて氷の山が新しくできた。もうあの地域に人は住めないだろう。
空を見上げると、小さくなった炎の塊がゆらゆらと揺れていた。
それはこの世で一番大きな巨人の亡骸で、元々は全身は燃え盛っていたという。
その頃は今よりももっと地上は暑く、地面は乾いていたと母さんから教わった事がある。
今では朧気に燃えているだけだけど、たまに火の勢いが増す時もあって、その時間は地面の氷が溶けて色んな草や木の実を採る事ができる。
巨人の体や、何本もある腕や脚には霧を噴く巨人が何体も貼り付いて少しずつからを崩していた。
父さんはいずれ空の炎は完全に消えて、真っ暗な世界になってしまうと言っていた。今よりもっと寒く、食べる物は今より減ってしまう。
僕と妹が狩ったネズミやタヌキは人間達よりも先に見かけなくなるだろう。
僕が背負った麻袋の中に入っている量は、以前狩りをした時よりずっと少なくなっていた。
「兄さん、私も持つ」
「そんなに入っていないから大丈夫だよ。それより早く父さん達の所へ帰ろう」
「兄さん、火の巨人が泣いてる」
空を指差した妹と一緒に見上げると、巨人の目から2つ、小さな光が落ちていた。
「何かな?」
「う~ん……」
初めて見る光は、段々と大きくなっていく。
「こっちに近付いてる!」
妹を抱きかかえて走るが、どんどん大きくなって、僕と妹の頭上にどこまでも覆い被さってくるようだった。【続く】

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