dusk_carnival

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『キリヤ・カリヤ』

30階建てのマンションが倒壊していくのが見える。 地響きと共に地面を割って頭をもたげた長虫の背に辛うじて残っていたマンションの残骸はもはやそこらを転がる石塊と同じだった。 「やはりあっちのルートを選ばなくて良かった」 双眼鏡から目を離して、父を見上げる。 繋いだ手にはかすかな怯えがあった。 「運が良かったね」 「そうだな。まぁ、例えこっちに来ても父さんが何とかするから心配するな」 しっかりと父の手を握り返すと、見当外れな声がガスマスク越しに浴びせられる。 とても心地良い善意の

    • 『夕立遠く』

      「お前はいつも考え無しなんだ!枯葉の下に埋めてやる!」 頭の毛をスレスレで舐めていく炎を躱し、低く訛りの強い罵倒を浴びせてくる相棒に、指で喉を突く仕草を返す。 「アヴァル!お前、本当に埋めてやるからな!」 相棒は私への罵倒が強くなるほど仕事ができる奴になっていく。とても良い傾向だった。 豊かな穀倉地であるドーライ地方有数の豪農、ハクトーラ家の所有する農地の片隅に置かれた倉庫で、ハジリムシの巣が見つかったのは3週間ほど前の事だった。 店に来た依頼を私達が受けてから現地に着くまで

      • 『陽炎と木陰』

        慎重に凍った地面を妹の手を引いて歩く。 「兄さん、大丈夫?」 「大丈夫だよ」 凍った地面は小刻みに揺れ、僕の震える指が妹に恐怖の感情が伝わらない様になっていた。 遠くでは、肩や頭から霧を噴き出しながら何人もの巨人が行き交っている。ぶつかった巨人同士が喧嘩を始めると、お互いに砕けて氷の山が新しくできた。もうあの地域に人は住めないだろう。 空を見上げると、小さくなった炎の塊がゆらゆらと揺れていた。 それはこの世で一番大きな巨人の亡骸で、元々は全身は燃え盛っていたという。 その頃は

      『キリヤ・カリヤ』