『キリヤ・カリヤ』
30階建てのマンションが倒壊していくのが見える。
地響きと共に地面を割って頭をもたげた長虫の背に辛うじて残っていたマンションの残骸はもはやそこらを転がる石塊と同じだった。
「やはりあっちのルートを選ばなくて良かった」
双眼鏡から目を離して、父を見上げる。
繋いだ手にはかすかな怯えがあった。
「運が良かったね」
「そうだな。まぁ、例えこっちに来ても父さんが何とかするから心配するな」
しっかりと父の手を握り返すと、見当外れな声がガスマスク越しに浴びせられる。
とても心地良い善意の