『夕立遠く』

「お前はいつも考え無しなんだ!枯葉の下に埋めてやる!」
頭の毛をスレスレで舐めていく炎を躱し、低く訛りの強い罵倒を浴びせてくる相棒に、指で喉を突く仕草を返す。
「アヴァル!お前、本当に埋めてやるからな!」
相棒は私への罵倒が強くなるほど仕事ができる奴になっていく。とても良い傾向だった。
豊かな穀倉地であるドーライ地方有数の豪農、ハクトーラ家の所有する農地の片隅に置かれた倉庫で、ハジリムシの巣が見つかったのは3週間ほど前の事だった。
店に来た依頼を私達が受けてから現地に着くまでに巣の規模は倉庫全体に及び、倉庫の近くの畑はかなりの被害を受けていた。
ハジリムシは近づくと尻から火を噴くので、当然数が多い程厄介になるし、駆除は慎重に行わなければいけない。
今は念密な計画を立てる相棒を無視して、私が巣穴に松明を投げ込んだ所だった。
松明の火で何十匹かは誘爆したが、残った何千匹が私達に火を吹いてくる。
「どうする気だよこれ!残った畑に燃え広がったらこっちが損害分の金出すって分かってんだろうな!」
相棒は拾った石を投げて少しずつ潰しているが、全部潰す頃には冬になっているだろう。
一度巣から離れ、依頼の為に持ってきたリュックを開く。
遅れてやってきた相棒の前で、中身を全部地面に出す。
描かれた蜂の腹の絵に「耐火・耐刃・耐猛獣」の文字があった。
野宿の時に使う鉄板をリュックの中に入れ、相棒に渡してから巣を指差す。
私は自分が持ってきたリュックにも同じ様に鉄板を入れて巣を指差す。
相棒の全身の毛が逆立ち、彼の種族で信仰されている神を一度人間に堕落させた虫の悪魔の名前が叫ばれた。
その声を背中に聞きながら巣へ走り出す。
何十匹かハジリムシのグループが正確に噴きだした炎を、一瞬で私を追い越した相棒がリュックで防いでくれる。
二足歩行の勇敢な狼の、いつも頼りになる背中を目隠しにして前に出ると、【続く】

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