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HDMIマトリックススイッチャーを試して得た気付き 〜TESmart HMA808-E23を試してみた〜

今回はHDMIのマトリックススイッチャー「TESmart HMA808-E23」を試してみました。

先日「blackmagic videohub 10x10 12G」を試しましたが、あちらは全ての入出力がSDIの機材です。

そこでHDMIならどうだろうと借りてみたのが今回になります。

私のマトリックススイッチャー経験は数える程しかありません。その中で今回のテストは、HDMIについての理解が深まるきっかけにもなりました。

レビューと言うよりは、私の気付きのメモとしてご覧いただければ幸いです。

今回試した製品

今回試したのは「TESmart HMA808-E23」です。

TESmart社は2013年に創設された中国の企業です。KVMスイッチ(Keyboard, Video, Mouseスイッチ)がベースの企業で、昨年には日本支社も立ち上げて販売を広げているようです。

今回試した機種はHDMI入力端子を8つ、出力端子を8つ搭載。マトリックススイッチャーなので、それを柔軟に組み合わせることができます。

TESmart HMA808-E23の背面

基本的な使い方は非常に簡単です。

まず出力先のアルファベットを選び、その次に入力元の番号を選ぶだけです。すると、映像のルーティングが切り替わります。

モニターには今のルーティングの状況が表示されます。

上の「OUTPUT」のアルファベットに対して、下の「INPUT」の番号が紐づけられています。

感じた違和感

使い方は簡単で、実際に映像も切り替えることができました。しかし、自分の中には違和感が残りました。

違和感が何かと言うと「ただ映像を分配しているだけ?」という感覚でした。

どういうことかと言うと、パソコンの映像を入力した時、パソコンの接続先にはマトリックススイッチャーが表示されません。出力先で接続している機材名が表示されます。

例えば、パソコン → マトリックススイッチャー → ATEM Mini を繋げると、パソコンはATEM Miniと接続している認識になるのです。

違和感を持った理由

なぜこれに違和感を感じたかと言えば、私が持っているマトリックススイッチャー「Roland XS-42H」は異なる挙動だったからです。

マトリックススイッチャー「Roland XS-42H」

XS-42Hの場合、接続したパソコンの接続先には「ROLAND VIDEO」と表示されます。

つまり、パソコン → マトリックススイッチャー → ATEM Miniと繋げても、パソコンはRoland XS-42Hと接続している認識になります。

そして、出力先ごとに拡大縮小や色情報の設定も可能です。

元々こちらのイメージがあったので、その点で「TESmart HMA808-E23」は思ったよりも単純な挙動でした。

フロントパネルのボタン操作以外に、メニュー設定のようなものもありません。あとはお任せといった状況ですね。

第一印象としては「映像分配器」です。入力数が増え、複雑なルーティングができるのですが、映像処理としては分配器もこういった単純な物が多い印象です。

この違いは何か?

この2つの挙動の違いは何なのでしょうか。大きな点として「EDID」の扱いの違いだったと理解しています。

HDMIで機器を接続した時、出力先から入力元には情報が送られていす。このデータをEDIDと呼び、送って欲しい映像設定(解像度・色情報など)やメーカー・型番などの情報を送っているそうです。

入力元の機器は、対応していれば希望に合わせた映像を送ります。都度設定をせずともHDMIを繋げば映るのは、EDIDで自動調整してくれているからなのですね。

EDIDの解説はGoogleで上位にヒットしたATEN社の資料が、いらすとやで親しみやすくて良かったです笑

引用:「EDIDとは? (簡易ガイド) ATENジャパン技術部

Roland XS-42Hは単体で映像の出力先として動作し、EDIDを入力元に送ります。また、EDIDをマニュアル設定する機能EDIDエミュレーターも搭載し、XS-42H単体で柔軟な調整が可能です。

一方のTESmart HMA808-E23は、単体としては映像の出力先としてEDIDを送りません。しかし、接続した機器に合わせてEDIDを管理する「EDIDスマート管理機能」を搭載しています。

TESmart社に聞いてみたところ、これは接続した機器に合わせて自動的にEDID情報を保持する機能です。

TESmart HMA808-E23は、接続した出力先に合わせてEDIDを自動保持する

TESmart HMA808-E23のEDIDの挙動

XS-42Hは手動で設定できますが、TESmart HMA808-E23は自動的にEDIDを調整します。

もし複数の出力先を繋いでいる場合は、最も共通する解像度やリフレッシュレートを持つEDID情報が選択されます。通常、解像度が低いディスプレイのEDIDが優先されることが多いそうです。

つまり、PC → TESmart HMA808-E23と繋ぎ、その先にATEM Miniとモニターを繋いだとします。この時、どちらかのEDID情報をTESmart HMA808-E23は自動的に保持し、入力元にもその情報を伝えます。

試してみたところ、仮に出力先の機器との接続を外した場合も、TESmart HMA808-E23はEDID情報を保持し続けていました。

つまり、TESmart HMA808-E23は出力先のEDID情報をコピーして保存している状況なんですね。別の機材になり変わっています。

コピーしたEDIDはいくつかのタイミングで更新されるそうです。

具体的には、新しい出力先の機器を接続した場合や、入力元を繋げ直した場合、またTESmart HMA808-E23を再起動した場合などです。

試した感じだと、再起動すると確実に更新されるのですが、機器の再接続は更新される場合とされない場合があるようでした。

2つを比較してみて

今回比較してみて、こういった違いがマトリックススイッチャーにあることは自分にとって学びになりました。

XS-42Hは4入力2出力で約13万円します。一方のTESmart HMA808-E23は8入力8出力で約10万円です。端子数で言えばTESmart HMA808-E23の方がコストパフォーマンスは良いように思います。

しかし、TESmart HMA808-E23のEDID自動調整の機能は、組合せによってはうまくいかない場合もあると思います。

例えば、解像度に対応していない機材には映像を送ることができません。今回試した中では、以下のように解像度が少数派の機材では映像が映りませんでした。

このような場合、より安心感を覚えるのはRoland XS-42Hです。

XS-42HはEDIDをエミューレーションするだけでなく、映像のスケーラーも内蔵して柔軟に映像を出力することができます。

つまり、相手の解像度に合わせて解像度を調整して出力することができます。

多数派に合わせるのではなく、それぞれに合わせて映像を出力できるのは強いですね。

ただ、その分XS-42Hの方がお値段が高く、端子が少なくなっています。4入力でも2出力だと、マトリックススイッチャーと言うよりは、映像スイッチャーと同じような感覚を覚えますね。

そういう意味では、TESmartの製品は程よく機能を絞ることで、コストパフォーマンスの高い商品になっているなと思いました。

SDIにはEDIDがない

ここまで考えた時、先日試したマトリックススイッチャー「blackmagic videohub 10x10 12G」を思い出します。

振り返ってみると、今回のようなEDIDにまつわる話は起きず、EDID関連の設定もなかった記憶です。

これは、そもそもSDIにはEDIDが存在しないためです。HDMIのような機器同士の通信は行なっておらず、一方向に送るだけのシンプルな規格です。

その分、使用者がマニュアルで設定しなければいけない領域も多いのですが、EDIDが無いことはシンプルで羨ましくも感じました。

Videohub 10x10 12Gの入出力はSDI

というのも、HDMIはEDIDの通信に失敗してうまく映らないケースがあります。

これがまた厄介で、映ったり映らなかったりと原因究明に苦労するケースも多い印象です。再起動やケーブル挿し直しで改善した、はあるある話ですね。

実際に今回の検証でもその辺りで悩んだ一幕がありました。自動調整は便利ですが、ブラックボックスになってしまう側面もあると思います。

引用:「EDIDとは? (簡易ガイド) ATENジャパン技術部」


以上、HDMIマトリックススイッチャー「TESmart HMA808-E23」を試したことで気付いた学びの紹介でした。

いやはや、映像も奥深い世界ですね…EDIDのことは改めてしっかりと学びたいなと思いました。

またその学びは紹介させてください。この記事がご参考になれば幸いです!

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