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#003 わたしたちの行動を決めているのはだれ?

はじめに

こんにちは。たくやです。
本業のかたわら、空き時間を利用して調べ物をするのが趣味の人間です。

“わたし”と思う、この感覚はなんなんだろう。

という疑問に答えを見つけたくて、意識や無意識の領域について調べてみました。
その結果を、シリーズで共有しています。

おさらい

前回の投稿から、私たちが周囲を理解するときには、私たちの体や脳は、受け取った情報から何らかの加工して、私たちの意識に上らせてくるということが見えてきました。


私たちがこの世界を認知する前に、私たちの体は、その情報を受け取りやすいように作り替えているんですね。

この私たちの意識が何かを理解したり、行動する前に、体や脳は動き出していると言う興味深い実験があります。

これを行ったのは、カリフォルニア大学サンフランシスコ校の神経生理学者であったベンジャミン リベットです。

リベットは1970年代から80年代にかけて被験者の脳を使った感覚器官から意識への情報の進み方を調べるにつれ、驚くべき発見をしたのです。

今回は、リベットの実験結果から以下に対する答えを出していきたいと思います。


私たちに自由意志はあるのか?


1."0.5秒"前に動き出す脳

1-1.見つかっていた"1秒前"

20世紀に入り、脳の状態を調べる計測機器の発展によって脳の活動について段々とわかるようになってきました。

1964年ドイツの神経生理学者 ハンス コルンフーバーとリューダーデーッケは、手や足を動かす動作に先立って脳内に活動が起こることを明らかにしました。

動作を起こす1秒前から発生するこの脳波の変化は"準備電位"と呼ばれています。

1-2."1秒"ってかかり過ぎ?

ここで考えてみましょう。

動作の1秒前から起こる脳活動が私たちの意思決定(〜〜をする)とイコールだと仮定したら1秒って時間はかかりすぎではないですか?

例えば、じゃんけんをする時にチョキを出そうと決めて、実際に手に信号がいくまでに1秒かかるとしたら、確実に後出しになりますよね。

蚊が腕に留まっているのを見つけたあなたは、その蚊を払うか叩こうとするでしょう。その時、手を動かそうと思ってから、手が動き出す1秒間ずっと腕に留まったその蚊を眺めていますか?
そんなことないですよね。

私たちの経験からくる感覚だと、大体動作を始める0.1〜0.2秒前くらいに「やるぞ!」と決めて、実際に動作に移している気がしませんか。

"やるぞ!"という意志が1秒前から発生していたとしたら"1秒"はかかり過ぎ?

だとしたら、1秒前に脳の神経細胞が動き出して、動作が起きる0.1秒前に私たちが感覚的に「やるぞ!」と思うまでの間の0.9秒の間とは一体なんなのでしょうか?

1-3.リベット実験

1983年、リベットは手首を曲げる、ボタンを押すなどの単純な動作と被験者の主観的な意思決定、そして脳内の神経活動をそれぞれ記録する実験を行いました。
この3つの計測の差からどのように私たちの身体の中で、ある動作が始まるのかを明らかにしようとしたのです。

リベットの実験のあらまし

被験者の主観的な意志決定(「手首を動かそう」「ボタンを押そう」と思ったタイミング)時を図るために、椅子に座らせた被験者の前には、このようなおよそ2.5秒で黒い点が一周する時計が表示されたモニターを見てもらい、どのタイミングで動作を行おうとしたかを報告してもらいました。

The Information Philosopherより引用
https://www.informationphilosopher.com/solutions/scientists/libet/index.html

実験の結果、被験者が「手を動かそう」という動作の意志を示してからおよそ200ミリ秒後(=0.2秒後)に実際の動作が行われることがわかりました。
また、実際の動作が計測されるおよそ500ミリ秒前(=0.5秒前)には脳内で活動が起こっていることも確認されました。
つまり、「手を動かそう」という動作を思いつく300ミリ秒(=0.3秒)以上前には脳内では活動が始まっていたのです。

1-4.私たちに"自由意志"はあるのか?

この実験結果は、今に至るまで大きな波紋を残しています。

私たちには自らの意志で何かを決めることができるのか

という事柄についてです。

私たちは普段、私たちの意志によって日々の動作を行なっていると思いますが、この実験からは私たちに意志に先立って脳が活動を始め、その結果私たちの意志が発生するということが示唆されています。

この実験結果が報告された当初、数多くの学者が同様の、あるいは実験内容を変化させて検証を行いました。
その結果は、同様の結果、あるいは意思決定に先立ちもっと前の時間から脳内活動が発生しているという結果が報告されたのです。

近年では、fMRI(機能的磁気共鳴画像法)を用いた研究で意思決定がかなり以前より早く始まることが示唆されています。

ドイツのベルリンにあるベルンシュタインコンピューター神経科学センターの神経科学者ヘインズらは2013年に論文発表した研究で、fMRI装置に入った被験者に2つの数を足すか引くかを選ばせた。この結果、足し算と引き算のどちらかを選んだかを被験者が自覚する4秒前に、この選択を予想するような神経活動パターンが観察された。4秒前とはかなりの時間だ。

別冊日経サイエンス255 "自由意志が存在する理由"p.45より抜粋

つまり、回転寿司のお店に行った時、あなたは自分の意志で「マグロを食べたい」「サーモンを食べたい」と思っているかもしれませんが、それに先立って脳内では「マグロをとれ」「サーモンをとれ」という指令が出ていることが考えられるのです。

私たちに自由意志はないのでしょうか。

1-5.リベットの示す”自由意志”

リベットは人間の自由意志に対して以下の私見を示しています。

活動の0.5秒前に脳内活動が開始し、0.25秒前に意志が発生する、そして行動を起こすまでの0.1秒間にわたし達の意志が介在する猶予がある。
そこでその行動を起こさないと拒否すること、その行動の拒否権こそが私たちの持つ”自由意志”だと。

(ただ、この主張、リベットは数々の実験によって意思決定に先立って脳内活動が発生することを示したのに対して、拒否権の自由意志については肯定するような検証は行われておらず、リベット自身の宗教観(彼はユダヤ教でした)に根付いた、私見に近いのかなと思ってます。)

3.まとめ

今回はベンジャミンリベットの実験を用いて、私たちに何かを決める機能、自由意志は備わっているのかについての記事を書きました。

この問題は非常に大きな含みを抱えていて、一例を挙げると、罪を犯した人はその人の脳内活動によって起こしたのであり、その本人には自由意志がないとすると責任がないのか。といった倫理観における問題にも発展しかねないからです。

また、実験自体も短期的で単純な行動(手首を曲げる、ボタンを押すなど)を計測したに過ぎず、高度な脳活動、例えば長期的な計画をする、分析をするなどにおいては同様ではないのではといった、議論も起きています。

次回は、同じくベンジャミンリベットが行なった数多くの計測から

私たちはの身体は、感覚体験を”巻き戻して”意識にあげている

という、お話をしていきたいと思います。

それでは。

4.参考文献

・ユーザーイリュージョン(トール・ノーレットランダーシュ:紀伊国屋書店:)
・マインドタイム(ベンジャミン・リベット:岩波書店)

・The Information Philosopher Benjamin Libet
https://www.informationphilosopher.com/solutions/scientists/libet/index.html




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