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世界中が絶賛するニュージーランドのコロナ対策についてまとめてみた。


先日、嬉しいニュースが飛び込んできた。5/4・5と2日連続でニュージーランドのコロナ新規感染者数がゼロという知らせ。そして今、コロナ対策の成功例として、ニュージーランドが世界中から絶賛されている。

ぼくは過去7年に渡りこの国と関わってきたけど、今回のコロナ対策を通して、今までとは違う角度からニュージーランドという国の素晴らしさを知ることができた。


もちろん世界が混乱している状況なので喜ばしいことではないけれど、ニュージーランド現地でロックダウンを経験し、現地で感じたことも含めて、今までとは別の角度からニュージーランドという国について紹介したいと思う。

少し長くなるが、ぜひ最後までお付き合いいただきたい。ニュージーランドはぼくら日本人にとって、これからの「生き方」や「国としての在り方」について、参考になることがたくさんあるはずだ。


▶ニュージーランド政府の対応は ”驚く” ほど早かった


まずは今回のコロナの件で、ニュージーランド政府が行ってきた対応について、時系列でまとめてみた。

2/03
トランジットを含む中国からの入国を禁止。国民や永住権保有者、その家族は入国が許されたが、14日間の自主隔離が求められた。

2/28
コロナウイルス感染者が初めて見つかる。

3/14
すべての入国者に14日間の自主隔離を義務付け
(※この時点では感染者は10人未満)

3/19
14日間の自主隔離に効果がないとみると、国境を封鎖。国民や永住権保有者以外は、全世界どの国からも入国を禁止とした。

3/23
感染者数が100人を超える。警戒レベルを「3」に引き上げ、さらに2日後には最高レベルの「4」(ロックダウン)に引き上げることを発表。

3/25
「死者はゼロ」という早い段階でロックダウン開始。生活必需品の買い物や通院、軽い運動などを除いて外出を禁止。最低4週間の国内全域封鎖。

4/20
4月28日からロックダウンの警戒レベルを「4」から「3」に引き下げると発表。

4/28
警戒レベル「3」に引き下げ。建設業や製造業など一部の企業活動が再開。

5/04・05
新規感染者数がゼロに。


特筆すべきはニュージーランド政府の決断と対応のスピード。「死者はゼロ」という段階で早期のロックダウンに踏み切ったことは、ニュージーランド政府の覚悟を強く感じた。


ニュージーランドが他の国と決定的に違うのは、他国がコロナを「抑制」しようとしている中で、ニュージーランドは「根絶」しようとしている点。


3/19 感染者がまだ2桁の段階で国境を封鎖 → 3/23 警戒レベル「3」に引き上げ → 3/25 ロックダウン


この3段階に至るまで要した時間はわずか1週間。ニュージーランド政府の決断と対応の速さは ”驚く” ほど早かった。



▶”日本人が嫉妬してしまう”ニュージーランドのコロナ対策とは


2日後にロックダウンするという発表直後は、空港に多くの観光客が押しかけたり、スーパーではパスタやお米が売り切れとなるところが出るなど、ニュージーランド全体でパニックが起こったのも事実。


でもそれはロックダウンする前まで。ロックダウンした26日以降、ぼくが実際に見た限り、空港もスーパーマーケットでも大きな混乱はなかった。むしろ街の人たちは、散歩やランニング、家のリフォームなどをそれぞれの時間を楽しむなど、いつもより ”リラックス”しているようにさえ感じた。


それはニュージーランド政府の対応が国民に不安を与えないものだったから。今回のコロナ対策において、特に素晴らしいと感じたことを2つ紹介したい。

1. 手厚い経済支援
ニュージーランド政府はコロナで影響を受けた会社への給料支援を決定。週20時間以上勤務なら週$585.80(週4万円ほど)、それ以下の場合で$350が、3カ月分まとめて振り込まれ、支払いも申請から1週間ほどで振り込まれている。もちろん手続きはオンラインで簡単。すでに65万人が恩恵を受けている。この経済対策が決まったのは3月17日。ロックダウンする1週間以上前に決まっていたから驚きだ。


2. 行動の明確化
各家庭に新型コロナウイルスに対抗するための「手引書」が配られ、世界でも指折りの厳しい対策ながら、基本的な事項がA3の紙にまとめられ、実に分かりやすくまとめられている。何が禁止されて、何が許されているのか。行動が明確化されているから、混乱を生まない。

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初の感染者が2/28と、他国と比べて時間的に有利だったことは確かだが、3/25に「死者がゼロ」という早い段階でロックダウンを開始。4/2には新規感染者数が89人まで増えたたものの、4/19以降は一桁台に落ち着き、5/04にはついにニュージーランドのコロナ新規感染者数がゼロとなった。5/6は2人、5/7は1人感染者が確認されたが、ニュージーランドは早期の決断と措置によって「コロナの根絶」が少しずつ見えてきている。


約100年前に数千万人の死者を出した「スペイン風邪」では、ロックダウン解除後の「第2波」と「第3波」によって亡くなった人の方が多いというから、まだまだ安心はできない状況だが、暗いニュースがほとんどの中でこのニュースは心から嬉しいものだった。



▶国民はこの対応をどう思っているか


今回のニュージーランド政府の対策について、国民はどう考えているのか。


市場調査会社「コルマー・ブラントン」による調査では、政府の対応を支持すると答えた人は83%。政府に信頼を寄せる人は88%に上った。

(日本だと考えられない数字…)


ぼくも現地の人何名かと話したが、アーダーン首相とニュージーランド政府の対応に満足をしていて「これを機会に家族との時間をゆっくり楽しむわ」と言っていたニュージーランド人の安心した笑顔が印象的だった。


ニュージーランドには国民と政府の間に確かな信頼関係を垣間見ることができた。



▶この国を指揮するアーダーン首相はどんな人物なのか?


これらの指揮を執っているのは、若干39歳のジャシンダ・アーダーン首相。彼女の説明をする前に、ぜひ見てもらいたい映像がある。これは3/20にアーダーン首相が官邸から国民に語りかけたテレビ・メッセージ。ぼくもこの発表を直接見ていたのだが、英語が聞き取れない人は、彼女の「表情」「話し方」だけでもいいから見て欲しい。


このテレビ・メッセージでアーダーン首相は「厳しく迅速に措置を取る」ことを説明。しかし終始笑顔でゆっくりと語りかけ、メッセージの最後には「どうか強くいてください。思いやりをもってください。そしてみんなで1つになってCOVID-19に対抗しましょう」と国民に訴えた。

英米のメディアは「危機時におけるコミュニケーションのお手本」とアーダーン首相の指導力を絶賛。ぼくもリアルタイムでこの映像を現地で見ていたが、アーダーン首相からは、心から国民のことを思っているのがひしひしと伝わってきた。


ちなみに今回だけでなく、昨年クライストチャーチで起きたニュージーランド史上最悪の事件 - モスク銃乱射事件の時にも、アーダーン首相の「ある言葉」が世界中の人々の心を動かした。


”They are us(彼らは私たちである)”


アーダーン首相は人種や宗教で人々を分けることなく、この事件で犠牲者となったイスラム教徒たちを「互いにニュージーランドで暮らす仲間である」と訴えた。そして思いやりや共感、愛を持って対応することを主張し、銃規制と被害者への経済的な支援も公言。


翌日には、イスラムの女性たちのようにスカーフを被り、ムスリムリーダーたちを訪問。亡くなった人々に愛をたむけ、その家族やコミュニティと悲しみを分かち合う。そんな首相の姿は、国内外問わず多くの人の心を動かした。一部では、ノーベル平和賞へのノミネートを望む声も上がっているという。


話をコロナ対策に戻すと、国家非常事態が宣言された3月25日、記者会見に臨んだアーダーン氏はこう語りかけた。


「あなたは働かなくなるかもしれませんが、仕事がなくなったという意味ではありません。あなたの仕事は命を救うことです


「人に優しく。家にいましょう。そして、感染の連鎖を断ち切りましょう」



このスピーチだけでも感動したが、その数時間後には自宅からFacebookライブを通して新型コロナウイルス対策について自ら説明。幼い娘を寝かしつけた後だというアーダーン首相はなんとトレーナー姿で登場。一国の首相が視聴者からの質問に1つ1つ丁寧に答えるなど、まるで友人のように親し気に国民に語りかける様子が、国内外で話題になった。


「家にいてください」「強く、優しくなりましょう」「コロナと闘うため、団結しましょう」など、アーダーン首相のメッセージはつねに明快で、なおかつ辛いロックダウン生活のなかで ”心の慰め” になるものだった。



▶ ニュージーランドの ”国柄”について


これほど「愛」と「思いやり」に溢れる39歳の若き女性が首相になるニュージーランドとはどんな国なのか。コロナの話からは少し逸れるけど、ニュージーランドの ”国柄” を象徴するエピソードを2つ紹介したい。


アーダーンさんが首相に就任したのは2017年末。しかしその直後の2018年1月に妊娠を公表し、同時に6週間の育児休暇を取ることを宣言。世界で初めて在任中に産休を取得した首相として話題になった。


それだけでも十分に驚きなのだが、なんと発表後、政権支持率が4%も上昇!子育てに対する意識や寛容さは本当に素晴らしい(近々、ニュージーランドの教育事情についても詳しく書きたいと思う)。


そしてもう1つ。昨年、こんなニュースが世界中で話題となった。与党議員が生後間もない赤ちゃんを連れて登院し、なんと議長が議長席でベビーシッターを務めたのだ。


ニュージーランドは女性の参政権を世界で初めて認め、他にも労働者の最低賃金・8時間労働・年金制度も世界で最初に導入した国。選挙の投票率も有権者の約8割と、国民の政治に対する関心も高く、「汚職が少ない国ランキング」では常に世界トップを行く。

1987年に世界的に先駆けて制定された非核法により「核を保有しない国」としても有名で、当然原発はゼロ。電力再生可能エネルギー率80%という環境立国であり、医療費・教育費・出産費もゼロ、手厚い失業保険や年金制度など「福祉国家」という一面も持つ。


ニュージーランドは自然の美しさだけでなく、国としての「在り方」についても美しく、日本がお手本にすべき ”未来の国” なのだ。

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▶ニュージーランドはどんな時も ”ユーモア” で溢れている


それからもう1つ。ロックダウンという緊張感が漂う中で、ニュージーランド警察の ”あるツイート” が話題になった。これから紹介するのはニュージーランド警察の公式Twitterアカウントから実際に投稿されていたツイート。このような状況でもユーモアで不安やストレスを与えないようにする気遣いは本当に素晴らしいと思う。

「人類史上初、何にもせずにテレビの前でゴロゴロしてるだけで人類を救えるんです。台無しにしないようにしましょう」


もしあなたの名前が A,B,C,D,E,F,G,H,I,J,K,L,M,N,O,P,Q,R,S,T,U,V,W,X,Y,Z で始まるなら、あなたは STAY HOME すべきです。


(12星座すべてに対して)今週のあなたの運勢『あなたは家で過ごすことになるでしょう』



▶ 世界から絶賛されるニュージーランドだが、観光業は壊滅的なダメージを受けている


世界から絶賛されているニュージーランドのコロナ対策。しかし「コロナ対策の成功例」と評価されているニュージーランドでさえも問題は山積みで、特に観光業は壊滅的なダメージを受けている。


特に観光地として人気の高いクイーンズタウンやテカポ、マウントクックの方は深刻で、多くの会社が営業時間を縮めたり、従業員の解雇なども行われている。ガイドブックで取材をさせてもらったあるホテルではほとんどの人が解雇されたという知らせも先日聞いたばかり。

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財務省は失業率は最低でも13%になると予想。今後もしばらく海外からの旅行者は入国できないだろうし、経済的にはかなり厳しい状況が続くことが予想される(統計局によると、2019年失業率は4%)。


ぼく自身、ガイドブック取材や今回のテ・アラロアの挑戦では、本当にたくさんの人に助けてもらい、素晴らしい経験をさせてもらったから本当に心苦しいけど、心配はしていない。


今回のコロナ対策において、その決断力と対応に関して、ニュージーランドは世界に対して1つ模範を示した。経済問題やアフターコロナの「在り方」に関しても、ニュージーランドは世界の模範になるとぼくは確信している。


そして最後に。ぼくの大好きなニュージーランドの先住民族マオリの言葉をみんなに送りたい。


Kia Kaha(キア・カハ)/Be Strong


引き続き、日本にいる仲間も、ニュージーランドにいる仲間も、みんなが無事でありますように。そして一刻も早く、この問題が落ち着きますように。


2020.05.07. トミマツタクヤ

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