８月の連作、３つ

インスタグラムのアカウントにこっそり投稿した、８月の３つの連作です。

自由意志

見えないし気にしていない背中でもかゆくなったらかかなきゃいけない
従順に髪を切られているあいだ目の前にある大きな鏡
飛べるのかわからないのに飛んだのは後ろの人に押されたのです
耐えられるぐらいの軽い裏切りが迷路の奥へ奥へと誘う
目についたものにつられてついてゆくわたしの頼りない自由意志

靴下

靴下の消えてしまった片方をあきらめるまでしばらくかかる
靴下はいちども生きていないのに死んでしまったみたいに見える
靴下のゴムがゆるくてずり落ちてまるまったのがそこにあります
ちょうどいい季節に合った靴下が僕の暮らしにそろっていない
靴下が黒と紺だと気がついてこんな前世があった気がする

任務

公共の交通機関を乗り継げば限界のある僕の逃げ足
新しい客は来ないと決めたのか汚いままの看板がある
バスが行く道以外まだ山だからバスは獣の気持ちになった
それぞれの任務は胸に秘めたまま離れて座るみんなが他人
青空が無残に雲をひきちぎり悲鳴が空を震わせていた