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アホみたいに語りかけてくる文体の決算短信

こんなニュースを(タイトルだけ)見た

決算短信は典型的な文言を踏襲しがちだ。前例を打ち破る必要があると感じ、契約選手への応援メッセージなどもっとワクワクする短信を目指して様式を大きく変えた(アシックス)
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO78742420V20C24A2TB0000/

なるほど前例を打ち破る必要は確かにあるな。ワクワクする短信…

参考資料
https://ssl4.eir-parts.net/doc/9348/tdnet/2396017/00.pdf

まえがき

(1)経営成績に関する説明

(・・・えますか・・・聞こ・・・ますか・・・?)

 聞こえるか!?今、おまえの心に直接語りかけている!おれたちは!人々を宇宙に送り出すことを夢見る次世代のハイパー市民スペースカンパニーだ!

 なんといっても地球は狭すぎる。このまま人類が増え続ければ、早晩土地は足りなくなるし、石油とかなんかそういうエネルギーもたぶん足りなくなるだろう。40年ぐらい前から、ずっと石油がもうすぐなくなると言われ続けながら、一向になくならないのは多少不思議ではあるが、マインクラフトよろしく計算資源が許す限り無限に資源がわいてくるほど世の中・・・REALワールドは甘くない。

 とはいえ、ロケットとか人工衛星とかそういう些細な例外を除けば、資源の大部分は地球上からどっかに消えていくわけではないので、「なんかうまいことリサイクルとかすればなんとかなるんじゃないの?」そんなことをいうやつもいるかもしれないが、完全に甘いと断言できる。

 おまえは、リサイクル工場で働いたことがあるのか?使ってしまった資源をまた使える状態に戻すのはとても骨がおれる。エネルギーもだいぶ使う。使ったエネルギー以上のエネルギーを得られるのであれば、それはとても素晴らしいことではあるが、そういうのはいわゆる「永久機関」というやつで、完全にオカルトか、よくて詐欺だ。おれはそう確信している。

 「じゃあ、無限に降り注ぐ太陽のめぐみをうまく使えばきっと何とかなるよ。へーきへーき」確かに、それには一理あるような気もしないでもない。しかし、敢えて言おう、おまえは小学校からやりなおす必要があると。いずれは太陽も歳をとり、膨張して地球を飲み込む運命にあるのだ。少なくともおれは小学校の図書館でそういう絵本を読んだ。つまり、人類がこの星に留まる限り、いずれ地球と滅びの運命をともにすることになるのは明らかなのであり、それが何億年先だからといって手をこまねいて見ているのは、未来に対する自らの責任を自覚しているいい大人の態度とは言えない。おれたちは、そういう偉大なタイムスケールで物事を考えている。

 地球が、神つまりGODのもたらした神秘のフラットアースではなかったことを人類が知ってしまった以上、残念ながら地球はサステナブルではないと言わざるを得ない。しかし、宇宙は違う。天才的な物理学者たちがよってたかって考えても、宇宙の果てにはまだ辿り着いていない。ひょっとすると宇宙も無限ではないかも知れないが、だいたい無限だろう。ということはサステナブルだ。人類×サステナブル、イコール「宇宙」だ。

 つまり、遅かれ早かれ、人類は増えすぎた人口を宇宙に移民させることになる。半世紀も過ぎれば、人類は地球の周りの巨大な人口都市を第二の故郷とし、そこで子を産み、育て、そして死んでいくことになるだろう。こういうはなしはもう1970年代あたりからずっと言われていることだが、人類の怠慢によりいまだ実現されていない。悲しいことだ。

 念のため、おれたちのビジョンを言っておこう。

 「Expand our planet. Expand our future」
 「Expand our planet. Expand our future」だ、
 だいじなことだから二度言った。

 そんなこんなだが、とはいえいきなり宇宙はちょっと広すぎる。というわけで、おれたちは目下「月」を目指している。今はそんなところだ。

 この第3四半期までの間にも色々なことがあった。人々がコロナのことをとりあえず忘れたのはまあ良いとして、日本円のことはなんかみんなあんまり信用しないようになった。そして、なぜだかよくわからないが、缶コーヒーは140円とかになり、かつては10gあたり13円~14円ぐらいで買えたポテチは余裕で17円とか18円とかになった。おまけに、便乗してあっちこっちで利上げだ。何でかは知らんし、これからどうなるかもわからん。そんなこんなだった。

 だからと言って、四畳半で引きこもっていても仕方がない。四畳半こそが宇宙に通じているとおれは思っているが、それをあからさまにいうとCEOに睨まれることだけは間違いない。宇宙を目指すのだ。宇宙を信じよう。

 宇宙資源を我がものとするため、他国を出し抜こうと誰もが腹の底で考えていることは間違いないとは思うが、この第3四半期までの間は、一見物事はラヴ&ピースな風情で進んだ。NASA(言うまでもないがアメリカ航空宇宙局のことだ)はずいぶん前にもう月に行ったはずだが、「本当は月に行ってないんじゃないか?地球は平らなのでは?」などという輩がよっぽど多かったのか、「アルテミス計画」なるプロジェクトをぶち上げ、再び月に人類を送り込み、アメリカをグレート・アゲインしようとやっきになっている。もはや、ソ連邦もなき今、いったいどこのナニ国を警戒しているのかはおれは知らないが、「アルテミス協定」なる得体のしれない同盟・・・月面における平和的・友好的かつ透明性ある活動のガイドラインなどと寝言を言っている・・・を拡大し、あらたにチェコ、スペイン、インド、ドイツ、アイスランド、オランダ、ブルガリア及びアンゴラを仲間に加えた。去年の年末時点では、おれたちの国を含めて34の国と地域が同盟となったらしい。しかし、「地域」とはいったいどこのことを指すのだろう。パッと見34か国だとおれは思うが、その辺は深く追求しないで欲しい。大人の事情もあるかも知れないからな。ともかく、こういう得体のしれない団体みたいな話を聞くと、メタバースブームの頃に、ナゾのメタバース団体が多数立ち上がったことを思い出すが、ここはひとつ、引き続き活発な進捗が見られた、ということでお願いしたい。

 日本もここで遅れをとるわけにはいかないとばかりに、2021年6月15日に、「宇宙資源の探査及び開発に関する事業活動の促進に関する法律」なる法律を作った。いわゆる「宇宙資源法」というやつだ。おれたちは市民カンパニーではあるが、デカい仕事をするために国策に乗っていくことにはやぶさかでないし、こういう法律があるがために、カネが引っ張れるという事もあるかも知れない。そういうわけだから、「で?具体的にこの法律はいつどこでどういう風に具体的に役に立つわけ?」などと、大人げないことを聞いてはいけない。この法律は画期的だ。そういうことにしておけ。理想で腹は膨れないのだ。

 一応真面目に説明しておくと、この法律は、日本の民間事業者が月その他の天体を含む宇宙空間に存在する水、鉱物、その他の天然資源である宇宙資源の探査及び開発に従事することを認めることを規定したものだ。要するに、おれたちが宇宙から資源を持って帰っても良いという話だとおれは理解している。なに?宇宙のような場所で国内法がなんの役に立つのかだと?おれは賢い投資家は嫌いだ。ともかく、こういう法律を持っているのは、アメリカ、ルクセンブルク、アラブ首長国連邦と、そして日本の4つ、とまあ、そんな具合になったわけだ。ということはだ、「引き続き宇宙開発及び月面探査が大きく推進されることが期待され」るわけだ。日本企業でよかった!投資家向けの発表としては、取り敢えず、そういうことになる。いいね?

 まあ、その話はいい。ともかくおれたちは、おまえらも知ってのとおり、ミッション1の月面着陸船・・・ランダーという・・・を作り上げ、あいだは端折るが、結構いいところまでいった。ただ、まだ月に着陸できていないのは・・・そのとおりだ。おれたちはそこは認めざるを得ないと考えている。とはいえ、結構いいところまで行った。具体的にいうと、Success8「月周回軌道上での全ての軌道制御マヌーバの完了」までだ。Success9がまさに「月面着陸の完了」であるから、9のうち8まで行ったということは、これがかなりスゴイことだという事は差し当たり9のうち8ということで、まあ、ひとめでわかるだろう。よく調べるとSuccess10もあったかもしれないが、9でも10でもそこは大差ない。

 しかもおれたちは、まさかの事態に備えて・・・あくまでもまさかの事態だ・・・「月保険」なる、たぶんおれたち以外は誰も契約しないであろう保険契約を持っていた。保険屋もたぶんノリノリだったのだ。だから、結局保険金を38億円程受け取ることに成功した。これは、あくまでもまさかの事態だから、当然ながら特別利益に計上している。決して経常的にそういうことが起こるとは考えていないわけだ。

 なお、おれたちは確かに月面着陸に失敗したが、その原因を抜け目なく調べたことは言うまでもない。その結果は、ミッション2に反映されるだろうから期待して待っていてもらいたい。

 そんなわけで、当期は、こういったミッション1のサクセス・・・ずいぶん前のことだから皆忘れているかも知れないが、おれたちがSuccess8を達成したのは2023年4月14日、つまり当期だ・・・の他に、ミッション2も3もいい感じにランダーの開発が進んだし、ペイロード(要するに運び屋稼業だ)の契約も進めた。

 さらに、プロセスエコノミーではないが、おれたちの挑戦がコンテンツになるのは間違いないわけだから、その辺も抜け目なく「パートナーシップ事業」と称して推進した。具体的には、コンテンツとして利用する権利やら、広告でロゴマークを載っける権利やら、おれたちのスゴイデータ(マジだ)の使用権やらをパッケージとして販売しつつ、技術面や商品開発面で協業を行おう、というわけだ。これについても、既にパートナーとなっているホットな企業との関係をホットに進めつつ、ミッション2までの新たな顧客の獲得をホットに進めた。

 まあ、そういうわけで、この第3四半期累計期間の売上高は18億と、なんと前期比121.7%増のいい結果となったわけだ。ほんで、営業赤字は37億だ。え?37億の赤字?・・・そうだ37億のマイナスだ。めちゃくちゃ赤字じゃないかと思ったやつもいるだろう。驚くなかれ、前期の営業赤字は93億だ。しかし、心配には及ばない。

 ほとんどの賢明な投資家は、結局のところ営業利益がいくらかという事よりも、自分たちにとっては株価がどうなったかということのほうが重要だという事実に気付いているだろう。そういう意味でも営業損益は大した問題ではないし、そもそも、宇宙開発には膨大な時間とカネがかかる。誰が会計期間を1年と定めたのかはしらんが、地球がおおよそ365日で太陽の周りを回るという単純な物理的事実が、どうして企業の業績を評価する期間として用いられるのかおれたちにはサッパリわからない。だから、営業損益みたいな古臭い指標について深く考える必要はない。いつまでも年貢の気分でいてはとても宇宙になどいけないのだ。結局は、事業を継続できるかどうかが肝心だ。あと10年は戦える・・・かどうかはわからんが、当面は大丈夫だ。不確実性はないと言い切れる。

 というわけで途中を端折るが、例の保険金のおかげで、最終の赤字は8億で済んだ。おれたちがやろうとしている偉業のデカさに比べれば8億などどうという事もない金額だということは、賢明な投資家諸君にわざわざ言うまでもないだろう。相当うまくやったと考えてもらって構わない。まあ、今んとこそんな調子だから、株券を握りしめて応援してほしい。

 念のため言っておくが、おれたちは宇宙に集中しているので、あれやこれやと余計なことに浮気している暇はない。そんなわけだから、いわゆるセグメントみたいなものはない。以上だ。じゃあな。


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