死の笛 札幌公演(2024年7月)

死の笛観劇のレビュー(ネタバレありあり!)
記憶違い等あると思いますがご容赦下さい。

※2024/07/21加筆修正


あらすじ

隣り合う敵国の男A(安田顕)と男B(林遣都)は国境の炊事場で働く炊事兵。
(鉄の網戸を挟んで客席から左側(A国)と右側(B国)に分かれている)
国境の下には地下鉄が走っていて、その所有権をめぐる戦いの場であるが
1つだけある井戸は両国とも使う協定を結んでいる

男Aと男Bは敵同士であるが交流し、仲良くなる。
歳は50歳と33歳。
彼らは唐突に、こと切れるように倒れ込む時間がある。
「えらい人に言われた」注射を首に打つことで回復するが、
理由は2人とも知らない。

男Aは娘を殺した敵を探していること、男Bは憧れの女性が居ることを話す。男Aの後押しで男Bは憧れの女性が落とした手袋を届けに行くが、男Bが
炊事場に戻ると男Aは絶命していた。

翌日、炊事場で男Aは生き返っていた。
しかし昨日の記憶は無く、男Bのことも覚えていない。
不思議に思う男Bだが、また2人は仲良くなり憧れの人に手袋を届けたら
お礼に屋敷に招待されたことを話す。すぐに向かうよう男Aに後押しされ、出掛けていくが、炊事場に戻ると男Aはまた絶命していた。翌日には男Aは
記憶を無くした状態でまた生き返っていた。

そんな中、膠着状態だった国境に戦火が迫ってきた。
男AとBは互いが敵同士であることを思い出し、刃(包丁)を交えるが男Bは弱く相手にならず、男Aは戦場に向かって走り出して行く。

1人残された男Bは死者を使った「持続可能兵士」の実験が両国で進められていたことを知る。その秘密を知った男Bは何者かの手に依って絶命する。怪我を負い、炊事場に戻った男Aだが身体が動かなくなり、注射をしようとするが薬切れ。男Aも絶命した。

終戦から数年、男Aはカノウ、男Bはウスダと名乗りあの炊事場で再会した。服飾業と飲食業に就いている。カノウは自分が持続可能兵士であることを
告白し、後遺症に苦しめられていることを話す。
彼の後遺症は植え付けられた記憶である「娘の敵」を探してしまうこと。
その衝動でウスダの首を絞めてしまう。我に返り謝るカノウに、ウスダは「自分を殺してくれ」と頼む。ウスダもまた持続可能兵士であった。

登場人物

男A(安田顕)
 泥酔して寝ている間に敵兵に娘を殺された。その復讐が「生きがい」
 敵が残していったブーツを履いている(サイズの合う人間を探している)
 カタコトの話し方だが炊事業務は手際よくこなしている。

男B(林遣都)
 水族館で働いていたが、水槽の中のビー玉と思って拾ったら栓で魚が
 全滅。クビになった。カタコトの話し方に加え、行動もおかしい。
 星のように綺麗な瞳をした「リップル」さんが憧れの人。 


男Bは働きも幼稚で野菜を運ぶ動作1つすら要領が悪い。
男Aはそのことを指摘するが、男Bには理解ができない。

ただし、この2人の設定は「記憶を植え付けられた」もの。
死者の脳に働くモチベーション、生きがいとなるような記憶を植え付け、
持続可能兵士を作る実験をA国B国とも行っている。

ざっくりレビュー

舞台は男Aがバケツに組んだ水を鍋に移すところから始まる。
鍋を沸かし、野菜を切り作業を進めていると、妙な歌が聞こえてくる。

男Bが歌うノグソの歌。 右を見て~♪ 左を見て~♪ 宇宙は遠い~♪
ズボンをおろせ~♪(遣都君の歌はドキドキしてしまうw上手かったよ!)

大根を洗いながら「ノグソー♪ノグソー♪ノグソー♪」ってあまりに楽しそうに歌う男Bに「恋人を呼ぶように野糞を呼ぶな」と男Aが声を掛けるところから2人の会話は始まる。

が、不思議な言葉遣いにまず混乱する。

ゲネプロレポにあった「叫び声の聞こえるのした」→『叫び声が聞こえた』例えば「嬉しかった」・「楽しかった」は『嬉しいした』・『楽しいした」
と話す。

(この法則にはわりとすぐ慣れて理解できるようになるけどもしかして観客に会話に集中させるための仕掛け?)

これはカタコト?母国語を奪われた捕虜兵?それとも私達観客が異国語を聞いてる設定?いろいろ想像してしまう。男Bの認知能力が低い(不適切な言葉を使えば知恵遅れの男性に見える)ことが分かってくると、きっとこの2人は事情があってこんな姿の炊事兵だけど「実は×××だった!」ってオチがあるんだろうな!だってヤスケンと林遣都だし!ってワクワクしてくる。オリジナル初見の醍醐味を味わいました。(ネタバレ回避しまくって良かった)

お話は「男Aと男Bが仲良くなる→男Bがリップルさんに会いにいく→1人になった男Aは娘が殺される悪夢を見る→笛が鳴る→男A絶命
 →男Bが遺体発見→翌日男A生き返る→男Bはびっくり→最初に戻る」

このターンを2回(3回?)繰り返しながら進んでいきます。

男Aと男Bが交流するシーンでは遊び心というか2人が生き生きと舞台を楽しんでいて息もピッタリ。観客もケラケラと笑う。

いろいろあったけど、覚えているもの以下、順不同でつらつらと。
(表現が稚拙で申し訳ない)

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国境を意識して身体を自国側からはみ出ないようにしていたのに、でんぐり返しの応酬!屋根の上でヨガの鋤のポーズ(何て表現したらいいのかわからなくて調べた言葉)から足をクロスしたり押し合いへし合い。
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 ※炊事場の屋根の上は観客から見えやすいように傾斜が大きくて、演者が 
 滑り落ちるんじゃないかとドキドキ。最後の方で遣都君ちょっと滑ってた
 シーンがあったような・・・ カテコで「やばかった」っぽくヤスケンに
 目で伝えてた気がした。
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エロ本(えな子写真集←A国の備品w)をめぐって、遣都君が写真集を後ろ手に隠す→両手を上げろと言われ、お尻と後ろ太ももで挟んでくるくると逃げる(器用)→「恥ずかしくないのか」「恥ずかしいです」
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ヤスケンが関節技を遣都君にキメられる「ごめんなさ い の い のクチー!」
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包丁で戦う時、兵として最弱と思われる男Bは遣都君の身体の柔らかさを活かして変な方向にグネグネ避ける(殺陣指導ってこれか?)
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オオトカゲの真似をするヤスケン。タンパク質だ!と狩ろうとする遣都君
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どちらが口クサイか、息の吐き合い(ヤスケンの勝利)
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キャベツとゴボウで戦う(森崎リーダーに叱られないかドキドキ)
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ブーツを男Bに履かせて試す男A。「ぶかぶかだ~」と飛び上がったらかぽっと脱げちゃう。「これ、大きさ合わないフリしてるだけじゃ?」と勘ぐってしまう。(まったく伏線では無かった)
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ヤスケンがリップルさん役になってダンスの練習をするくだり。ヤスケンが首に巻いていたスカーフを女性の髪に見立ててシナを作る。なんか見たことあるぞこれと思ったら舞台「マスターピース」でも女性役やってたね。
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こんな感じでくんずほぐれつしているうちに国境にあった鉄柵などはいつの間にか取り払われていて、お互いの領地に入りたい放題。楽しくキャッキャッと絡んでた2人がいきなり倒れて動かなくなるので観客は「ひきゅっ」と息をのむ。急にシリアスな場面になった。

1回目は何?注射?絶対やばいやつー!ってなるし、2回目以降の動作停止は「www2人ともアホやー  ・・ひっ (あ、注射の時間…)」と会場が静まり返った。

この緩急、癖になる。
コメディでシリアスでホラーで演者にも脚本にも翻弄されっぱなし。

ヤク中にされたワケアリ人物?男Aは娘の復讐のために自ら薬に手を出して戦場に来た?男Bは軍の幹部の隠し子で薬打って知能を奪って僻地に飛ばされた?もしや男Bは娘の死にかかわってる?素人の浅はかな推理なんてカスりもせず、この後とんでもない真実が明かされていきます。

持続可能兵士とは

(“持続可能再生兵士”だったかも)
死者の脳に動機となる記憶を植え付け、兵士として働かせる。
何度でも上書き可能だからSDGsな兵士!いいね!ってことらしい。
まだまだ実験段階で言語能力と行動に問題が発生することがある。

肉体の蘇生や寿命については特に触れられてないけど、あの注射がキー?
アンドロイドではなく、元死者だから防腐剤?何かを打たないと身体が動かなくなってしまうのか、注射を打つのが腕ではなく首ってところがまた・・・

近未来の話なのかな。けど昭和の時代に実はこういう人体実験があって、
なのかもしれない(ホリエモンの宇宙論やえな子写真集が出てくるけど)

そして「リップル」は人体実験首謀者のコードネームだった。男Bの恋する相手の名前を「リップル」にしたのはちょっとした遊び(ひどい)

ラストシーンでは、終戦後に「持続可能兵士」の差別禁止の法律ができ
普通の人間と変わらない生活が送れるようになったとカノウは話しながら「今では病院の順番を後回しにされるくらいですね。元死者ですから、
まぁそれくらいはね」とも話してて「死んでるんだから、いいだろ」って
意味?(男Aは最終的には63回?53回だったかも?再生された)

アンドロイドでは無い、1度死んだ生身の肉体をどう管理しているのは
ファンタジーでいいかもしれません。

死の笛というアイテム

吹いたら死ぬ、という情報だけ与えられ、何かのトリガーになっているんだろうけど1回見ただけでは正直わからなかった。

わからないけど、炊事場の屋根の上で笛を吹くと暗闇に浮かび上がる白い手袋がめっちゃ怖い。笛の音が「女性の断末魔」っぽいのも怖い。遠くに投げて捨ててもいつのまにか元の場所にあるのも怖い。 (会場暑くて、たまに空調が強めになって涼しい風が吹くのがホラー味を増す)

白い手袋は男Bが拾ったリップルさんの手袋と同じモノだと思う。
これも意味はあるっぽいけど、視覚的にはただただホラーでした。

ラストシーン考察

死の笛が鳴り、2人が絶命してしまった!?と暗転して少し時間が空いて
照明が灯くとスーツに着替えた姿。何が起こったのか?と最初はわからず、2人の前世?来世?子孫?とまたまた混乱するけど、ヤスケンが「持続可能兵士」について訥々と語ってこれまでの種明かし。

彼らが発する言葉も普通になっているので、台詞→脳内で翻訳→理解をする必要が無くなって状況をするすると理解できる。(これもある意味仕掛け?)

それにしても、、、カタコトの言葉と行動障害(男B重め)から解き放たれた
2人はしっかりした口調、背筋ぴんのイケオジ&イケメン!!!!(新潟の服飾会社が提供したスーツはこれかあ!)手ぬぐい&ハンチング帽→2人とも色気あふれる髪型にセットされていて、衣装・ヘアメイクさんほんとありがとうございます!

カノウは紳士服のはるやま、ウスダはカレーのビリビリ(って聞こえたけどhirihiriのこと?北区のスープカレー屋さん)で働いている。無事札幌で就職(起業?)できた様子でよかった。ウスダはこれから店舗まわりって言ってたから経営者かマネージャーかな。

(実験体になる前の2人、本来はこういう姿だったのかもしれない。
カノウはやり手の仕立屋さん。ウスダは洒落た洋食屋の二代目 ~なんて)


恨み人の記憶を植付けられたカノウ、恋し人の記憶を植付けられたウスダ。まったくの架空の記憶であり、他人によって作られた感情であることを
2人は知ってしまっていて、その辛さや虚しさを抱えてこれからどう生きていくんだろう。兵士の頃の方が、カノウはギラギラエネルギーに満ちてたし、ウスダはキラキラしてた。

カノウは差別を受け、復讐という生きがいを失くし、後遺症に怯えて生きていて覇気が無くなっていたし、ウスダは差別を恐れ自分が再生兵士であることを隠して生きていて悲哀を纏い、恋心や愛を信じられなくなっているのかもしれない。(恋しい恋しいリップルさんは自分を実験体にしてた人ってきっついしょ)

序盤の場面で、憧れの人リップルさんに会いにいく男Bのために男Aが社交ダンスを教えるシーンはとてもとても可愛らしかった。けど、これはラストのシーンに繋がっていくダンスだった。ボロボロの服で楽しく踊ったことを思い出し互いの手を取ってゆっくりと踊り出す2人。

戦場の記憶だけど植え付けられた記憶じゃない。他人が作り出した記憶じゃない。香水を付けてても違和感の無いスーツの2人だけど、お互いの息がクサイと言い合いながら踊ったことを思い出しているのかな、と思うと胸が詰まった。

この時の2人の表情がすごくいい。小さい会場だから見えたけど、ここは特に映像でも見たい。東京でカメラが入った回があったようなので円盤化して下さいお願いします。

炊事場の小屋には死の笛が2つ、2人が吹くと笛はけたたましく鳴った。
女性の叫び声だからけっこう不快音なんだけど、もう無我夢中で2人は吹いていて、死ぬことへの恐怖(生への執着)がもう無いのか、それとも解放されたってことなのか。

このあたり解釈いろいろ出来そうです。

植え付けられた記憶の象徴であるブーツはB国側、手袋はA国側(すでに国境は無い)に置いて2人は去り舞台は暗転。

降りしきる雨のような拍手でお二人を称えて札幌最終公演は閉幕しました。
 

会場・チケット・パンフレット

・会場について

かでる27のホールって地元の会社や学校が講演したりそこまで大きくないイベントで使われる会場。小さめの会場は他にもあるけど、ここを選んだのはなぜ?男Aのセリフ「地下鉄の音が聞こえるだろう?」←東西線近くだし舞台は札幌の設定だったりするのかな、と思ったり?(考えすぎ)

席数が少ないのもそうだけど、舞台も大きすぎず1セット・1シチュエーションにちょうど良し!だったのかな。

・チケット争奪戦/宣伝活動

札幌会場で500人程度、東京も大阪も小さいホールのようで。各地で争奪戦阿鼻叫喚でしたね、、、 私はファンクラブ先行で自分の分をまず昼公演1枚ゲット(今思えばこれも奇跡だった)ローチケ先行か一般発売で友人(チケットあるなら行きたい)と夜公演で行けたらいいなぁと思っていましたが、考えが激甘すぎました。当日券ももちろん落選。

宣伝も全く無かったですよね?ディザー動画だけでポスターもチラシも札幌市内でも見かけなかった。インタビュー映像も地元TV局でも無し。
(ディザーでは天才2人のだまし合い・頭脳戦、難しいセリフの応酬の舞台なのかなぁなんて想像してましたがまったく違いました)

ストーリーもシークレットで、ここまで徹底されるとこちらの緊張がやばかった。事故やケガしないように!風邪ひかないように!と7月入ってからビクビク。けど公演の日を指折り本当に本当に楽しみにしてました!


・パンフレット

パンフレット、「薄っ」wwって思ったんですが内容めっちゃ濃かった!

初恋の悪魔の座組でヤスケンが遣都君を2人芝居に誘ってから実現するまでの流れ、お互いの初印象などなど。写真はディザー動画と同じシチュエーション。ただ見たことない表情ばかり。ポーズもなんだそれwというものや、ただただカッコイイお二人満載です。

シナリオブック販売したりしないのかなぁ。
お互いの歳を教える場面では「33歳」「年相応だな」「50歳」「若く見えますね」とあったけど、台詞のままなのか、他の回では違うのか、なーんてオタク的な楽しみ方もしてみたいです。

2人の役者

2人芝居って凄いですね。当たり前だけど2時間ほぼ舞台に居る。
しかもあの独特の言葉遣いのセリフに感情を乗せて身体表現もして。汗ぴっしょりで疲労困憊だろうにラストのスーツ姿は見違えるようなイケオジイケメン(2回目←いや、ほんと凄っっっっっいカッコいい!!夢に出て!)

ヤスケンの魅力全開だったのは娘を殺された悪夢に苦しむシーン「よよ子~よよ子~」と呻く姿や娘の死体の惨たらしい様子を語る姿はまるでここが地獄であるような重い重い空気が舞台を包んで息がしづらい酸欠になるかと思った。

対して遣都君は純粋にリップルさんへの恋心を語るシーン。純度100の恋しか知らない、その先にあるややこしい感情は知らない少年(知能年齢)が憧れの人をピュアな表現で話す姿に惹きこまれる。彼の周りに星が瞬いているようで、「恋に恋をしてキラキラ輝く」をまさに体現してた。

正と負、歓びと苦しみ、支配されている感情は正反対でどちらからも目を離せなかったけど、コンディションによって男Aと男Bどちらの感情に引っ張られるか変わりそう。何度でも見たい舞台です。ぜひ円盤化を(懇願)

そしてラストシーンの2人のギャップに震撼して思ったこと。
「アルジャーノンに花束を」を演じて欲しいなと思った。
主人公の青年(安田顕)と教授(林遣都)、青年(林遣都)と教授(安田顕) どっちもすんばらしいものが見れると思う。なんだったら両パターン、、、なんて無理難題が言いたくなる。

この「持続可能兵士」の世界の続編も見たいな。
差別禁止の法律が作られたということは、兵士は2人だけじゃなく他にも居るだろうから、終戦後に持続可能兵士がどうやって生きていくのか、植え付けられた記憶のパターンよって違う種類の苦しみを持つ他の生き残りがカノウとウスダに出会う話で映画1本作れませんかね(無理難題2回目)

ファンタジーでもその世界観に没入させてくれる2人の役者がまた共演してくれること静かに願っています(まずは今回の舞台の円盤化を…)



以上です。ここまで読んで頂いてありがとうございました。

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