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如何にして天国は[そうぞう]されたのか

冷たく硬い石の螺旋階段を、断崖絶壁を上るかのように這い登る。
手だけは必死に上へと伸ばし続け、ついに指先に仄かな温かさを感じて、視線を上へと向けた。

直観的にそう感じたのは、冷え切った体を包む暖かさがあったからだ
動悸が早まる。ついに着いたのだ、最上階に。
最上階までの残りの階段を踏みしめるよう、ゆっくり上る。

ふぅ、ふぅと心を宥め、光に飛び込んだ。
そんな私を待っていたのは、見渡す限りの花、そして得体のしれない無数の繭だった。


「な、に・・・・これ」
最上階のフロアは、階段を中心とした円状であった。
その円の外周に、等間隔で繭のような塊が並べられていた。
全面ガラス窓になっていて、そこから注ぐ光に照らされている繭に神々しささえ感じられた。

繭の間を埋める赤や黄色の花々を極力踏みつぶさないように、フロアをぐるりと一周してみる。
ふと、繭とは違う塊を視認して、それが人であることに気づいた。
声をかけるより先に、こちらに気づいたその人は立ち上がり、近づいてきた。

「こんにちは」
「こん、にちは・・・」
「あれ、もしかしてここに来たばかりの人かな。驚いたでしょう?」

その人は混乱中の私を察してか、労わるような視線を投げてきた。

「あの、えっと、・・・・あなたは?」
「私?天使ですよ。」
「天使?・・・あの、羽が生えたあれですか?」
「うん?よく分からないなぁ。天使は、ここ天国を管理するのがお仕事なの。」
「天国?!ここが、天国なんですか??」
「うん、そうだよ?」

不思議そうにこちらを見る天使の言葉に、動揺は隠せなかった。

「俺、ここの最上階に妹がいるって聞いて・・、だから、迎えにっ・・・」
「妹さん?ちょっと、どれかは私も分からないなぁ。ごめんなさい。」
「どれ、って・・・」
「この繭のどれかにいますよ」
「この繭の中に妹が閉じ込められているんですか?!」
「言い方悪いなぁ。安置しているんですよ?」
「そんな言い方・・・まるで」

そう、まるで。
頭の奥がズクと疼いた。
改めて、周りの繭に目を向ける。

これが?全部?
こんなの

「こんなの!!!嘘だ!」
「何がですか?」
「こんな繭の中に閉じ込めて・・・」


「ここは天国ですよ?」
穏やかに話す天使の瞳には狂気を感じた。


ここは天国
暖かな光に包まれて、綺麗なお花に囲まれて
優しい天使がお世話をしてくれる

天国じゃない、わけがない。
そうでしょう?


end

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