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2021年最高だった映画たち

さあ、今年も残りわずかとなってきたので、見た映画で印象に残ったものの感想です!そんなに見てない感じがしたのだけれど、Netflixとかも含めるとけっこう見てますな。それでは軽くいってみましょう!


聖なる犯罪者

全然期待しないで見たんだけど、めちゃくちゃ面白かった。少年院に服役した主人公ダニエルが、小さな村でふとしたきっかけで神父と勘違いされ、それをそのまま押し通すという物語です。煙草は吸うわ、酒は飲むわの破天荒坊主なのだけれど、その説教は不思議と本質を突き、村人の信頼を得ていきます。なんだろう、ひろゆきが権威の揚げ足取って喝采されるような感じですかねと思ったけど、書いたら全然違うな、これ。非行少年が言ったら誰も聞く耳を持たないその言葉も、神父という「ガワ」があれば、意味が生まれ、信憑性や神格性を帯びてしまうということなんですよね。でも、言葉自体は発するのが偽神父だろうが本物だろうが、同じ言葉のはずじゃないですか?それでも、そこに差は生まれてしまうし、その偽神父の言葉に実際に感銘を受けて人生が変わっちゃったりする人も出てくるんですよね。だとしたら、神父の立場を騙るのは悪いことなのか?それとも救いがあるのだから、神の代弁者としての地位を騙ってもよいのか?グルグルと考えているうちに必然の、そして答えの出ないラスト。ポーランド映画は年に1本くらいこういうのをぶっこんでくるので侮れません。そして、監督のヤン・コマサはSNSで中傷することを生業にしたネットマーケッターの話もNetflixで監督していて、こちらも中々の出来です。そして、ひろゆき全然関係ありませんでした。

『ヘイター』は去年紹介してましたね


ヤクザと家族

今年個人的にがっかりした映画ナンバーワン!綾野剛演じるヤンチャ坊主の賢治はふとしたきっかけで舘ひろし演じるヤクザの組長に命を助けられ、組に入ることになります。そこから始まる栄光と衰退のヤクザサーガ、なのですが……正直言うと、出来は非常によくないです。まず圧倒的に時間が足りない。1999年、2005年、2019年と3つの時代を描くのですが、せめてドラマ1シーズンくらいの時間は欲しかったです。2時間15分程度では短すぎて、その短い時間でいろいろなことを描こうとするため自然と急ぎ足になり、全ての登場人物と全ての場面が薄くなってしまいました。たとえば賢治が組に入る最初の場面なのですが、逃げたのを匿ったくらいで特に舘ひろしが何かをやったということもなく、強いてあげれば「声がダンディ」くらいしか思い浮かばないので、賢治がめちゃくちゃに惹かれて組に入る理由がよくわからないのですよね。その後もシナリオ優先で物事が進み続けるので、登場人物の動きが記号的で不自然なものとなり、感情移入が非常に難しいです。『新聞記者』でも感じたのですが、話を進めることが先にくるので、主人公含めた登場人物の解像度が非常に低いと言わざるを得ません。映画のために映画を撮っている、そんな印象さえ受けました。これは次に紹介する同じヤクザ関連の『すばらしき世界』と対象的でしたね。話も実にありきたりで、ありきたりにはありきたりの良さがあるんですが、ありきたりだと割り切って作ってない分、しんどかったです。と、まあこんなに色々言ってしまいましたが、やはり信じるのは自分の感性のみなので、まだ見てない方はぜひ見て感想を聞かせてください!


すばらしき世界

いやあ、暴力的な役所広司はいいですね。長い懲役から出てきた元殺人犯の三上はなんとか世間に馴染もうとするのだけれど、というヤクザ出所もの。監督によってはほんわか人情話になるのかもしれないけど、徹底的に世間の辛さと現実を味合わせるのがやはり『ゆれる』『永い言い訳』という容赦のない傑作を撮った西川美和監督ですね。出所者のドキュメンタリーを撮ろうとする青年を演じる仲野太賀などの脇を固めるメンバーも素晴らしいんですが、やっぱり役所広司が出色の演技ですね。暴力の中で生きてきて、かびが生えたように古臭く、そしてとてもキレやすい老人を、まるでそこにいるかのように演じています。特にキレ方がリアルで、マジで普段役所広司はスーパーとか飲み屋でブチ切れて大暴れしてんじゃないかと思わせるキレっぷり。1つ1つの仕草や癖、暴力的なのにやけに丁寧な暮らしなどが矛盾しつつも1人の人間の中に同居していて、昨今よく言われる「解像度が高い」ってこういうことなんでしょうね。罪を犯したら罰を受けるのは当然。ただ、その罰はいつまで受けなければいけないんでしょうか?弱肉強食、滑り落ちたら負けの今の日本で、ぜひ見て欲しい映画ですね。あと、長澤まさみが適度にクズな役で出てきてとてもいいです。


シン・エヴァンゲリオン

2021年ベスト解呪映画でした。元々、テレビ版を若い時に見なくて、割といい大人になってから見たので、「ふーん」という感じで熱狂に乗れずじまいでした。単純にエヴァや使徒の造形はすごくワクワクしたんですけど、やけに衒学的な言葉を弄して、何もないところに何かありそうに見せて膨らませているという物語の構成にどうしても引っかかってしまったんですよね。その後に新劇場版として、序・破・Qがあります。これも全部見たんですけど、序・破で割とまともな感じの物語(それでも衒学的ではあったけど)で、これならいいじゃんと思ってたところに、Qですよ。本当に「誰かシンジ君に全部教えてあげて」としか言えない強引極まりないシナリオに怒りさえ感じました。そこから10年近く放置されて、そしてようやく出てきたのがこの『シン・エヴァンゲリオン』でした。当然のように見に行きましたね。内容については以前のような尖った感じはなくなって、不必要な難解さも和らいではいたのですが、それでもそこまで傑作と思えたわけではなかったのです。ただ、見終わった後に、なぜか晴れ晴れとした気分になったんですよ。見渡せば、周りの人たちもみんななんかよかったなみたいな雰囲気。そこで気づいたんです。私もまたエヴァの呪いにかかっていたことを。リアルタイムで見てハマっていた人は当然なんですが、エヴァをあまり好きでなかったり、忌み嫌っていた人も、いや、実はそういう人こそエヴァに囚われていたんじゃないでしょうか。エヴァの話題が出たらクソミソに叩く、ちょっと上から「まあ衒学的だよね」なんてソフトに見下してみたり、とそういうシネフィルムーブをしていた人たち(私含む)こそ、エヴァに魂を奪われていたのではないでしょうか。まるで安倍総理が退陣した後の「アベ政治を許すな」の人たちのようです。敵として憎みながらも実は共生していた、呪いのようなその関係にようやく終止符が打たれました。そうしてやっと僕たちはエヴァなしの人生を歩けるのです。今年は、そんな記念の年でした。いまだに未見の人はどうすればって?見なくていいです。


あのこは貴族

あー門脇麦と水原希子!!門脇麦演じる超絶お嬢様・華子と水原希子演じる地方から出てきて自力で生きてく女・美紀の対照的な人生が交差する物語です。いやー、最初は水原希子がお嬢さん役かと思ったんですが、門脇麦のほうが煮え切らない感じがばんばんに出てていいですね。東京に住んで長いことになりますが、こんな貴族に会ったことはありません。どこかにアフタヌーンティーに4200円使う世界があるんでしょう。ひょっとしたらすれ違ってた可能性もあります。自分は圧倒的に美紀側の人生なので、貴族の苦悩があまり理解できていませんでした。親の意図に従って結婚することが至上命題で、それに抗うことなく人生を進める。でも、経済的に恵まれてはいるのだけれど、そこには締め付けられるような苦悩があるんですよね。底辺からのし上がって居場所を勝ち取っていく美紀の動的な苦悩に対して、その水中で我慢比べをしているよう静的な華子の苦悩。どちらが軽いとか重いとかじゃなく、それはもう本当に立場と階級の差で、彼女たちの人生は東京という都会でちょこっと交錯するんだけど、決して交わらないんですよね。それに美紀は気づいているけど、華子は気づいているかどうか。実家が太いってことはある意味残酷なんだよな、と思わずにいられません。とにかく、門脇麦と水原希子が素晴らしいので、ぜひ!


ミナリ

演技うまいババア最高映画です。アメリカ南部に移民した韓国系一家のサーガで、なかなかうまくいかない移住後の生活を淡々と描いています。ただ、主人公のジェイコブ(『バーニング』でにやけクソ野郎ベンを演じてた人)が、移民交流サイトに載ってそうなコラム「移民してやってはいけない5つのこと」を次々とやっていて、うわー、やめてー!ってなって、全然うまくいかないのですよ。やっぱりね、水源を探すのにはちゃんとダウジングしないとダメなんですよね。そんな家族の不幸を救いに来たのが、妻の母であるスンジャ。ユン・ヨジョン演じるこのおばあちゃんが、本当にそこらへんにいそうなただの婆さんで実にいいんですよね。全然綺麗じゃないし、特に頭もよくない。我が強くて、くどくて、デリカシーがなくて、いいこともそんなにたくさんは言わない。この役でユン・ヨジョンはアカデミー助演女優賞を獲得したのですが、「そこらへんの田舎の婆さん」という概念が世界的に不変であるという証左でもあります。ユン・ヨジョンはファミリー愛の映画『君が描く光』、ハイスピードサスペンス『藁にもすがる獣たち』で、同じようにそこらへんにいるボケ婆さんの役を演じていて、それも素晴らしいです。日本だと樹木希林みたいな感じでしょうか。というか、『藁にもすがる獣たち』でもスンジャって名前で出てくるんだけど、昔はめちゃくちゃありがちだった名前の代表格みたいな感じなんですな。そこらへんの婆さんに会いたくなったら、ぜひ見てください。

このミステリーもすげー面白いよ!


ノマドランド

開始5分で、「これはケン・ローチ並の格差ヘヴィー級パンチが来る……関係ないけどサッチャーが殴られる……」と覚悟を決めましたが、全然そんなことはありませんでした。この映画は経済格差を問題にするのではなく、市場原理の外に「ノマド」として生きる人たちを描いたドラマなのです。過酷なトレーラー生活をしても、それでもなおシステムの外に生きることに誇りを持ち、自由を求める人たちを見ていると、市場主義にどっぷりと肩まで浸かってぬくぬくと過ごしている自分の人生というものを嫌でも顧みてしまいますね。主演のフランシス・マクドーマンド姐さんの演技はさすがでアカデミー主演女優賞も納得。ただ、他のノマドの人たちも実際にそういう生活を送ってる人を使っているそうで、リアリティが凄まじい。トレーラーや車での生活を食事、車の改造、金の稼ぎ方、排泄の処理まで余すところなく描いています。圧倒的車中泊映画であり、人の、場所の臭いがする映画。アカデミー作品賞と監督賞を取ったのも納得です。私たちは、自由になれる。たとえそれが過酷だとしても。この映画で美しいアメリカの自然を映し出したクロエ・ジャオ監督が撮った前作『ザ・ライダー』も傑作なのでぜひ。


隔たる世界の2人

何度繰り返しても白人警官が殺しに来るぜ!32分の短いショートムービーですが、アメリカの虐げられる黒人側の視点というものがよくわかります。主人公は朝に女性の家から出ると、そこで白人警官に出会い、殺されます。すると、また蘇ってその日の朝に戻るというタイムループもの。主人公は色々手を尽くしてそれを避けようとするのだが、どうしても最後は捕まって殺されてしまう。それでも、希望を失わず、主人公は街に飛び出していくのです。BLM運動華やかなりし頃に作られた映画で、重くなり過ぎずに、それでいて軽くもなく現状の人種問題に光を当てていて、めちゃくちゃセンスがいいなあと思いました。こんな地獄のような世界に生きてると思ったら、運動の1つも起こしたくなるもんですよね。ただ、それはそれとして、単純に黒人と白人という人種間だけでこういう問題が起こってるんじゃないよね、ということも考えました。アジア人が標的になった事件もあったし、他の国では別の国籍が虐げられてるケースだってあります。なんだったら白人貧困層が酷い目に合ってる場合もあるでしょう。なんというか、そういう問題が人種間というよりも階級間で起きてるような気もするんですよね、現在は。ともかく、そういうことを色々考えさせるこのショートムービー。30分なら短いので、見たほうがいいですよね。


パーム・スプリングス

『恋はデジャ・ブ』から始まり、最近では『ハッピー・デス・デイ』『明日への地図を探して』などがあるタイムループ・ラブ・コメディ(そんなジャンルあるなんかいな)の1作です。友人の結婚式に参加したナイルズは、洞窟の中の謎の光によって結婚式の日を繰り返すことに。その繰り返す1日の中でうっかり新婦の姉サラまでもループの中に巻き込まれてしまいます。映像がポップで小気味が良くて、軽い映画のような感じなんだけど、じっくり見ると中々味わい深いです。ループする生活を送るうちに恋に落ちて、仲を深め合って楽しく「1日」を毎日過ごしていくのですが、次第にこの生活に対する価値観が2人の間で違ってくるんですよね。現状を維持するのか、それとも何かを捨てて前に進んでいくのか。そのすれ違いがちょうどいいスパイスとなって、飽きさせない作品です。重すぎない、それでも軽くはない。タイムループ・ラブ・コメディ未経験のあなたに、オススメの1作です。そして、最後にタイムループから脱出しようとする方法が斬新。このパターンは見たことがなかった。笑


サウンド・オブ・メタル

突然、耳が聞こえなくなったら……。リズ・アーメッド演じるメタルバンドのドラマーのルーベンは、唐突に聴力を失います。いきなり聴力を失うとか、考えただけで嫌なのですが、特にメタルバンドを仕事にしていたら最悪ですよね。ルーベンはその事実を最初は受け入れられないのですが、徐々にその悲しい事実を受け入れて、難聴者のコミュニティに参加したりします。ただそれでももちろん葛藤はあって、という物語です。タイトルのメタルとはメタルバンドの意味もあるけど、難聴者が装着する人工内耳の意味もあるのでしょう。今まで聞こえていた人間にとって聴力を失うということはどういうことなのか。この映画ではルーベンの音の世界を実にうまく表現しています(本当にそう聞こえているかというのはまた別の話)。特に音を失うタイミングのところは必見です。葛藤と試行錯誤のはてに訪れた無音の世界で、ルーベンが手に入れたものとは。ルーベンを演じるリズ・アーメッドはどんどん出世していますが、この作品でアカデミー賞主演男優賞にノミネート。そこまで鍛えなくてもよいのではないかというバッキバキに仕上がった肉体もご堪能ください。


オキシジェン

寝て起きたらわけのわからない生命維持装置に繋がれてた!どうする!という密室ワンシチュエーションサスペンス。どういうわけかやたらとこの手の設定が多いNetflixオリジナル映画なのですが、『オキシジェン』はその中でも状況の限定と情報の出し方が非常に上手でした。タイトルのオキシジェンは酸素のこと。生命維持装置の中で刻々と減る酸素にパニックを起こしながら、メラニー・ロラン演じるリズがちょっとずつ真相に近づいていくのはハラハラドキドキものです。『英雄は嘘がお好き』でジャン・デュジャルダンに池に突き落とされていたメラニー・ロランですが、今回はシリアスな役で奮闘。100分という短い時間を存分に使って、そして最後のどんでん返しも中々見事です。人生を変えたり3年後にきっちり覚えてたりするタイプの映画ではないですが、この手のきちんと楽しくて、金がかかってないというSFが私は大好きですね。ちなみに、金のないSFの選択肢は「人類をほぼ滅亡させる」「宇宙の閉鎖空間に置く」の2択となります。日曜の夜に明日の仕事のことを少しだけ忘れるために見てください。


ジェントルメン

さあ、みなさまお待ちかねのガイ・リッチー映画ですよ!マシュー・マコノヒー、チャーリー・ハナム、ヒュー・グラント、コリン・ファレル、ヘンリー・ゴールディングなど豪華キャストを登場させ、スリルとサスペンスに溢れたガイ・リッチー監督お得意の犯罪映画!こじゃれた音楽と小粋なシナリオ、そしてスローモーションを駆使したオシャレな映像!まさにエンターテイメントの傑作!!

って、思うじゃん?

それがね、見た後ぜんっぜん覚えてねえの。ほんと、全く記憶にないんですわ。まだマシュー・マコノヒーが何の役だったとかはうろ覚えでわかるんですが、ヒュー・グラントが何の役だったのかもう本当に思い出せないし、ヘンリー・ゴールディングがどうして登場したのかも全く記憶にありません。コリン・ファレルにいたっては、変な柄のジャージを着ていた記憶がうっすらとあるだけで、ストーリー上で何をしていたのかも覚えてないんです。そして、そもそも何がどうなって始まって脚本的にどう始末がついて終わったのかも忘却の彼方。ただ、見てる間はすごい楽しいんですよ。もうね、ほんと今年のベスト映画なんじゃないかってくらい楽しい。でも、覚えてるのは見て1時間くらいですかね。飯食ったら忘れます。面白いけど記憶に残らない、見終わっても何も残らない、それがガイ・リッチー映画の本質なのです。ただ、映画ってほんとに覚えてるんでしょうか?めちゃくちゃ感動しても、ちゃんと筋を言えなかったりすることもあるのではないでしょうか?ガイ・リッチーはそんな人間の記憶のあやふやさを暗に指摘してこういう映画を作ってるわけでは絶対ないので、かっこいい映像と音楽聞いて楽しんで全部忘れましょう!ビール3本くらい飲んでから見るとベスト!

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ジャージ、こんな柄だったっけ……?


Mr.ノーバディ

みんな大好き「ナメてる奴が最強だった」映画です!主人公のハッチはつまらない仕事をして、家族からも軽んじられる毎日を送っています。しかし、ある時にブチ切れてその元凄腕の工作員の異常な戦闘力を発揮するのです。ジョン・ウィックの脚本家と製作のコンビということで、だいたいテイストがわかるというものではないでしょうか。ただ、ジョン・ウィックと違うのはその動機の点。ジョン・ウィックは愛犬を殺されて復讐に乗り出しますが、ハッチは日々のうっ憤とか溜まりに溜まった負のエネルギーがあふれ出し、直接的な被害はそんなにないのにキレて暴力を振い始めます。そこからはノンストップ暴力なのですが、それが完全にオーバーキル。途中からは昔の相棒と、父親(クリストファー・ロイド!)も参戦してめっためたです。悪の組織、完全にとばっちり。たまたまハッチが乗ったバスでちょっと別の乗客相手にチャカついたせいで、壊滅の危機です。そんな(悪の組織にとって)理不尽暴力アクション、とてもよいので是非見てください。絶対続編作る気満々でしょ、これ。クリストファー・ロイドが銃ぶっ放してる姿は最高!

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ドク!!!


クローブヒッチ・キラー

「もしかして殺人鬼の正体は身近なあの人では……?」系サスペンス映画です。『サマー・オブ・84』とかこのジャンルの映画はけっこうあるのですが、割と出来がいいのが多い印象。10年前に街に現れ、姿を消した連続殺人鬼の情報を追ううちに、タイラーは自分の父親がその正体なのではないかと疑いを持ってしまいます。非常によくできたサスペンスで、尊敬していた父親に一度でも疑問を持ってしまうと全てが怪しく思えてきて、タイラーは必死にそれを心の中で否定しようとするのですが、それでも疑念はなくなりません。身近な人物が殺人鬼だったら、というのは人生で一度はみなさん考えたことあるかと思いますが(ないですか?あるでしょ?)、その恐怖と疑念を静かな中で説明過多にも不足にもなることなく描いていて、とてもいい映画です。ラストシーンは必見。タイラーが青年期を乗り越え、大人になっていく青春映画でもあります。ちなみにクローブヒッチとは縄の結び方のこと。もし殺人を犯す場合には、縄の結び方でバレてしまうかもしれないので、ご注意ください。

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クワイエット・プレイス 破られた沈黙

俺たちのガバガバサイレントサスペンスが帰ってきたぞー!!!!音を出すと襲ってくる謎の生物に支配された地球で、何とか生き残りを目論む家族を描いた続編です。「わずかでも音を出したら化物がやってきて殺される」という設定は、前作でもかなりケースバイケースで適用されるという緩さっぷりだったのが、今回はさらに加速してガバガバに!騒音発生装置の赤ん坊を抱えるという最悪のハンデは継続しつつも、今回は中に入ればATフィールド並の防御力を誇る圧倒的焼却炉の登場によって、化物と熱い戦いが再燃。焼却炉、そんなに音防げないだろ!また、この生物が泳げないということも今作では発覚したのですが、それだと日本とかめちゃくちゃ平和そうなんですけど、どうなんですか、そうしちゃってよかったんですか、日本とかは地図にない世界観ですか。というか、ここまで来ていまだにこの生物に名前すらつけてないのは、アレですか作中の語彙力なさすぎ設定ですか。最終局面では「えっ!そんな都合のいい待機時間あるのか!?」と驚愕の展開があなたを襲うでしょう。ともかく、いろいろな疑問が浮かんでくるのですが、疾走感でそれらを振り払って、レッツ・ガバイエット・プレイス!!

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「超即死」のマジパない感がIQ3


トゥモロー・ウォー

火薬!爆発!金かかってる!謎の化物によって壊滅しかけた未来に向かって兵士を送り込み、世界を救うんだ!というSFアクション大作です。Amazonオリジナルということもあり、たっぷり金がかかっていて素晴らしい。何がいいって説明が適当なことですね。未来に向かうワームホールが偶然見つかって制御できないとか、謎の生物を倒すワクチンをけっこう簡単に作ってしまうとか、ツッコミどころは満載なのですが、それを黙らせるクリス・プラットの筋肉と爆発なんですよ。序盤でワームホールの座標がずれてめっちゃ空中に放り出されて多数の兵士が死んだりするのですが、クリス・プラットの筋肉の前では小さなことなんです。

こんなん笑うやん。ストーリー的には特に述べることはありません。とにかくいろいろと大変だった2021年、もう小難しいことは考えなくない!意味とか別になくていい!爆発してアクション見たい!という方にはぜひオススメです。しかし、監督のクリス・マッケイ、『レゴバットマン ザ・ムービー』の後がこれってどういうことなんだ。


フリー・ガイ

すげえ感動するかっていうとそうでもないけど、お金をかけてきっちりとエンターティメントしていて、素直にハッピーエンドで終わる、そういう映画を見て楽しめるうちは私もまだ大丈夫だな、と思っています。ライアン・レイノルズが出る映画はだいたいそうです。ライアン・レイノルズが演じるゲーム内のモブ「フリー・ガイ」は繰り返しの毎日を送っていましたが、そこであるプレイヤーキャラに恋をすることで、自我が芽生え、普段とは違う動きをするようになっていくのです。ゲーム内のNPCを主人公にするという発想は秀逸で、ゲーム内世界というのが一般的になってきたからこそのアイデアで、きっちりとまとめてきました。『トゥルーマン・ショー』と設定は近いかもしれませんが、元々主役だった『トゥルーマン・ショー』と違うのは、モブが主人公にのし上がっていくというところですよね。ライアン・レイノルズが何回も死ぬのも面白いのですが、ゲーム会社の社長役にタイカ・ワイティティが出演して相変わらず冗談みたいな嫌な奴役をやっているので、そちらもお楽しみください。コーラ飲みながら、ゆったりした気持ちで見る映画で、こういう映画が世界を少しずつ救っているんです。


ドライブ・マイ・カー

濱口竜介監督が本気でぶん殴りにくると、こんなにもすごい映画ができるんですね。西島秀俊演じる家福悠介は秘密を抱えたままの妻を亡くします。数年後に、ある演劇祭に招かれて指導することになり、そこでみさきという寡黙な女性ドライバーが専属でつくことになります。そこで、家福は自分が目を背けていた感情に徐々に気づいていき、という物語。とにかく、圧倒的でしたね。現実と、家福が指導するチェーホフの劇「ワーニャ叔父さん」、それと車の中で聞き返す妻のセリフ。その三者が繰り返され、相互に参照し合って進んでいく脚本はとてもよくできていて、さすがとしか言いようがありませんでした。そりゃ、外国で賞取りまくるよね、という。180分という時間は普通だったら長く感じるのだけれど、地味でたいした起伏もない展開なのにそれを全然長く感じません。濱口監督のテーマであるコミュニケーションとディスコミュニケーションについてひたすら考えさせられる、とても有意義な時間でした。主人公の西島秀俊は安定の演技でよかったのですが、みさきを演じる三浦透子さんが寡黙でトラウマを抱えた女性を非常にうまく演じていますね。そして、希望があるラストシーンがとてもいいです。濱口監督は『ハッピーアワー』でも『寝ても覚めても』でもとてもラストシーンがよかったので、濱口監督はいろんな映画のラストシーンだけクローザーとして撮っていただきたいものです。

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池袋シネマ・ロサとキネカ大森ならまだ観れそうだぞ!


アナザーラウンド

北欧アル中映画!年に数本、頭がイカれたような映画を発表してしまう限界北欧映画界ですが、今年も素敵なへんちくりん映画を持ってきてくれました。アルコール濃度を一定に保ち続ければ人生がうまくいくという実験をした教師たちの話です。まず、アルコールを常に飲み続けて幸せになるかどうかを試すというのも完全に頭がおかしいですし、それをやってるのが全員教師というのもひどい話です。さすが、北欧デンマーク。なんでこんなものを作るんですか。ただ、効果は最初は抜群で、暗くてイケてない歴史教師だったマッツ・ミケルセンは舌が回りまくるナイスティーチャーへと変身、その他の教師たちもなんだかうまくいっちゃいます。お酒最高!アルコールは神!!しかし、北欧映画がそんなことで終わるはずもなく……という展開です。いや、私も酒は結構飲む方なんですが、ここまで飲み続けるということをそもそもしたいとさえ思わないので、学校にハードリカー持ち込んで飲みまくる姿は圧巻でした。やっぱりアルコールは欧米人の方が強いんでしょう、なんだか別の生物を見ているような感じでしたね。そして、いろいろあるんだけど、最後はマッツ・ミケルセンが踊る姿でなんか人生はそんなもんだという妙な納得をしてしまうのです。変な映画でしたが、とてもよかったです。酒を!飲め!

配信はまだ!酒を飲んで待て!


オールド

シャマランっ!!またお前の仕業か!!あるリゾート・ビーチに行った家族は、そのビーチに異変があることに気づく。そう、人が急速に老化していくビーチに閉じ込められてしまったのです。俺たちのシャマラン、またイカした設定からのずどーんオチ映画を作ってしまいました。とにかく設定ありきでグイグイ行くのがシャマラン映画道。途中で「あれ?このパターンならこのビーチから出られるんじゃない?」と視聴者が思った時に、出演者がちょうどそのパターンを試して死ぬというまるで脳内を読んでいるかのようなシナリオ運び。思いついた順にシナリオ書いてるのではなかろうか。この時間帯を「シャマラン言い訳タイム」と私は呼んでいます。そうして色々試した後に、キメ撃ちのラストのオチがずどーん!今回はそんなにどんでん返しでもないけどオチでずどーん!そして、案内役でちょこっと出てたシャマランが死にます。スタッフロールを見て、劇場が明るくなり、映画館の外に出てから「なんだったんだあれ」とちょっと苦笑しながらつぶやく、ここまでがシャマラン映画です。できれば誰かと見て、飯食べながらがちゃがちゃ映画の粗を突いて、食べ終わったらすっかり忘れましょう!それがシャマラン映画への礼儀です!レッツ・シャマラン!

まだAmazon primeでの公開はだいぶ先っぽいですが別に忘れても構いません


ディナー・イン・アメリカ

イケてない女子とダメ男の恋というのはなぜこうもいいのでしょうか。学校でも家庭でもグズ扱いされるパティは、偶然サイモンという男を匿うことになります。それが唯一の救いだったパンクバンドの覆面リーダー・ジョンQだったのです。タイトルにディナーと入っていますが、とにかく食卓描写がひどいです。一見、平穏で節度ある常識的な家族で、食事もちゃんと用意されていて、和気あいあいとした雰囲気のテーブルなのですが、そこはそれぞれの家庭に全く馴染めていないサイモンとパティにとっては針のむしろ。自分が社会の爪弾きものであることを再確認させられる場所で、ほとんど絞首台のようです。若い頃には、親から何かを押し付けられたり、家庭での疎外感を感じた人も多いのではないでしょうか。そんな狭い場所で苦しめられてる人たちに、外にはもっと世界が広がっているんだよ、と教えてくれる、そんな映画です。テンポも良くて、音楽も素敵。サイモンが火をつけたり狼藉を働く場面もあるのですが、きっちり喧嘩シーンでは絶望的な弱さを見せて体育会系にボコられていてそこも好感。パンクスは喧嘩が弱いのです。パンクな2人のパンクな恋物語を楽しみましょう。

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ポスターのセンスがべらぼうによい


由宇子の天秤

今年の私のベスト映画です。高校教師が教え子に手を出して最終的に2人とも自殺したという事件のドキュメンタリーを撮る映像作家の主人公・由宇子。仕事の合間には父が経営する塾の講師としても働いています。そんなある日、由宇子は父の衝撃的な事実を知ることになり……。とにかく、徹底的に「目」を意識している映画でしたね。ドキュメンタリーを撮る由宇子はその事件の真相を追う過程で、当然ながら関係者にカメラを向ける。ドキュメンタリーの公開で妥協をし始めたプロデューサーも撮る。実の父親にもカメラを向けて映像を撮る。自分に関係する事象を感情を排して理解するために、由宇子はカメラを向ける……そして、その「目」はやがて由宇子自身にも向かってくるのです。音楽もなく、全編を通して重苦しい雰囲気が漂い、見ていて辛い場面が長回しでずっと突きつけられますが、それでも目を離すことができない。それは自分の目が由宇子のカメラとなって、「これは正しいか?」「真実はなんなんだ?」と問い続けているからなのです。由宇子を演じる瀧内公美さんは圧倒的な存在感で、これで日本アカデミー主演女優賞を獲らなかったらウソですね。また、由宇子の父を演じる光石研、塾に通う女の子・萌(めい)役の河合優実、萌の父親役・梅田誠弘と、脇を固める役者さんも非常によい演技でした。「貧乏家庭の散らかり具合のリアルさ」でその監督の力量がよくわかると常々思ってるのですが、今作での散らかりっぷりのリアルさはかなりのものなので、春本監督は素晴らしい監督に違いありません。ずっとボディーブローを殴られ続けながら、最後に訪れる衝撃のフィニッシュパンチ。ぜんぜん爽快感ゼロですが、ぜひとも、食らってみてください。

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池袋シネマ・ロサでは12月23日までやっとるよ!!劇場ラストチャンス!?


DUNE 砂の惑星

序章の序章だけ、それにというくらいなのだが、なんでこうも面白いのでしょうか。フランク・ハーバートが書いた超絶面白いSF小説『デューン 砂の惑星』はホドロフスキーが映画化しようとして頓挫、デイヴィッド・リンチが映画化して大失敗といわくつきの原作なのですが、ついにドゥニ・大作SFはこいつにやらせとけ・ヴィルヌーブ監督の下で大ヒットとなりました。『ブレードランナー』の続編で、「画面が重い」「音楽も重い」「とにかく重い」「肩に小錦が乗ってる」ともっぱら私の中で評判だったヴィルヌーブ監督ですが、新作でもしっかりと重くしてきました!余計な説明はしないハードスタイルSFで、美麗がゆえに軽さが一切ない画面構成は、もう一目でヴィルヌーブ仕事です。そして、それをさらに重くするのがハンス・ジマーの圧倒的重量感ある音楽。重すぎて息継ぎするのを忘れそうで、たまにファミコンの8ビットを混ぜて欲しいくらいです。超大作映画音楽をがんがんやってるハンス・ジマーさんの音楽とヴィルヌーブ監督の重厚感ある映像で、とにかく重力2倍になったんじゃないの?的な重さをずーっと感じます。食べ物で行ったら、鉛カレー。しかし、その重さが実に映画に合っています。2時間半かけてほとんど序章しかやってませんが、スターウォーズがいったん終わり、これから新たな宇宙サーガが始まるのだと思うと、ワクワクが止まらないんです。主役のティモシー・シャラメがこのまま細いままでいることを願わずにいられません。そろそろデジタルで先行配信されるそうなので、まだ見てない人は年末にどうでしょうか?

ホドロフスキーが挫折した映画化のドキュメンタリーもめちゃくちゃ面白いよ!


ザ・モール

またデンマークか。なんなんだ、デンマーク。元料理人のウルリクは北朝鮮の闇を暴くために、北朝鮮との交流団体に入って出世します。ウルリクは何度も北朝鮮を訪問しているスペイン人アレハンドロに気に入られ、やがて徐々に北朝鮮の内部へとスパイとして侵入していくのです。なんでデンマーク人にそんな動機が生まれるのかさっぱりわからないのだけれど、デンマーク人がやりたかったら仕方ないでしょう。監督のはからいで謎の元フランス外国人部隊出身のジェームスと組んで北朝鮮の国際軍事犯罪組織のメンバーと直接会ってコンタクトをとっていく場面は、あまりにもリアルすぎて(当然なのですが)、心臓バクバクもの。バレるんじゃないかという感じがバリバリで、下手なホラー映画よりもよっぽど怖いです。色々な犯罪系のドキュメンタリーはあるかと思いますが、ここまで緊迫感のあるものは中々ないんじゃないですかね。年末年始の腑抜けた雰囲気が我慢ならない人は、これで緊迫感のある正月を過ごしてはいかがでしょうか。

なぜかDVDが安くなってる!クリスマスプレゼントは北朝鮮潜入ドキュメンタリーで決まり!


ラストナイト・イン・ソーホー

エドガー・ライトの新作を見ずにして、何を見るのか。ファッションの学校に通うために田舎からロンドンに出てきたエロイーズは、下宿先で寝る時に奇妙な幻覚を見るようになります。それはエロイーズの好きな1960年代のロンドンで、歌手を夢見るサンディの姿でした。最初はきらびやかな60年代の世界に興奮していましたが、次第にサンディは身を持ち崩していきます。そして、エロイーズは日中にも幻覚を見るようになり、生活はおかしくなっていくのです。『ホット・ファズ』、『ショーン・オブ・ザ・デッド』、『スコット・ピルグリム VS. 邪悪な元カレ軍団』など、センスはいいけどしょーもない映画を撮らせたら天下一品という感じのエドガー・ライト監督だったのですが、『ベイビードライバー』あたりから割とマジメな映画を撮るようにしたのか、この映画も笑わせようとは全然してません。それはそれで残念なのですが、エドガー・ライトがふざけ始めると本当にどうしようもなくなってしまうので、それくらいが丁度いいかなと思います。60年代の音楽やファッションというエドガー・ライト監督の趣味が全開で、それを全面に出していくと普通は野暮ったい映画になってしまうのですが、そこが監督のセンスの良さなんでしょう。スパッとまとまっていて、最後まで全くダレることがありません。エロイーズ役のトーマシン・マッケンジーも、サンディ役のアニャ・テイラー=ジョイもハマリ役でめっちゃいいのですが、個人的に好きだったのはサンディのヒモ役のジャックを演じたマット・スミス。こんなにヒモっぽい顔のやついないだろってくらいヒモ顔でした。世界ヒモ顔選手権にぜひ出ていただきたいと思います。まだがんがん上映中!

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女を殴るタイプのヒモ


他にも色々見ましたが、とりあえずこのへんで!!『マトリックス レザレクションズ』は見なくていいです!今年も映画よかったね!また来年!

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