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【前編】2019年最高だった映画たち【1-6月公開】

さて、もう今年もそろそろ終わりということで、今年見て印象的だった映画をまとめて感想書いてきまーす!!前半だけで約2万文字と長大な文章となってしまったので、前後編に分けました。年末年始のお供にどうぞ!

後編はこちら!


パッドマン

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この写真で手に持っているのは生理用ナプキンである。にもかかわらず、このおそろしいまでの爽やかさ、どうだろうか。「女性用生理用品を手に持った男性の笑顔ランキング」ではぶっちぎりで史上1位ではないだろうか。しかし、『パッドマン』を見れば自然と見た人もこの笑顔にもなろうというもの。21世紀になったのにインドでは生理用ナプキンの普及率は10%以下。妻が毎月不潔な状況になっているのを見るに見かねた主人公ラクシュミは、自作で整理用ナプキンの製作を決意するのだった。しかし、これが苦難の連続。自分で装着してみたり、生理と同じ状況を再現するために液体を仕込んでみたりするが、うまくいかず。妻からは家を追い出され、保守的な田舎の村では変態扱いされて追放、それでもラクシュミは製作をあきらめない。ラクシュミは大学教授の家に使用人として潜入。そこでPCを勝手に使ってどんどん研究していくのである。かつてこれほどまでに生理用ナプキンに情熱を燃やした男がいるだろうか。ラクシュミは生理用品を開発できるのか、そして妻の愛を取り戻すことができるのか!? 現代インドの矛盾と問題点を深く取り扱いながら、それでいてエンタメ性も失わない実話を基にした面白いストーリー。インド映画の新たな名作ではないだろうか。また、現代日本においてもドラッグストアで生理用品を男が持っていたりすると奇異の目で見られることがしばしばである。この映画では生理用品がいかに高度な技術で作られた優秀な工業用品であるかを示すとともに、そういった偏見の目を自分がしていることに気づいてはっとなるのである。ちなみに、従来のインド映画と同じように歌ったりはします。2018年公開だけど、見たのは2019年なのでこちらで!

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クリード 炎の宿敵

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やはり、ボクシング映画は非科学的トレーニングに限る。ロッキーシリーズリブートの第2弾はまたも熱い展開。今回の敵はロッキー4でアドニスの父親アポロを殴り殺したイワン・ドラゴの息子ヴィクター。ロッキーとイワン・ドラゴ、そしてアポロの絡み合った因縁がアドニスとヴィクターの決戦へと昇華されたシナリオで、非常に手堅く面白い作品になっている。確かにストーリーとしてはシンプル極まりないのだが、ボクシング映画に複雑な要素を取り入れても仕方ない。第1戦→敗北→修行→第2戦という単純なカンフー映画仕立ての方が奇を衒ってなくて安心して見れるのは確か。二転、三転からの大どんでん返しとかの映画はシャマランとかにやらせとけばいいのである。そしてやはり修行シーンは一番燃える。一度敗れたアドニスが砂漠でハンマーを振り下ろしてタイヤを殴り、自分を鍛え直すのである。思えば、ロッキー4でもロッキーは雪の中でソリを引くという効果があるのか微妙なトレーニングをしていた。しかし、科学的なことなどどうでもいいのである。ここで全身に変な機器をつけて体脂肪率とか反射速度を測ってプロテインを飲んでも映画としては盛り上がらない。なにしろ長年のロッキーを見てきた俺にとっては、トレーニングとは「ニワトリを追いかけること」であり、非科学的であればあるほど効果的という先入観が刷り込まれているのだ。ぜひ次回は亀田家をアドバイザーにして世界のジャブを取り入れた非科学的トレーニングを展開して欲しい。そして、今回もロッキーとアドニスの師弟関係も面白いのだが、ドラゴの親子関係にも焦点が当たっていて、それがまたいい。ロッキーに負けてすべてを失ったドラゴとヴィクターの父子鷹の苦闘は泣けてくる。その流れでびっくりするような人が再出演は本当に驚いたので、乞うご期待。いろいろあったのに出てくる根性がすごい!!(ほぼ誰だか言ってる)

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なぜ人は砂漠でタイヤを殴るのか

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サスペリア

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わ、わからない!!1977年のイタリア製ホラーのリメイク。ベルリンのバレエ団に入団したオハイオからやってきたスージーは瞬く間に主役級に抜擢されるが、そこからバレエ団では奇妙なことばかりが起こり、次々とダンサーたちは失踪していき、という物語。次に何が起こるのかさっぱりわからず、起こったとしても納得感が全くなく、ブレーキの壊れたF1カーに載せられたように超速で悪夢のようなシーンが過ぎ去っていく。すさまじいセット、美しい映像、そしてトム・ヨークの音楽がそれに彩を添えるのだが、もはやここまでいくと怖いというよりも「わからない」という方が先になる。そしてそのままストーリーは見事に着地するわけもなく、クラッシュするかのようにして終了。なんかすごいものを見せられたという感想はあるのだが、それがなんだったのかはいまだによくわかってない。あと、2018年最長手足映画にして超絶美麗BL映画の『君の名前で僕を呼んで』の監督のルカ・グァダニーノがなんでこの映画を監督してるのかもさっぱりわからない。ここまでするならティモシー・シャラメも関節ばっきばきにして出してくれや。ともかく、2019年で一番よくわからない映画になった。ただ、わからないものをそのまま見るのもまた一興というもの。もしわかったら俺に詳しく教えてください。また、よくわからないくせに俺はこの映画を見た後に悪夢を見てうなされたので、悪夢を見た人は俺を恨まないで!!

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バーニング

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『オアシス』『ペパーミント・キャンディー』のイ・チャンドン監督がすさまじい作品をまた世に生み出してしまった。主人公ジョンスが久々に会った幼馴染のヘミ。彼女に旅行先で会った謎めいた男ベンを紹介されるが、彼は自分の趣味は「ビニールハウスを燃やすこと」と嘯く。そしてある日突然消えるヘミ。ジョンスは彼女の行方を追うが、その先々にベンの影があり……という、サスペンスなストーリー。原作が村上春樹の『納屋を焼く』ということでなんだか身構えてしまう人もいるかもしれないが、映画から感じるのは頭からケツまでイ・チャンドンであり、濃厚イ・チャンドン汁満載映画となっております。イ・チャンドン監督は本当に画面が美しく、音楽も最高にいいのだが、やはり言葉でなく画面で物語を説明するのが本当にうまい。たとえば、序盤のヘミとジョンスが出会って二人で煙草を吸いながら話すシーンがあるのだが、ヘミが話しながら唾を垂らして煙草の火を消していて、それをなんとも思わないジョンスと共に、2人の育ちの悪さを見せたりもする。商業邦画映画の全部説明してしまう感じとは対照的で、それでも決して不親切には感じない技術とセンス。映画とはこうあるべきだというのを感じさせてくれる。ベンのにやけクソ野郎具合、そしてラストの全裸トラック野郎は必見。映画史上に残る全裸トラック野郎であった。


ちいさな独裁者

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勲章、丈の長い軍服、そして処刑と略奪。人はいかに権威に弱いのかということをコミカルにみせてくれる傑作。時は終戦末期のドイツ国内。ある脱走下っ端兵士ヘロルトが偶然にも将校の軍服と勲章を見つける。ヘロルトはそのまま大尉になりすまし、道行く兵士たちを糾合し、親衛隊を名乗って大暴れ。物資を略奪し、即席裁判で兵士を殺し、収容所を支配したというストーリー。驚くことに、これが実話に基づいた話ということ。話をだいぶ膨らませてるのかと思いきや、実際にも100人以上処刑していて、おまえ実際の方がもっと悪いやんけこのサイコパス野郎!という気分になった。そんな戦争末期実在サイコ映画なのだが、映画自体はとても面白い。軍服と勲章をまとったヘロルトのはったりに行く先々の兵士は次々と従っていき、人間は権威に非常に弱いという事実を残酷なまでに証明。また、それだけなく、明らかに彼が偽物であることに気づきながら従う部下が略奪を謳歌する姿は、戦争末期における緩みまくった軍の規律をまざまざと見せてくれた。「ヒトラーに負けなかった」とか「結婚したら嫁がヒトラーだった件について」とか「ドラゴンクエスト ユアヒトラーズ」とかじゃなくて、こういうナチス映画ならもっと見たいなー。


女王陛下のお気に入り

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なんともすさまじい映画であった。『ロブスター』、『聖なる鹿殺し』で謎世界観を我々に見せて呆然とさせた鬼才ヨルゴス・ランティモス監督の新作は、歴史ものということもあり前の2本よりはだいぶわかりやすかった。ただ、その狂気は緩むかと思いきや逆に加速。イングランドに君臨するメンヘラ女王アンの寵愛を得るために、知恵袋として侍る側近のサラと使用人として瞬く間に頭角を現していくアビゲイルがドロッドロに争っていく。レズ行為も辞さないその恐ろしい争いは豪華な衣装と美しい宮廷セットの下で静かに激しく進行。サラとアビゲイルの間で揺れ動くアンを演じるオリヴィア・コールマンの演技が出色。どちらにも愛を注いでいるようでどちらにもちっとも愛を注いでなく、自分でさえも空虚に見つめるその演技はお見事。アカデミー主演女優賞は当然の結果だった。サラを演じるレイチェル・ワイズ、アビゲイルを演じるエマ・ストーンもともに助演女優賞にノミネートされ、まさに女性の映画としてすさまじい完成度だった。ちなみに去年のアカデミーの衣装デザイン賞は『ブラックパンサー』ではなく『女王陛下のお気に入り』がもらうべきだったなあと今でも思っている。女性だけでなく、「全裸男性がたくさんのオレンジを投げつけられるシーンをスローモーション」とかけっこうな謎シーンも多いので、そこもお楽しみに!


アクアマン

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今年最高の「見るハンバーガー」だ!! ジェイソン・モモアの男一代太閤記 in どっかの海である。もうストーリーなんか説明はいるまい。海の生き物を操れるジェイソン・モモアがなんやかんやがんばる話である。とにかく見やすさ・わかりやすさという点では比類ない作品となっており、想定されている視聴者の最低IQは3くらいである。特筆すべきはその爆発ストーリーテリング。ちょっと会話が長くなってきたら爆発、ストーリーがダルくなってきたと思ったら爆発、キスシーンでは背後で爆発100連発と、もう爆発がメインなのか映画がメインなのかわからない始末。しかし、それでも雑ということではなくて、とにかくハリウッドスーパーヒーローもので培われた「アホに映画を見せるテクニック」というものがこれでもかと詰め込まれており、それによるすさまじいテンポはもはや芸術の域である。140分以上あるのだが、体感は10分。普通に人をぶん殴ったほうが強いんじゃないかというジェイソン・モモアの肉体の説得力も含めて、とにかく万人に受け入れられる映画の強さとしては比類ないものがあり、これはもはや「見るハンバーガー」である。そういう映画に対して「味が薄い」とか「ダシが効いてない」とか「チープ」だとか批判しても仕方ない。ハンバーガーはハンバーガーなのだから、がぶっと噛みついてコーラで流し込むのが正しい食べ方だろう。ストーリーはもう忘れたが、ウィレム・デフォーとかドルフ・ラングレンとかニコール・キッドマンみたいなシリアス系俳優がトンチキスーパーヒーロー衣装を着ているので、それは覚えています。

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なんやねんこの全体的なフォルム

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アリータ

『アリータ:バトル・エンジェル』アリータ-w1280

ロバート・ロドリゲスが金を手に入れたぞ! 木城ゆきと先生の名作SF漫画『銃夢』をハリウッド映画化したのが、この『アリータ』である。その完成された近未来の世界観と強烈なストーリーから「ほんとに映画化できんのかい?」と俺は思っていたのだが、期待以上のものが出来上がった。監督はロバート・ロドリゲス。そう、あのロバート・ロドリゲス、『フロム・ダスク・ティル・ドーン』や『シン・シティ』、『プラネットテラー』『デスペラード』などであまりにも独特な活劇を見せてきたロバート・ロドリゲスなのである。「この殺し方をやりたかったからこのシーン撮ることにしたんでしょ?」としか思えないような場面を撮ったり、B級的な金のかからない技法を得意としていて、『プラネットテラー』ではゾンビに足を食いちぎられた女の義足にマシンガンを装着させて撃ちまくらせてたし、『デスペラード』ではギターケースからミサイルを発射していた。そんなロバート・ロドリゲスにお金をめっちゃ使わせたらどうなるのか? 結果は大正解であった。あまりにも趣味色が強すぎて普通の映画だと冗談みたいだったアクションが半分漫画のようなこの映画の世界の中ではむちゃくちゃかっこいいアクションとして普通に受け入れられる。また、アリータの過剰に大きな目は当初気持ち悪いと思っていたのだが、映画が始まると全く気にならない。それどころかその大きな目で感情を大いに表現していて、人間よりも人間らしかった。『アリータ』はまさにロバート・ロドリゲスのための映画だった。興行的にも世界では成功だったらしく、続編も期待できるのではないか。続編ではぜひともタランティーノを俳優として出演させて、特に見せ場もなくさっさと首を飛ばして殺して欲しい。あと、オスカー俳優マハーシャラ・アリが特にマハーシャラ・アリじゃなくてもいい役で出てるので、そろそろ仕事選んだほうがいいと思います。

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異常にかっこいいバトルアクション


ギルティ

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これほどにおっさんの横顔を見続ける映画が他にあるだろうか。主人公のおっさん・アスガーは緊急通報指令室のオペレーターである。そこにある女性からの緊急連絡が入り、彼女が誘拐される寸前であることを知る。なんとかそれを助けようとするアスガーだったが、彼自身も実は秘密を抱えている。そんな音声だけで話が展開するミステリー作品。ほとんどの場面は緊急通報室であり、しかも電話の向こう側とヘッドセットで会話し続けるアスガーの横顔が映っているシーンばかりである。そして、アスガーの横顔から離れたと思ったら、今度は緊急通報室にいる他のおっさんの横顔である。こんなにも加齢臭漂う映画は他にないだろう。4DXで臭いが出てこなかったことを我々は感謝すべきである。しかし、この横顔がまた雄弁なのである。アスガーは割とポーカーフェイスなのだが、ずっとアスガーの顔を見続けてるとわずかな変化にも気づくようになるのだ。電話の向こうで次々と展開していく事件に翻弄されるアスガーの横顔を見て、我々はひたすらハラハラドキドキである。また、この手のミステリーに不可欠などんでん返しも待っているし、最後の静かな終わりも余韻があってよい。まさに今世紀のベストおっさん横顔映画に認定してよいだろう。しかし、まあ金がなかったのだろうけど、これはだいぶ安く上げたもんだぜ、ほぼおっさんの給料だけだからな(笑)


グリーンブック

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俺たちのピーター・ファレリー監督がなんとアカデミー作品賞! やったぜ! まだ黒人と白人が入れる店が違うなど人種差別が激しい60年代のアメリカ。天才ピアニストであるドン・シャーリーが南部にツアーに出かけるのだが、黒人には危険な南部を旅するのに選んだ腕っぷし自慢がイタリア系のトニーだった。「アカデミー作品賞」「差別を乗り越える」「黒人と白人の二人旅」なんて言葉が並ぶと「おっ、お涙頂戴か。物語終盤でRADWIMPSがジャーンってなるやつか、そんでモーガン・フリーマンが出てきて主人公抱きしめる系か」と思いがちだが、いかんせんこれがそんなに単純な話でもない。『メリーに首ったけ』など元々ラブコメばっかり撮ってたファレリー兄弟が、二人の旅でどっかんどっかん笑わせていくわけですよ。そして、がさつを絵に描いたようなトニーも変わっていき、そのトニーに振り回されつつドン・シャーリーが自分で作っていた殻をどんどん破っていくという話で、もはやこれは黒人映画ではなく、一人の孤独な男の魂の救済の物語なのだ。そこを「絶対に泣かせてたまるか」というファレリー兄弟の強い意志で極力しんみりさせずに撮り切ったこの作品はやはりアカデミー賞を取るべくして取ったのだな、と思わざるを得ない。トニー役のヴィゴ・モーテンセンの二の腕の太さは必見だし、ドン役のマハーシャラ・アリはやっぱりアリータで目の光る変な役やらないでこういうのに出るべきである。あと、ピーター・ファレリーが後でインタビュー受けて「ほんとはコメディ取りたいんだけど、最近はいろいろうるさくて撮れない」というようなことを言ってて、ハリウッドにおけるポリコレ圧力の強さというものを感じざるを得なかった。そろそろ反動きそうだなー。


ブラック・クランズマン

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アダム! ドライバーの!! 鼻がデカい!!! スパイク・リー監督の実録潜入捜査もので、いい意味でも悪い意味でも黒人映画。黒人差別が盛大に行われていた時代、黒人警察官が白人に成りすましてKKKに潜入するという実際にあった話。ただ、これってかなりミスリードなあらすじで、映画見るまではその黒人警察官がKKKの頭巾かぶって潜入捜査するものだと思ってたら、黒人警察官は電話をかけるだけで、実際に潜入するのは鼻デカ・ドライバーだという事実を知ってけっこうがっかりした。ただ、それでもスリリングな捜査過程はさすがスパイク・リーというところを見せてくれた秀作。個人的にはKKKの頭巾を取るシーンで、頭巾の下から出てきたアダム・ドライバーの鼻があまりにもでかくて爆笑してしまったが、これで笑ったのは俺だけだと思うので参考にしなくていいです。さて、この作品でようやくスパイク・リーがアカデミー賞(脚色賞)を取ったわけですが、同時に『グリーンブック』の受賞には抗議の姿勢を示したそうである。ただ、作品を見ればわかると思うのだが、『グリーンブック』の方が単純に優れているんだよね。確かに『グリーンブック』は対立を最終的に融和に持っていく手法で賛否両論があるかもしれないが、それでもあの映画は黒人映画を超えた人類普遍的な問題を扱っている映画だから作品賞を取れたのである。スパイク・リーは黒人映画という括りをずっと出てなくてそれは強みでもあるのだけれど、小さくまとまってしまっていることは否めないだろう。日本人の俺たちにとっては正直よくわからない話も多いし。そこが差になったのかなあ、と。ただ、この作品は実録ものとしてとても面白いです!


運び屋

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撮影当時87歳のイーストウッド、いまだ衰えず。前作『15時17分、パリ行き』、前々作『ハドソン川の奇跡』などかなり最近は愛国寄りになってきていて、うーん、なんかもう年だからイーストウッドもこうなってきちゃうのかなー、と思っていたら、普通に最高の作品をぶち込んできた。恐るべし。花の栽培で成功していたアールだが時代の波に巻き込まれて破産、仕事一筋で蔑ろにしてきた家族からも見捨てられ、後は死んでいくだけという老人が、ふとしたことで麻薬の運び屋となる。誰も90歳の老人が運び屋をやると思ってないので、仕事は進んでいき……。と、あらすじだけ読むとずいぶんと陰鬱なストーリーになりそうなのだが、ところがどっこいこれが軽妙極まりないのである。ドライブ中に暢気に歌ってるわ、モーテルに女の子を呼んで豪遊するわ、孫に進学資金出してドヤ顔するわ、カルテルの若い売人のにーちゃんと軽口叩くわ、疎遠だった娘とちゃっかり和解するわ、となんだかノリが異常にポップ。近年は特に重苦しい映画が多かったイーストウッドの今更ながらの新境地を見た気がして、ああ、やっぱすげーなあこのじじい、と感嘆。いくつになっても衰えない映画ゾンビの生きざまに感服でございます。印象的なシーンはいくつもあるのだけど、まだ花の栽培が順調だった頃に、コンテストでおしゃべりしている妙齢の女性たちに「おいおい、美人コンテストは違う階だぜ?」と声をかけている場面が最高でした。ええ!? この年で色男キャラでいくの!!? って。でもまたその衣装もかっこいいし、立ち姿がめっちゃセクシーなんだよね。じじいの色気、出してます!

https://www.netflix.com/title/81035551


シンプル・フェイバー

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ヘンリー・ゴールディングの死んだ目!!! アナ・ケンドリック演じるシンママのステファニーとブレイク・ライブリー演じるバリキャリママのエミリーはママ友同士仲良くなったのだが、突然エミリーが失踪。ステファニーは彼女の行方を追う……というママ友サスペンスで、いつかの昼ドラでテレビ朝日でやってたような内容っぽいのだが、主題はそこではない。この映画はエミリーの夫ショーンを演じるヘンリー・ゴールディングの目が死んでいる、という1点のみにおいて見るべき映画なのだ。『クレイジー・リッチ!』に出演するなどして最近ハリウッドのアジア枠で売り出し中のヘンリー・ゴールディングだが、その虚無イケメンっぷりは半端ではない。確かに映画自体はなかなか楽しめるサスペンスで、アナ・ケンドリックがコメディエンヌぶりを抜群に発揮しているし、ブレイク・ライブリーもそのシュッとした体型と立ち振る舞いで存在感あり。脚本も面白い。なのだが、やはりどうしてもヘンリー・ゴールディングが出てくるとその虚無の沼に我々は引き込まれてしまうのである。けっこうなどんでん返しのラストを見終わっても、覚えているのはヘンリー・ゴールディングの底なし沼のような虚無の瞳である。飯を食っても虚無、浮気をしてても虚無、妻と抱き合っても虚無なのです。このヘンリー・ゴールディングの存在感、何かに似てると思ったのだが、これは日本でいうと東出昌大なのではないだろうか。純粋なる虚無、すべての物語を飲み込んで無に帰していくそのヘンリー・ゴールディングの姿は、やはりハリウッドの東出昌大と呼ぶに相応しい。これからも出演作が目白押しのヘンリー・ゴールディングは要注目俳優。いつか東出昌大と共演して、見る者に恐ろしい恐怖を味合わせてほしい。

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ハリウッドの東出昌大

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東出昌大の東出昌大



岬の兄妹

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この世にいくつかの地獄があるとしたら、確実にその一つには入るであろう現代日本の地獄。片田舎の港町で暮らす兄と妹。親が死んで知的障害のある妹を引き取った兄はなんとか二人で生活をしようとするが、職場をクビになってしまう。食事もまともに取れずに困窮する中、兄は妹に売春させる仕事を始めてしまう。あらすじだけ読んでも本当に最悪なのだけれど、実際の映画も本当に最悪の気分にさせてくれる名作。映画のどこを見てもほとんど救いがなく、それでも生きていき、人生は続いていくのだという、まさにこれが地獄でなくてなんなのかという内容である。ただ、クソ田舎出身で地元にそこそこ帰る身としては、このような地獄が地方にいくらでもあることは身を持って感じられるのだ。俺の同級生でも別に何か悪いことをしたとかミスったわけでもないのに、非正規で綱渡りのような生活を家族としている人たちがいる。地方だけでもない。一歩間違えたら底なし沼という場所が都会にもどんどん広がっているのだ。兄を演じている松浦祐也は足を引きずりながら、本当の底辺感を出していて素晴らしい。また、妹を演じた和田光沙さんの演技もすごい。どこをどう切っても辛いストーリーの中で、時折挟まれる彼女の無邪気さが物語を余計に苦しいものにしていく。必見。

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こんなにリアルな一万円札なかなかないよ

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オアシス

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仲の悪いイギリスのロックバンド兄弟の話ではない。公開自体は2002年なのだが、リマスターされて今年初めて見たのでこちらで。イ・チャンドン監督の愛と幻想、そして現実の入り混じった傑作。刑務所帰りの主人公ジョンドゥはちょっと行動が怪しく、家族の元に戻ってもつまはじき者。そんなジョンドゥが重度の脳性麻痺である女性コンジュと出会って、二人は恋に落ちる。まず、何がすごいってコンジュ役のムン・ソリさんの演技がすごい。最初見た時は本当にそういう病気の人なのかと思ったほどに強烈で、よくこんな演技をできたものだと感心したし、なんか人権団体とかから変なこと言われたんじゃないだろうかと思ったほどだ。それくらい鬼気迫る演技だった。なお、ムン・ソリさんはこの役のために実際にリハビリセンターで働いたそうな。また、ジョンドゥがコンジュを車椅子とおんぶでいろんなところに連れていってデートをするのだが、そこで唐突に健常者となったコンジュが現れてジョンドゥと話したり踊ったりするのだ。この演出が本当に見事で2人の中ではこうなのだろうと思ったのだが、しかしその直後に元の障がい者の姿にコンジュが戻った時の落差がすさまじく、本当に現実を思い知らせるような構造になっている。イ・チャンドン監督はおそろしい。結局最後はハッピーエンドなんかになるはずもないのだが、しかしラストシーンは極めて美しく抒情的で、今年見た恋愛映画では『愛がなんだ』と双璧を張るできだった。ぜひぜひ、見てほしい!

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旧版のこのジャケはすごい


希望の灯り

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スーパーマーケットの灯りがくすんだ街にほのかに浮かぶ。実に、夜の映画である。旧東ドイツの街ライプツィヒ、建設現場を首になった主人公クリスティアンが大型スーパーマーケットに就職。そこでひっそりと生きる人たちを描いた人情もの。主人公のクリスティアンが在庫管理係として夜にフォークリフトを駆使して働くのだが、派手さはゼロ。しかし、東西統一から取り残されたようなワケありの人々が地味だけれども個性的で、その妙な間とかセリフがとてもユーモラス。爆発とか全然しなくてもちゃんとストーリーは進むということを、アクアマンは学んでほしい。地味だがじわじわと面白いストーリーで、なんとなく見始めたら止まらない映画。スーパーマーケット自体がその街の灯りとなっているように、この映画自体がじんわりと暗闇に灯りを灯しているようでもある。なんだか派手な映画に疲れた時には、見てもらいたい。人生にはステーキも必要だが、雑炊も必要なのだ。ヒロイン役のサンドラ・フラーは『ありがとう、トニ・エルドマン』で仕事中毒の娘を演じていて、あの時も謎全裸を披露したりとすごかったが、今回もグッドアクト。あと、映画を通してフォークリフトがふんだんに登場して、主人公クリスティアンが前世はフォークリフトを虐待してたのかと思うほど相性が悪くてセンスがない。2019年ベストフォークリフト映画なので、フォークリフトマニアの諸兄はまさに必見である。


幸福なラザロ

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人間にとって幸福とはいったい何なのか。すごい映画だった。中世のような暮らしを送るイタリアの田舎村。そこで家族がなく人のいいラザロは村民の頼み事を全く断らず、いいようにこき使われていた。しかし、実はその村は世界と隔絶されていていまだに小作制度が廃止されたことを領主から知らされていなかったのだ。実際にあった詐欺事件を基にしているらしい。この映画の主人公ラザロは非常に象徴的だ。村人に好き勝手に使われながらもラザロは文句ひとつ言わず、領主のドラ息子であるタンクレディにも尽くす、そして村人たちが都会に放り出された後には、都会に出かけて行ってそこでも無償で彼らに奉仕をする。ラザロを演じるアドリアーノ・タルディオーロは宗教画から出てきたような見た目で、この寓話的なストーリーにとてもマッチしている。映像は美しく、村はまるで中世のようなのだが、都会に移ってきてもどこか浮世離れしたSF感を漂わせている。この映画を通じて、純粋無垢な瞳でラザロは観客に「本当の幸福とは?」と問いかける。そして、その衝撃的なラストシーンが終わっても、彼はその目で問い続けるのだ。非常に地味でゆっくりしている映画なので、前半で寝ないことだけを心掛け、寝そうになった際には太ももにナイフを突きさしていこう。そういえばタンクレディって名前の登場人物が出てきて、この名前ロマサガ2で見て以来なんだけど、イタリアでは一般的なんだろうか? 日本でいったら勅使河原とかにあたるんだろうか。


キングダム

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大沢たかおが面白すぎて死ぬ。漫画の映画化としては非常によくできた作品である。元々、漫画の映画化は出来が微妙なものが多く、微妙ならまだよくて爆死しているものばっかりだったので、「映画化決定!」となると原作ファンの悪罵の声がTwitter上を踊るのだが、近年はなかなか出来のいいものが多いのではないだろうか。『累』、『恋は雨上がりのように』、『ちはやふる』などの秀作も多く、一昔前の漫画実写化=爆死決定という雰囲気はもうないだろう。こらこら、『テラフォーマーズ』のことは忘れなさい、はしゃぐな、はしゃぐな。さて、この『キングダム』なのだが、割と爆死率の高い壮大世界×アクション系だったのだが、非常に良かったのではないか。長大な物語を序盤の1エピソードに絞ることで密度を圧縮、山崎賢人の異常な身体能力を軸にして圧倒的スピード感で駆け抜けた。毎シーンのごとく山崎賢人は叫びまくってて普通にうるさいのだが、もうそれは慣れた。他の配役では、山岳民族の女王・楊端和を長澤まさみに演じさせたのは意外だがはまり役。アクションは少々もっさりしていたが、骨盤の太さと肩幅の広さを存分に生かして異民族の女王感がよく出ていた。そして、肝心の仕上がりだが、ラストまで弛みなく盛り上がり、続編への期待も十分というところだったが、結局は大沢たかおが全部持っていきました。映画自体よりも、途中で出てくる大将軍王騎を演じる大沢たかおが面白すぎるのです。この役のためにめっちゃ筋トレして体をむちゃくちゃ大きくしたのも面白いし、原作に忠実に「ふふぅん」とか若干オカマチックなしゃべり方も最高に面白いし、馬に乗ってるフォルムがもはや面白いし、もう映画終わって大沢たかおのことしか考えられなくなっているので、ロマンスの神様この人でしょうか。もはや『キングダム』の主人公は大沢たかおでいいのではないだろうか。今作ではぐっと少なかった出番も続編ではもっと増えてほしい、そのことだけを考える日々が続きます。あと昌文君を演じる高嶋政宏も面白いです。

キングダム要潤

大沢たかおの部下の要潤も超面白い

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愛がなんだ

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これは愛なのか、なんなのか。今年見た邦画でぶっちぎりで一番面白かった。主人公のテルコは結婚式の二次会でマモルと出会う。テルコはどんどんマモルにハマっていくが、マモルにとってはテルコはただの都合のいい女で。という、報われない恋愛もの。そこで女子ががんばってやっと振り向いてもらえた! ヤッホーハッピーエンド! 木村カエラの歌がじゃーーん!! と、普通の女子向け映画だったらそうなるのだが、いかんせん今泉力哉監督の映画なのでそんな普通に行くわけありません。テルコのマモルへの愛も一方通行だし、マモルも別の女の人に片思い。そして、親友の葉子にひどい扱われ方をしながらも尽くすナカハラ。そんな報われない愛の姿をまざまざと見せつけられても、いや、見せつけられるからこそ、テルコはどんどんとマモルにハマっていき、執着していく。それはもはや恋愛映画というより、哲学ホラー映画。これはいったい愛なのか、なんなのか。確かに最初は単純に好きでも、だんだんとそれが憎しみに変わっていったり、より薄い人間的な情に変わっていく場合もあるし、肉体的な繋がりだけになる時もある。単なる執着にも近いその姿をひっくるめて「愛」なのだろうかと視聴者に問いかけてくるわけです。テルコ役の岸井ゆきのさんは超絶キュートでハマリ役、マモル役の成田凌もクズだけど絶妙に憎めない感が十分に出ていて最高だったのだけど、ナカハラ役の若葉竜也がすさまじい存在感の演技だった。映画館は若い女の子でいっぱいでした。彼女たちにとっては一番切実な問題。

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ぎりぎり女を殴らないレベルのクズ

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ビハインド・ザ・カーブ

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地球は丸くない!平面で浮いているのだ!Netflix製作のドキュメンタリー。配信系のドキュメンタリーはあんまりここでは紹介しないんだけど、今年見た中では最高に面白かったので。アメリカで地球平面説を信じる「フラッター」と呼ばれる人たち。統計によるとけっこうな数のアメリカ人がこのフラッターであるそうだ。彼らは地球が平面であると信じて疑わず、いろいろな証拠を持ち出して地球平面説を主張する。それらは科学者によってことごとく否定されるのだが、彼らの主張は覆らない。もはや信じたいことだけを信じるという姿勢で、おそらく宇宙に出て地球を見たとしても「これは目の錯覚だ」とか言って信じようとしないだろう。最初は笑っていたのだが、だんだんと怖くなってきた。なぜなら、これは日本でも流行している「ニセ科学」と同じだからだ。彼らもフラッターと同じで、知識のある科学者たちがどれだけ証拠を並べても、自分に有利な証拠だけしか信じない。反ワクチンやホメオパシーなどの非科学的なものを信じる人たちの心理というものを、これでもかというくらいまざまざと見せつけられる。途中めっちゃ笑ったのは、ジャイロの傾きで地球の平面説を証明するという実験をしたのだけれど見事に地球が球体であることを証明してしまった場面。「いやー、ビビったよね」とか言ってそれでそのままその証拠はうやむやにしてしまい、めっちゃ笑った後に真顔になってしまった。ニセ科学を信じる心理を学びたい人には、よいドキュメンタリーです!地球は平らだった!!

https://www.netflix.com/title/81015076


アメリカン・アニマルズ

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僕たちは普通であることを許されない。今年上半期でもかなり上位の面白さを誇った風変りな一品。図書館で貴重書を盗んで換金しようとした実話というだけでも興味を惹かれるのに、さらに変わってるのはその構成。ドラマパート部分は俳優に演じさせるのだが、それと同時に実際の犯人たちのインタビューも組み込まれるという異色作品。これがどうなのかと思ったのだけれどもかなり面白かった。実際のドラマストーリーが展開した後に、画面が切り替わって本人に「この時どういう感じだったの?」とインタビューが入っていくというまさに国語のテストで登場人物に答えを聞いているようなものなのだ。そのインタビューも交えて再現された盗難計画は非常に杜撰。なんかやばそうって感じで実行を延期したり、スタンガンで気絶させるつもりがうまくいかず、逃走経路もきちんと確保できない。そして何より盗むものが悪い。ダーウィンの『種の起源』はともかくとして、オーデュポンの『アメリカの鳥類』を盗もうなんてのは一度見たことがある人間ならば考えようともするまい。この『アメリカの鳥類』はアメリカの鳥たちが原寸大で描かれた巨大本で、高さ1m、分厚さも相当で重量がすごい。その上、4巻セットという恐ろしい代物なのだ。俺も実際に現物を見たことがあるのだが、あれをこっそり盗むくらいだったら銀行強盗した方がまだ楽だろう。その杜撰な計画で行けると思った青年期特有の傲慢さ、それを求めるようにさせた「普通であること」をダサいとする若者の雰囲気、それでも誰しもが心のどこかで「いずれ止めるだろう」と思っていたという矛盾。すべてがないまぜになって青春の苦悩と一瞬の美しさを現したほろ苦い青春映画となっています。監督のインタビューも必見。

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こっそり盗めるわけないだろ、こんなでかいもん

Amazon primeでレンタル可能でっせ。


ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス

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図書館とはいったい、なんなのか? 世界で一番有名な図書館の1つであるニューヨーク公共図書館。『ゴーストバスターズ』など数々の映画の舞台にもなっているこの図書館の活動を記録したドキュメンタリーである。まず、目を引くのはその長さ205分、約3時間半である。映画館では途中で1回休憩が入りました。この映画を眠らずに見れた人はそれだけで誇っていいと思うし、俺は2回くらい寝た。というか、1つのシーンが超絶長回しなので寝て起きても同じシーンだった。ただ、その長さもすごいのだが、内容も濃い。ニューヨーク公共図書館が図書館という枠を超えて活動する姿が克明に撮られていて、実に興味深い。たとえば、ピアノのコンサートを開く、アメリカのキリスト教原理主義を痛烈に批判する講演会を開く、バーを開く、就職支援セミナーを開く、無料でWi-fiを貸し出す、などなど。「本を貸し出す」という旧来的な図書館の在り方からどんどん逸脱していき、変わりゆく知の概念をきちんとフォローしながら、それを誰でも得るためにどういったことが必要なのかということを常々考慮していてさすがに世界最強図書館であるという事実をまざまざと見せつけてくれる。図書館とは人々が知を得るために立ち寄る駅のようなものなのだ。また、そういった活動だけでなく裏側での幹部会議などもを映し、どういう基準で意思決定をしていくのかを映像化していて、そこも非常に興味深い。ニューヨーク公共図書館は俺も観光で訪れたことがあるが、あの素晴らしい建物の内側と外側でこんなことが起こっていたのだと感動的だった。ナレーションなし、効果音なし、延々と本の振り分け機械が動いているだけの場面もある。まさに図書館を映す目としてそこにカメラを置き続けたフレデリック・ワイズマン監督の真骨頂。見るときには前日よく寝ておくことが必須!

まだDVDは出てないっぽい!


スノー・ロワイヤル

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リーアム・ニーソンが、殺す!! 俺たちのリーアム・ニーソン兄貴の映画の80%はこの説明でカタがつくのだが、今作はそれだけでは済まないちょっとした異色作(リーアム・ニーソン映画の中では)。息子を殺された父であるリーアム・ニーソンが除雪車で悪人どもを雪の中で追いかけ回すという、悪人側の立場に立ったら最悪極まりないシチュエーションがこの映画。ただ、いつもは最強の殺人マシーンであるリーアムだが、今回は普通の一般市民。乏しい知識と除雪車で悪人を追うのだが、それが偶然が偶然を呼んで犯罪組織同士の対立に繋がっていくというコーエン兄弟チックなシチュエーション。悪人側のキャラも相当に濃くて、特にモーテルで全裸でベッドに横たわり、股間にお金を置いて清掃員をナンパする男は爆笑してしまった。死に方もユーモラスなものが多く、画面で一々死者数がカウントされていくので笑ってしまう。最後の方とかリーアム兄貴も惰性で殺してるしな、相手を。お互いの勘違いがねじれ合って、結局思ってもみなかった方向に行くシナリオはなかなかの出来。人生を変えるような感動大作という感じでは全然ないのだが、シニカルに笑えるこういう作品は人生のある側面を確実に映し出していると思います。あと、人生を変える感動大作と言いましたが、そんなものはただの勘違いで、映画を見ても人生なんか変わりはしないので、どんどんこういう人が死んでいく映画を見ましょう。


ハーツ・ビート・ラウド

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音楽がいい映画はたとえ駄作でもなんか許せちゃうのだが、『ハーツ・ビート・ラウド』は音楽もいいしストーリーもいいのでもう最高なのである。レコード屋(CDでさえなくてレコード!)をニューヨークで営むシングルファザーのフランクは娘のサムとセッションするのが生きがい。医大に進むサムの曲をフランクがSpotifyに勝手にアップしたところめちゃめちゃバズってしまい、フランクはサムに音楽を続けるように勧めるのだが、娘の決意は固く……。そんな親娘の物語なのだが、フランクとサムはなんだかんだ結局仲がよくてお互いを認め合ってるし、フランクは生活はどん詰まりで店を閉めようかと迷うフランクは中年の迷いに陥ってるけどなんとかなるし、そんなに悲壮感がなくてハッピー。あと娘に彼女(!)が現れて、普通の映画だったらひと悶着あるのだがあっさりとフランクが認めてくれたのは、割と地味に衝撃だった。これこそ本当のLGBT映画ではないか。さて、そしてこの映画のクライマックスはラストでの親娘のセッションである。これがまた本当によくてオリジナル曲の出来も非常にいいのだ。ただ、一つだけ注文がある。俺は感動してこの映画のサウンドトラックを買おうと映画館の売店に向かったのだ。しかし、そもそも売ってない。うそでしょ。この音楽映画でサウンドトラック売ってないってなんなの馬鹿なの商売する気ないの。結局、いろいろ探したのだけれど、このサントラ、日本では発売されてない(絶版?)らしく、手に入れるためにはアメリカから輸入するかデジタル版を買うしかないらしい。なんということだ。CDが欲しいので、手に入れる方法を知ってる方いらっしゃったら、ご連絡ください。


ハウス・ジャック・ビルト

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ジャックが家を建てるぞ!! 家を建てることにむちゃくちゃな情熱を傾ける主人公のジャックがシリアル・キラーという作品です。何を言ってるのかよくわからないと思いますが、監督があのラース・フォン・トリアーさんなので何を言っても無駄という感じはかなりしております。中身も毎度毎度のことではあるのだけれど、特濃を通り越して極濃。「脳を何回煮沸したらそんな残酷なアイデア思いつくの?」という目を覆いたくなるような残酷シーンが連発。面白殺人マシーンも発明していたし、さすがの残虐3冠王のラース・フォン・鬼畜・トリアーの面目躍如といったところか。さらに今回はそれに加えてユーモラスな場面も追加。マット・ディロン演じる神経質な連続殺人者ジャックが、殺害現場の血痕が気になって何度も何度も戻って拭き取るシーンとか、どんどん殺し方が雑になっていくシーンは普通に笑ってしまいましたが、笑ってる場合ではございません。そして、圧巻はラスト。ついにジャックが自分のために完成させた世にもおぞましい家については実際の映像をご確認ください。もう除夜の鐘とか鳴っててもおかしくない、すばらしい家でした。思うに、ラース・フォン・トリアー監督にとってあっち側の人とこっち側の人の境界線は極めて曖昧で、監督自身はどちらかと言えばあっち側の人間だと自分を認識しているんだろうなーと思った。

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配信はまだでーす


ウィーアーリトルゾンビーズ

ウィーアーリトルゾンビーズ

センスはよければ売れるわけでもないという逆説的な映画。サンダンス映画祭、ベルリン映画祭での受賞を引っ提げて登場したのだが、興行的には大コケしてしまったらしく、早々に劇場から消えてしまった。家族を亡くした男の子が同じ境遇の少年少女たちと旅に出るというロードムービー。アニメや特殊効果をふんだんに使った映像はとにかくやかましくてにぎやか。あー、そこにカメラ置いてとるんだーとか、そういう光の使い方するんだーとかの驚きも多い。また、音楽もチップチューン的で楽しい。現役の電通社員の長久允さんが監督をやってるらしく、「絶望とかだっさ!」とかのセリフ回しも非常に刹那的でリリカル、会話のテンポも極めて速くていかにもティーンのノリという感じで、普段見ている映画の文脈とは明らかに違ったものだった。ただ、そういった手法の突飛さだけでなく、中身としても少年の喪失と再生というテーマをよく描いており、そこらへんが有名映画祭で賞を取る理由だったのだろう。興行的には振るわなかったけど、俺はとてもいい映画だと思ったし、心に残るシーンがいくつもある。ただ、あまりにも奇を衒いすぎと言われても仕方ない演出も多く、映像としては2時間ゴリゴリのミュージックビデオを見せられてる感じにもなるので、そこらへんが一般受けしなかった要因なのかなーと思う。『嫌われ松子の一生』とかの中島哲也監督と同じ理由で、ある一定の層には確実に嫌われるというか。ただ、俺は好きなので、長久監督はこれに懲りずにイカれたクリスマスツリーみたいな映画をどんどんと撮っていっていただきたい。あと、これに出てた中島セナという女の子は遠くない未来にスターになりそう。ちなみに、まだDVDも配信もないけど、同じ監督の『そうして私たちはプールに金魚を、』は超絶傑作で無料で公開されてるので、ぜひぜひ見てください。こっちは短くてちょうどいい!

サッカースタジアムでやると炎上します


アマンダと僕

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人は突然父親になれと言われてなれるのだろうか。便利屋業で自由に暮らす主人公ダヴィッドだが、姉のサンドリーヌが無差別テロに合って亡くなってしまう。残された姪っ子アマンダとダヴィッドのぎこちない生活が始まる。唐突に24歳で8歳の女の子の父親になるという想像するだに難しいシチュエーションを、ファンタジーと勢いに頼ることなく、丁寧に、現実の生活と歩みを合わせるようにして描いている。同時にテロに合った恋人レナとの関係も同様で、話を急ぐことがない。本当に静かな物語で、実際にこの叔父と姪がパリにいるんじゃないかという錯覚をしてしまうのだ。迷うダヴィッド、迷うレナ、不安にさいなまれるアマンダ、そして心配しながらも見守ってくれる周囲の人たち。徐々に本当の親子のようになっていくアマンダとダヴィッドを見ていると無性に泣けてくる。これは俺が年をとってきたせいもあるのかもしれんが、それだけではないだろう。映画館は泣いてる人がかなり多かった。年末にばっちり泣いておきたいという人にはオススメです。「感動をありがとう」とか無理に押し付けられない涙というのはとてもいいものだ。あと、アマンダちゃんかわいい!!

まだ配信ないのでブルーレイでどぞー


コールド・ウォー

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愛は歌なのか、歌が愛なのか。今年は音楽映画でいいものが多かったなあと思い出させてくれる。ポーランドで郷土音楽の学校で教えるヴィクトル。そこに入ってきた気の強い女ズーラ。二人は惹かれ合うが、政治的な問題でヴィクトルはフランスに亡命。引き裂かれた二人の運命やいかに! とまあなんか冷戦下映画では割とありがちな設定であり、主人公がトム・クルーズだったらバイクでベルリンの壁を越えてワルシャワに突撃するのだろうけど、いかんせんそうならないのがこの映画。音楽の使い方が本当にうまい。パヴリコフスキ監督自身が「つまらないシーンや会話で物語を進めたくない」と言っているとおり、おしゃべりでぐだぐだになる場面は全くなく、その時々でジャズや民族音楽を使い分けて二人の気持ちを表現していく。本当にシャレた映画とはこういうものであって、決してディーン・フジオカが意味ありげに微笑む映画ではない。去年、『ROMA』がなければアカデミー外国映画賞を余裕で獲っていたのではないか。ズーラ役のヨアンナ・クーリグがすさまじい存在感。我が強く、気まぐれだけれども、それでもヴィクトルへの愛を歌い上げるその姿に釘付け。おそろしく寂しく美しいラストシーンを見て、寂寥の年末を過ごしましょう。

配信はまだだけどブルーレイ出てまーす。

ちなみにAmazon primeでは『コールド・ウォー 香港警察 二つの正義』というコールド・ウォー違いがあるので間違えないように!

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たぶんゴリゴリの香港アクションや!!


ハッピー・デス・デイ & ハッピー・デス・デイ2U

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ビッチ×タイムループのホラー映画は2本とも傑作!誕生日の朝、見知らぬ男の部屋で目覚めた主人公ツリーはその日のうちに謎のマスクをかぶった殺人者に殺されてしまう。そしてまた目覚めると、その日はまたツリーの誕生日の朝だったのだ。『オール・ユー・ニード・イズ・キル』のように何度も死んでは何度も蘇るループものなのだが、この映画の新しいところは主人公がビッチというところ。そして、ビッチの武器はガッツ一本。ループの仕組みを理解したツリーはとにかくガッツを剥き出しにして総当たりで犯人を探す。しかも、ビッチわりと強い。見つけたと思っては間違い、間違えたと思っては見つけの試行錯誤。昔、犯人を探すために何度もサウンドノベルゲーム『かまいたちの夜』をプレーしたことを思い出した。何度も何度も死んでいくツリーのその姿がキャッチーでポップな音楽に乗っているので、めちゃくちゃ楽しい。あと、単にホラーミステリーなだけじゃなくて、どうしようもないビッチだったツリーが成長していく様もとてもうまく描いていて、2のクライマックスでなぜか俺は泣いてしまっていた。犯人も意外な人でどんでん返しあり、2でタイムループがなぜ起きたかの説明もあるし、ぜひセットで年末に見てほしい!

配信はなぜか1がまだないので、ブルーレイで! なんで2だけYoutubeで配信してるんだよ!笑 


後編はもう少し待って!

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