見出し画像

歴史を好きになったきっかけ

「歴史を好きになったきっかけは何ですか?」

 SNSなどで「歴史が好きだ」という人に対して、よくある質問と言える。
 意図としては、いくつか考えられる。

・歴史が好きなので、他の人がどうやって好きになったのかを知りたい。
・歴史が嫌いなので、どうして好きになったのかを知りたい。
・とある国の歴史、或いは歴史上のとある人物が好きだが、その他の国の歴史に興味がない。自分の興味がない国の歴史について、どこに魅力があるのかを知りたい。
・自分よりも詳しい人に、どうしてそんなに詳しく知っているのか。なぜそんなに勉強が出来るのかが知りたい。

 こんなところかも知れない。

最初の体験

 私が歴史に触れたきっかけは、学研漫画の「日本の歴史」シリーズだと思う。
 古代から順に、漫画で楽しく読めるので、「学問としての歴史を学ぶ」という感覚はなかった。それよりも「昔の日本に、こんな人がいました」とか「こんな出来事がありました」というものを、簡潔に教えてくれるものなので、肩ひじ張らずに済んだ。ひとりの人物を主人公としたものもある。
 学びの漫画ではあるが、授業ではない。


 たとえば『DRAGON BALL』(鳥山明。集英社)という人気漫画がある。
 孫悟空という人物を主役に、現代よりやや未来の世界を舞台としたファンタジー要素溢れるバトル系漫画だが、それを読んでいる人は、未来の社会構造だの、格闘術の学びなどは求めてはいない。まして、当初は『西遊記』のパロディ要素を含んでいて、だからこそ主人公の名前が孫悟空ということを知らない人もいる。
 読者は、その世界観の中でキャラクターたちによって物語を作り出されていく様子を、純粋に楽しんでいる。
 同様に、『織田信長』を題材とした漫画はたくさんあるが、織田信長を主役とし、戦国時代を舞台とした物語が展開され、それを純粋に楽しんでいる。ただ、現実の歴史に沿ったものであることと、それゆえに政治体制や人物が(脚色はあるとはいえ)描かれているので、難しく感じてしまうのは否めない。
 子どもとして漫画「日本の歴史」をそこまで考えて読んではいなかった。
 ここに少し、「歴史が好き」と「歴史が嫌い」との感覚の違いがあるのかも知れない。
 つまり、「歴史が嫌い」な人たちは、「歴史が好き」の人たちは歴史が好きだからこそ、歴史物を読んでいると思っているのではないかと推察する。

 そうとは限らない。

 話は歴史ものだが単純に漫画として面白いから読んでしまう。その作品が好きになって、歴史が好きになったという流れは珍しくはない。


きっかけは人それぞれ

 歴史が嫌いな人にとっては、「歴史」=「難しいもの」と考えてしまうから、なぜわざわざ「難しいもの」を好きになるのかが理解できないのかも知れない。
 もちろん、難しいけど好きになったという人もいる。娯楽性を度外視して学びを極める人もいる。
 しかし、別の分野で考えてみれば、どうだろうか。
 先ほどは漫画を挙げたが、子どもは周囲の影響もあって、漫画雑誌や漫画を読みたがる。まったく興味がなかったが、友達に勧められて読むのようになり、好きになったという人もいるだろう。

 たとえば、野球にはそれまで興味が無かったが、大谷翔平さんの話題に興味を持って野球を始めたとか、プレイはしないが選手が好きになったとか、地元に球団があることを初めて知ったという人もいるだろう。
 ここで、「実際にプレイしたこともないのに野球を語るな」とか「イチローやゴジラも知らないのか」とか「TVで観てるだけで球場に行ったこともないのかよ」と言われたら、どうだろう。
 おそらく、嫌厭してしまうのではないだろうか。
 しかし、本物のファンはそんなことは言わない。
「そうか、キャッチボールをしたことがないのか。こんど、一緒にやらないか」とか「球場に行ってみろよ。TVより迫力があるし、球場も楽しいぞ」とか「よくTVに出てるあの人は元プロ野球選手で、現役の頃にこんなことをしてたんだ」などと、野球そのものだけでなく選手などの面白い話なども教えてくれる。
 そんなことをされたら、どう感じるだろう。
 おそらく、好意的に受けとられるだろう。


 歴史界隈にも「こんなことも知らないのか」とマウントを取るような人はいる。TVのクイズ番組などで、歴史の問題で知らなかったり間違えたりすると「中学生でも知ってるけどね」とか「一流大学を出てるのに、こんなことも知らないのか」などと小馬鹿にするような人がいる。
 こんなことを言われたら、どうだろう。
 おそらく、嫌厭してしまうのではないだろうか。
 しかし、本物のファンはそんなことは言わない。
「豊臣秀吉は元々は織田信長の家臣だったんだよ。そこで出世したんだ」とか「『本能寺の変』の本能寺は京都にあるんだよ。今の本能寺は、本能寺の変で焼けた後に、以前の場所から移築されて再建されたものなんだよ」とか「徳川家康は医者が嫌いで、自分で薬を作って飲んでた」とか、根本的なことだけでなく面白い話なども教えてくれる。
 そんなことをされたら、どう感じるだろう。
 おそらく、好意的に受けとられるだろう。

 きっかけ作りは何でも良い。
 大河ドラマを観て石田三成が好きになったとか、漫画を読んで直江兼続が好きになったとか。あるいは、ゲームでこの時代のことをもっと知りたくなったとか、TVのローカル番組を観ていたら地元のあの城にそんな歴史があることを知らなくて驚いたとか。
 『艦これ』というゲームで戦艦のことに興味を持ったり、『刀剣乱舞』というゲームで刀剣のことに興味を持つ人が増えたが、それらを小馬鹿にした人たちもいる。しかし、博物館などは好意的に受け取っていた様子が見受けられる。解説を詳しくしたり、秘蔵の刀の展示期間を長くしたり、ホームページにも豆知識を載せたりして、興味を持ってくれる人を増やそうとしてくれている。

 誰でも最初は素人なのだから、まるで知らないからと怖れる必要はない。
 幸運にも先んじて玄人となった人は、新しく入ってくる人たちを温かく受け入れていかなければならない。
 新規を拒んで衰退した分野は、数えきれないほどあるのだから。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?