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【番組批判記事でしたが撤回・謝罪しました】イシナガキクエを探していいのか【画像盗用疑惑】

【2024年5月12日追記】第2回の放送内容と、記事執筆後に公開されたインタビュー記事の「ネットに仕込みはしていない」発言を受けて、考えを改め、当初の主張を撤回し、謝罪します。こちらの記事をご覧ください。

それに伴い、本記事タイトルも【番組批判記事】イシナガキクエを探していいのか【画像盗用問題】から現在のタイトルに変更しました。本記事内でも一部文章に取り消し線を施しました。
番組スタッフの皆様、そして番組を楽しんでおられた視聴者の皆様、大変申しわけありませんでした。

【2024年5日10日追記】現在盗用が疑われる画像は削除されています。このことについて
新しく記事を書きました。

2024年4月30日0時30分(29日24時30分)にテレビ東京で「イシナガキクエを探しています」という番組が放送された。
ネタバレしてしまうとこれはモキュメンタリー(フェイクドキュメンタリー)仕立てのホラー番組である。
本稿はこの番組の考察記事ではない
『権利的に問題のある画像を使用している』
番組の制作体制に対する批判である。
この番組を純粋にモキュメンタリーとして楽しんでいる視聴者には申し訳ないが、水を差す内容であること『【5月12日追記】そして私の早とちりであったこと』をお断りしておく。
そういった方は今この記事を読むことはオススメしない。
だが一連の物語終了後に、再度目を通していただき、この番組の問題点を認識していただきたいと思っている。

結論から言えば、この番組はそのプロモーションの中で、2014年に明治大学のテニスサークルが起こした新宿集団昏倒事件の写真を加工し、利用している。
そしておそらくモキュメンタリーのギミックにこの実在の事件は関係していない。単なる無断使用・加工である。
5月10日以降、この番組は再度放送され物語の謎解きが進んでいくと思われるが、その中でも事件について触れられることはまずないだろう。
要は「ネットで拾った画像を素材にして番組(正確にはその関連コンテンツ)作っちゃいました」であり、その放送倫理にもとる番組制作姿勢を私は問題視している。

順を追って説明していく。


■人気のモキュメンタリーテイストの新番組として

まずこの番組は55年前に行方不明になったある女性の特別公開捜索番組という体で放送された。
「イシナガキクエを探しています」というタイトルだが実際は「TXQ FICTION」という新番組の第一弾である。
「Aマッソのがんばれ奥様ッソ」「このテープもってないですか?」など過去放送され、人気のあったモキュメンタリーを手がけたプロデューサーによるものである。放映前から各メディアに取り上げられ宣伝に力を入れていることがわかる。
https://forbesjapan.com/articles/detail/70629
https://natalie.mu/owarai/news/570779
https://www.fashionsnap.com/article/2024-04-24/txq-fiction/
現在でもTVerで無料で視聴できるため、詳しい番組内容は直接そちらをご覧いただきたい。
https://tver.jp/episodes/epfy61qq2z
この中でこの女性の目撃情報の情報提供先として公開されたのが「050-1720-5244」という電話番号である。

■電話番号情報サイトを使ったプロモーション

この番号が放送直後に「電話帳ナビ」というサイトに登録された。
https://www.telnavi.jp/phone/05017205244
このサイトはモキュメンタリー用に作られた架空のサイトではなく、おもに「迷惑電話の情報収集を目的とした」実在する電話番号情報サイトである。本サイトや似たような電話番号情報サイトを利用したことのある方も多いのではないだろうか。
このサイトではクチコミという形で利用者がコメントを投稿できる。
本来はその電話番号からどういった電話がかかってくるのか、電話番号の持ち主、企業はどこか、などの情報提供のために使われる。
放送直後から電話帳ナビの05017205244のページには多数のクチコミが投稿され、怪文書や怪しげな画像で埋まっている。
詳細は後述するが、これは番組を見た視聴者によるイタズラではなく、番組制作者と電話帳ナビ管理者が協力して作っている番組関連ページだ。実在するサイトを使って番組コンテンツの一環としてプロモーションを行なっているのである。
ちなみに類似する別の電話番号情報サイトにもこの番号が登録されクチコミが投稿されているが、こちらはプロモーションとは関係ないことが投稿内容からわかる。

■実在する事件の写真の無断使用

この中で「2024年5月3日14時05分」に投稿された「犯行時の」という投稿が問題の無断加工された写真である。

画像掲載時のウェブ魚拓

一見すると真っ黒な画像だが、明度をあげることで「倒れている人間の足を何者かが引きずっている」画像が浮かび上がる。
これは冒頭で触れた新宿集団昏倒事件の写真の右下の部分をトリミングし、さらに左右反転させたものだ。

この写真は当時事件を目撃した一般人によりTwitter(現在のX)に投稿されたものである。
すでに10年が経過しているため、大元の投稿の所在は不明であるが、該当の写真は様々なニュースサイトに転載され現在でも確認することができる。
https://www.j-cast.com/2014/06/21208335.html
https://www.tokyo-sports.co.jp/articles/-/91559

果たしてテレビ東京がこの写真の利用権利を持っているのだろうか?
画像が投稿された経緯から、現X、当時のTwitterの規約で報道機関が画像を引用することは許されていたかもしれない。だが今回のような事件と全く無関係の、それもモキュメンタリー番組に加工して利用する権利をテレビ東京もしくは番組制作会社が保持しているとは非常に考えにくい。
仮に。
仮にこの写真の大元の投稿者であり撮影者でもある方が現在番組制作サイドに所属していたとしても、「55年前の行方不明者」をテーマにしたモキュメンタリーに2014年の実在する事件の写真を使う必要性があるだろうか?
今後「イシナガキクエを探しています」というストーリーが飛躍に飛躍を重ねて集団昏倒事件に繋がる可能性も否定しきれない。だがそれでも「この番組はフィクションです。実在する人物・団体・事件とは一切関係ありません。」と銘打っている番組に、モデルやオマージュではなく、事件当時そのものの写真を素材として利用する意義がどこにあるのだろうか。

これは権利関係を無視した放送倫理にもとる行為というだけではなく、モキュメンタリーという構造そのものを瓦解させる明らかな手落ちである。

■電話帳ナビはいたずらなのか、やらせなのか、コラボなのか

件の電話番号が登録された電話帳ナビは一般の利用者もクチコミを投稿できる。
ならば電話帳ナビのイシナガキクエのページは視聴者によるいたずらではないかとの意見も出てくるだろう。
だがその可能性は低い。

先に「電話番号が放映直後に登録された」と書いたが、正確な説明ではない。
このサイトはあらかじめ全ての番号が網羅されており、基本は利用者がそれぞれの番号にクチコミとして情報を投稿していく仕組みだ。
利用者からの投稿を元に、サイト管理者側がその番号を利用している事業者名や利用されている所在地など、より詳しい情報を登録していくこともある。
イシナガキクエの場合はこの登録情報が番組放送直後から充実していたようだ。
事業者名にはイシナガキクエの名前が登録され、PR文には「安易な気持ちで関わると生命に危険が及ぶ場合がありますので十分にご注意ください」との不気味な表記(当初はこの部分に【電話帳ナビ事務局】と併記されていた)がある。所在地マップは当初は陸地にピンされていたようだが、現在は湖が表示され怪しげな雰囲気が漂う。
つまり一般の利用者のクチコミによって登録されたにしては明らかに詳しすぎるのだ。

この登録情報、そして所在地マップは実は放送後から今日に至るまで実に細かくアップデートされている。
放映直後からの変化全てを記録することは叶わなかったが、私が登録したものを含めいくつかの過去の内容がウェブ魚拓に保存されている。
https://megalodon.jp/?url=https%3A%2F%2Fwww.telnavi.jp%2Fphone%2F05017205244
クチコミも日に日に増え、怪文書や謎の画像が多い。さらに過去になかったはずのクチコミが突然現れたり、この番号以外にも番組内容に関連すると思われる「狂小屋(キチガイゴヤ)」の電話番号情報も登録された。
記事執筆現在では消えているが、狂小屋のページにはやはり制作サイドによるものと思われる小屋周辺の画像が投稿されていたこともあった。
https://megalodon.jp/2024-0506-0659-16/https://www.telnavi.jp:443/phone/0585964135
このあたりの細かい変化についての報告は本稿の趣旨ではないので、番組を真面目に楽しむ考察勢に任せたい。

さてウェブ魚拓と現在のページを比較いただければわかる通り、一般の利用者、視聴者によるものと思われるクチコミはそのほとんどが削除されている
「集団昏倒事件の写真盗用」についても幾度か指摘されているがその全てが削除されている。
残っているクチコミの中にも番組に批判的なものが散見されるが、何度他のコメントが削除されてもほぼ決まったコメントだけが初期化されたように残ることから、現在閲覧可能なクチコミのほとんどが、批判的なものも含めて番組制作側の手によるものと考えられる。
怪文書も画像も、悪ノリした視聴者によるものではなく、番組側の意図的な演出だろう。

電話帳ナビはエンタープライズサービスという有料サービスを利用すれば事業者が自身の電話番号についての様々な設定を行えるようになる。
事業者名やPR文の変更もその一つだ。
https://www.telnavi.jp/static/help/

ただしクチコミに関しては全件非表示か新規投稿の禁止しか設定できないと書かれている。特定のクチコミだけを消すことができるのはおそらく電話帳ナビ管理者だけ
さらにイシナガキクエ関連の2件のページには、「他の電話番号ページにはない謎のチャットエリア」がページ下部に出現していたこともあった。

ページ下部にチャットエリアがあります。一緒に探している同志たちの情報交換の場にご利用ください(PCサイトのみご利用できます)

https://megalodon.jp/2024-0506-0226-56/https://www.telnavi.jp:443/phone/05017205244


https://megalodon.jp/2024-0506-0226-56/https://www.telnavi.jp:443/phone/05017205244
https://megalodon.jp/2024-0506-0232-09/https://www.telnavi.jp:443/phone/0585964135

外部で喧伝されていないだけで、有料サービスにクチコミの個別削除ができる機能がある可能性もあるが、このチャットエリアのこと、PR文に当初併記されていた【電話帳ナビ事務局】の表記も合わせて考えると、単なるエンタープライズサービスの利用者による変更ではなく、電話帳ナビ管理者側がこのページの「演出」を管理していることが推測できる。
テレビ東京と電話帳ナビ双方合意済みの番組外部コンテンツがこのページというわけだ。

■繰り返されたずさんな制作手法


前述した通り、TXQ FICTIONは過去に人気のあったモキュメンタリーのプロデューサーが手がける番組だ。
2022年12月にBSテレ東で放送された「テレビ放送開始69年 このテープもってないですか?」もその一つ。
だがこの番組も放送時に問題を起こしている。
番組中で取り上げられた架空の番組の記事をWikipediaとニコニコ大百科にでっち上げたのだ。

本稿が長くなりすぎたので、詳細はアニヲタWiki(仮)の記事で確認してほしい。
https://w.atwiki.jp/aniwotawiki/pages/53241.html
ページ中程、「騒動」の項に簡単な経緯が書かれている。
またニコニコ大百科も合わせて目を通していただきたい。
https://dic.nicovideo.jp/a/坂谷一郎のミッドナイトパラダイス
こちらはページ下部に当事者であるニコ百側から見たさらに詳しい問題点が記述されている。

Wikipediaもニコニコ大百科も(そしてアニヲタWiki(仮)も)単なる便利な情報サイトではない。
そこにはネット百科事典としての明確なルールが存在し、記事の執筆(作成)や削除にも常に厳しい目が向けられている。
それはデマの蔓延を防ぐために必要な措置だ。
それを無視して番組の演出とネットのバズのためだけに架空の項目の記事を作成し、身勝手に削除する。
モキュメンタリーを盾にしても許されない無責任な行為である。

おそらく今回の電話帳ナビはその反省を踏まえてサイト管理者織り込み済みで「演出」を行なっているのだろう。
実在する、それも迷惑電話という実害に対処するためのサイトでそのようなコラボをすることの是非はあるだろうが、相手に話を通しているという部分は評価できる。
だがそこで使う画像は盗用である。
ずさんな制作体制は「テープ」の頃から改善しきれてはいないようだ。

■復活してしまった盗用画像


電話帳ナビの件の画像だが、SNS上で話題になった際にすぐに新宿集団昏倒事件のものだと看破されていた。
10年前とはいえSNSで大変な話題になった画像であったから、覚えている人も多かったのだろう。
それを受けてか、5月5日夕方ごろから5月6日朝方頃まで、電話帳ナビは該当ページの画像の公開を一時停止している。
PR文には

危険度が増しているため画像の公開は一時停止しています。
安全性が確認でき次第、画像は公開されます。
※投稿することは可能です

https://megalodon.jp/2024-0506-0139-43/https://www.telnavi.jp:443/phone/05017205244

と追記されていた。
つまり権利的に問題のある画像を差し替えるための措置…事情を知る者は誰もがそう思ったはずだが、6日朝に再び画像が表示されるようになっても件の黒塗り画像は以前のものと同じ昏倒事件のトリミングのままだった。

https://megalodon.jp/2024-0506-0650-52/https://www.telnavi.jp:443/phone/05017205244

番組制作者は盗用したままで問題なしと判断してしまったらしい。
(本note初稿投稿時の6日13時30分頃は一部を残し、再び画像が消えていた)

■AI生成で偶然出力された可能性も

本番組はAIによる画像生成が物語の不自然さを演出する要素の一つになっている。電話帳ナビのクチコミにもそれらしき怪文書が投稿されているため、今後ストーリーがAI自動生成に関わる方向で展開するのかもしれない。
問題の画像は元画像をトリミングし左右反転させただけの稚拙な画像編集の産物にしか見えないが、これがAIによって偶然出力されたもので、その学習元が件の事件の写真だったとしたら…著作権の根拠はあいまいになり、番組制作側が画像を取り下げない理由になるかもしれない。番組スタッフが偶然その画像に遭遇し、「その存在も容貌も不確かな女」というアイディアを思いつき、これからの社会に対する警鐘として作品テーマが成り立ったのではないか。
でもさすがにこの説は無理があると自分でも思う。画像重ねると細かいところまでほぼ完全一致するもんこれ。
今の所は単なる盗用の可能性の方が高い。

■おわりに


私自身モキュメンタリーは好きだ。「ブレア・ウィッチ・プロジェクト」「放送禁止」「奥様ッソ」のようなホラーテイストのものもいいが、WOWOWで放送された「ザ・モキュメンタリーズ」や「PORTAL-X」のようなテイストの番組も捨てがたい。「TAROMAN」だって1970年代に放送された特撮番組である。ネット上のものなら「近畿地方のある場所について」もいいし、古くは「絶望の世界(僕の日記)」もネット小説とモキュメンタリーの先駆けとも言えるだろう。写真家の薄井一議による「マカロニキリシタン」もいい。モキュメントそのものが主題ではないが、「アメリカ人作家コンビが90年代に発表し、2010年代に日本語翻訳が開始されたサイバーパンク小説」はウェブアーカイブまで利用して来歴が語られるほど手が込んでいる。
そこまでやるかという手の込んだ製作者の仕掛けが、モキュメンタリーの肝であり私をワクワクさせてくれる魅力だ。

だからこそ「イシナガキクエを探しています」が新宿集団昏倒事件の写真を盗用したことが残念でならない。
暗闇で誰かが誰かの足を引っ張って引きずるような写真なんて、すぐに撮影できるだろうに、どうして電話帳ナビまで巻き込むほど手の込んだ仕掛けを施す中でこの写真だけずさんな真似をしてしまったのか。また差し替えるタイミングがあったのにどうしてそのままにしてしまったのか。
繰り返すが、これは放送倫理にもとるだけではなく、モキュメンタリーそのものの構造を瓦解させる行為である。同時に、番組制作のチェック体制の甘さ、テレビマンのおごり、逼迫する現場人員や予算まで想像してしまう。モキュメンタリーなんだからそんな現実方面に想像を引っ張り込む真似をしないでほしい。
果たして第2回放送以降この件は触れられるのだろうか。モキュメンタリーだから、そこを釈明したら萎えちゃうから。そんな言い訳をせず、テレビ東京、そして制作プロデューサーにはしっかりと説明責任を果たしてほしい。


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