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記事一覧

パパが死んだ日

「おい、ジェニファー。お前まだサンタなんて信じてるのかい?」

 クラスの友達は、みんなアタシをバカにした。サンタなんかいないって。アタシは大好きなパパに聞いたの。「サンタはいるんだよね?」って。

「ジェニファー、サンタは信じる人の所にだけやって来るんだよ」

 やっぱり! サンタはいるんだ! パパが言ってるんだから間違いない。それに去年も一昨年も、朝起きると枕もとにプレゼントがあったじゃない。

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違和感のアサガオ

「ツルの巻き方にも癖ってあるのかしら」と不思議に思った。

 あたしの部屋のベランダにはプランターが二つ置いてあり、アサガオのツルが伸び始めている。毎年ゴールデンウィークのころ、ひとつのプランターに種を五個ずつ植える。つまり今、十本のツルが細い竹の棒をつたい伸びていっている。夏になると、窓の外には朝顔のカーテンができあがり、去年も一昨年も、あたしはそれを幸せな気分で眺めた。

 左利きの人と付き合

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おててつないで

 使われなくなったトンネルは、入り口も出口も封鎖されたりするらしい。どっちが入り口でどっちが出口か、って話だが。

 ある年の夏、蒸し暑い深夜、短大生の女の子三人組がドライブをしていると、そういうトンネルに出くわした。女の子三人組は車から降り、物珍しげに封鎖されたトンネルを眺めた。

 一人の女の子が、コンクリートで塗り固められた入り口の横に、人が一人通れるくらいの穴を見つけた。三人で近寄って見て

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鉄塔の男

「いいかい? 人間はいついかなるときでも、頑張って頑張って、頑張りぬかないといけないんだよ」

 それが父親の口癖だった。来年小学生になる娘は、幼いながらも「がんばるのはいいことだ」と考えていた。

 親子が住む家の窓からは、大きな鉄塔が見えた。空のご機嫌が極端に悪いときはその鉄塔に怒りのいかづちが落ちたりして、親子はしばしば驚いた。しかし最近では、そんなかみなり様よりも母親を不安にさせるものが現

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星空と海と羊

 星空の下、二匹のひつじが安らかに、眠るようにじっとしています。一匹のひつじは情熱を備え、もう一匹のひつじは寛容さを備えています。

 ある日、情熱のひつじはこう言いました。

「ねえ! ちょっと旅にでも出てみましょうよ」

 寛容のひつじは食んでいた草をごくりと飲み込み、こう応えました。

「ん? うん、わかった」

 月の沈む海岸をぽつぽつと歩く二匹のひつじ。

「静かな夜、あなた好みね」

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2500の流星

 その日、森に流星が墜ちた。狐の鳴き声を聞いた。

 目が醒めて奇妙に思った。子供のころ読んだマンガを思い出す。テレビをつけてみた、電話をかけてみた、そしてあたしは確信した。

「世界から人が消えた」

 でも…… でも、まあいいか。

 あたしには普段から愛している散歩道があって、その魅力は「人の気配を感じさせない」ってことだったりするのだけれど、今日は特別な日になるのかしら。あるいはいつも通り

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横顔のピアニスト

「久美、いい? Gの和音はここに手をおくのよ」

 ママはそう教えてくれた。

 ママは綺麗だった。裕福な家庭のお嬢様だったらしい。パパと結婚したのは二十歳のころで、そのころのママが道を歩くと、人が振り返るほどだった。

 良家のお嬢様といえば、どこか世間知らずな、のほほんとしたイメージがあるけれども、ママは違っていた。自分がお金持ちの家に生まれてラッキーだったとか、美人に生まれてたくさん得をした

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引っ越しの日

 二十四歳の春、僕はついに、引っ越しを決意した。これまで住んでいたアパートから、隣の街のマンションへ。距離的に五キロメートルくらいの引っ越しで、小さな地方都市から、隣の小さな地方都市へという引っ越しだった。

 それまでに住んでいたアパートは壁が薄く、昼も夜も、お互いの部屋の物音が筒抜けだった。どうかしたときには、隣の部屋の住人が、壁にもたれかかるときの、衣服がこすれる音まで聞こえた。

 また、

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 しとしとと降る雨が大好きな男の子がいる。男の子はいつも部屋の中から、雨に濡れる庭の様子を座椅子に座って見ている。座椅子はもうぼろぼろだ。それに気づいた母親は、ホームセンターに行って新しい座椅子を買ってきてあげる。男の子はとても喜び、そのとき外はしとしとと雨が降っていた。男の子は座椅子を持って庭に下りる。

「ママ、見てて!」

 と、男の子はにこにこしながら言う。男の子は雨でぬかるんだ地面に新し

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辛い獣

 狼の群れが歩いている。凍てつくような白銀の世界でその体は静かに躍動し、吹き付ける風に銀色の毛並みが揺れる。大きな群れだ。三十匹はいるだろうか。

 その群れから遠く離れた場所で、二匹の狼が足並みを揃えて歩いている。年老いたほうの狼が、少し前を行く。その斜め後ろに、若いほうの狼がついて歩く。年老いた狼はがっしりとした体つきで、若い狼はすらりとしている。体格の違いは、そのまま経験の違いのようにも見え

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アスファルトも冷めない夏の夜に

 東日本大震災があった年の夏、節電対策で、会社のトイレの電気が、自動式になった。トイレ内に人がいるいないを察知して、電気が自動でついたり消えたりするのだ。

 でも、人がいないのに電気がついていることが時折あって、僕はなんとなく不思議に思う。いったい何に反応しているのか。センサーがあまり良くできていないのか。これじゃ手動でスイッチをオン/オフしているほうがましだ。自動化することで手動のスイッチはな

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とんとんとん なんのおと?

 キーコ キーコ キーコ

 鮮やかな黄色の鳥が、今あたしの部屋の洗濯ヒモに捕まり、ブランコのようにして遊んでいる。洗濯ヒモは部屋の壁から壁へ金具で繋げてあるので、本当にブランコを漕いでいるかのような音がする。

 セキセイインコ。子どものころに飼っていた。彼があたしの部屋のベランダに迷い込んできたのは、一週間前のこと。なぜ「彼」とわかるかというと、彼はたまに「ぼく」と喋るからだ。彼はやってきたそ

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みかんちゃん

 空から音楽が降ってくるようになったのは、意外にもその歴史は浅く、五年くらい前のことだった。それが人々に受け入れられ、その心に深く浸透したため、僕たちはそれをずっと昔からある“自然なこと”だと思っていた。江戸時代の人たちが、鎖国をそのように考えていたように。

 朝、駅を降りて、会社までの道のりを歩いているときに、僕の頭のなかには、よく奥田民生の『愛のために』が降ってきていた。そういえば昔、イヤフ

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題名のない未来

 もし次にまた住む街を変えるのなら、西新か、門司港か。そんなことを考えながら彼はクルマを走らせていた。クルマにはルアー釣りの竿と道具が積んであり、門司港のノーフォーク広場に向かっている。

 もしまた誰かと一緒に住むのなら、五年前、わたしが選ばなかったあのおじさんがいい。そんなことを考えながら、母親はクルマを走らせていた。助手席に、この夏で四歳になった息子を乗せて。

 彼はノーフォーク広場に着く

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