「たった」一文の翻訳の剽窃でも、謝罪文掲載&リコール問題になりニュースでも報じられる。剽窃疑惑を指摘された櫻井義秀氏と中公新書はどうする?

 先日、このような記事を公開した。

 上の記事において、櫻井義秀『統一教会』(中公新書)において、個人ブログの翻訳を剽窃したことが強く疑われる内容を記した。

 それと関連して、研究者による翻訳の剽窃問題について調べていたら、過去に以下のようなことがあった事実が判明したので紹介したい。

 映像人類学を専門とする多摩美大学教授の港千尋氏が、2019年10月に出版された『AKI INOMATA: Significant Otherness 生きものと私が出会うとき』(美術出版社)の寄稿文において、翻訳者・独立研究者(科学技術論、ジェンダー技術論、翻訳論)の高橋さきの氏の翻訳の一文を剽窃(盗用)したことが指摘されている。
 詳しい内容は当該書籍を出版した美術出版社の以下のページで確認することができる。

高橋氏による翻訳文を、出典として明記せずに、寄稿文において改変使用したことから、本行為は盗用にあたると判断しました。

https://bijutsu.press/4209/

 問題となった寄稿文を書いた港氏による声明文も出版社のページに掲載された。

本行為が盗用にあたるとの指摘を真摯に受け止め、高橋さきの氏をはじめ関係各位、読者の皆様に多大なご迷惑をおかけしたことを、心よりお詫び申し上げます。また、著者のAKI INOMATA氏および出版社にもお詫び申し上げます。

https://bijutsu.press/4231/

 これを受けて美術出版社は、書籍の「回収・交換」、いわばリコール問題として対処した。

 書籍と同名の個展を開催した十和田美術館もホームページにて本件について言及し、盗用が指摘された港氏の寄稿文には関与していないものの、「当館の催しに関係した書物で起こったこと」として、翻訳者の高橋さきの氏に「大変申し訳なく思います」と伝えている。

 
 さらに、このことは主要メディアでも報じられている。

 本件は、港氏の声明文が不明瞭な内容になっていることや、対応が遅れたことが批判されているようだ(たとえば、これこれ)。しかし、私からすると、剽窃に対して厳格な対処をするのが当然なこととはいえ、剽窃が強く疑われる内容を指摘しても全く対応しない、中公新書や櫻井義秀氏を見てきたから、美術出版社と港千尋氏がずいぶんとマシに見えた。
 本件を改めて簡潔に整理すれば、「たった」一文でも、出版社が謝罪&リコールという対応をし、剽窃をした本人も「声明文」を出すに至っている。翻訳の剽窃には直接は関わっていないはずの美術館も、関係者としてお詫びしている。主要メディアでも翻訳の剽窃は報じられた。
 
 さて、剽窃疑惑の指摘に対して櫻井義秀氏と中公新書はずっと「無視」という対応で済ませてしまうのか。私は、これまでに3度、剽窃疑惑について櫻井義秀氏と中公新書に連絡をしているが、どちらからも一度の返答もないままである。研究者と出版社の良心が残っていることを期待したい。

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