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写真の先の偶像

黒柳徹子さんは不思議な魅力にあふれた方です。そんな徹子さんへの愛を書き上げてみました。インスタントカメラのフィルムにプリントした徹子さんの写真をどこまで執着した思いに変えることができるのか?今回はそうした実験です。


本投稿は、『週間キャプロア出版』で掲載されたものを大幅に加筆修正したものです。
『週間キャプロア出版 企画』とは、全てFacebookメッセンジャーのやりとりだけで企画からKindleでの出版までをメッセージグループに居合わせたメンバーだけで行うという新しい試みの出版グループです。とても面白い試みですので、ご興味がある方は是非参加してみてください。

週刊キャプロア出版(第2号): 愛と性 週刊キャプロア出版編集部
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写真の先の偶像

トップでまとめ上げた茶色い髪は、編み込んで真ん中で埋め込まれている。まるく納まった型はたまねぎの様。笑顔が素敵だ。健康的にほんのり焼けた肌、ペタンコのお腹が目立つ露出の多い格好でお皿を洗っている。
おれの財布の中には1枚の写真が入ってる。
もうずいぶん昔の写真。
彼女は38歳。場所はニューヨーク。時間はランチの後。
インスタントカメラでプリントされた彼女はこちらを向いて微笑んでいる。

彼女はとても悲しい恋をしているという話をきいたことがある。
愛する人と結ばれることなく、いまでもずっと思い続けているんだってさ。
実際のところは知らない。ゴシップ好きの連中は一人で子供を産んだって話もしてた。
彼女自身しか知らないことだ。おれが知ることじゃない。
それでもおれは彼女の写真を持ち続けている。いまでもずっとこれからも。

おれがいるのは、日本、34歳。時刻はちょうど深夜の2時。彼女を思い浮かべながら写真をみつめこの文章を書いている。

彼女の魅力を挙げればきりがない。アーモンド型の大きな目の奥には、吸い込まれるような瞳がこちらを覗いてくれるし、大きな口から発する優しい言葉はどれも胸を打つものばかり。そしてチャーミングな低い鼻は子供のような無邪気さを感じさせてくれる。
初めて会った時からそう。おれの永遠のアイドル。時空を超えたアイドル。

時間を越えた思いって好きだ。
昔を知っているというのは、それだけ相手の多くを知る事になる。知らなくていい事もあるかもしれない。けれど、ふと振り返ったときに、思い出の中にずっとおんなじ誰かが居てくれてるって幸せな事だと思わない?それだけ長い期間一緒に過ごせたってことでしょ?
例えば彼女との思い出が、自分の生き方や人との向き合い方を変えるような大きなきっかけだったとして、もしくは自分のなりたいものが彼女だったとして、そういう思いがあるからこそ、忘れないための記憶を持ち歩く事ってあると思うんだ。
記憶を持ち歩いて、ずっと側にいるってことは自分と彼女の間にある隔たりをなくしていくことにもなる。自分は彼女だ、と思う事がどれだけ自分に自信をあたえるか。
世界や他者に対する基本姿勢が、「だってあなた私のことすきでしょ?」で固定されている、あの子はきっと本物のお嬢さんって思えるような、そんな育ちの良い人でありたい。

何がそう思わせるかって?
それは、おれをこちら側の世界に引き戻してくれたからだ。
こちら側ってのは、みんなで一緒に楽しいことをやる側。今この本を手にとって読んでる、あんただってこちら側だろ?
当時のおれは違ったんだ。きっとおれは疲れていたんだと思う。
でも彼女はそんなおれを、働くことや生きることに対してこんなもんだろうっていう決めつけや思い込みを取っ払い、好奇心や無邪気さの大切さを思い起こさせてくれた。

10年ほど昔の話、ある日彼女はBARに連れて行ってくれた。自分よりも少し若い奴らがやるBAR。彼らは大学生でキラキラした目で夢を語ってくる。その夢を聞き出して応援する彼女。その言葉は全部優しくて、何もかも包み込んでいくんだ。
おれはしょぼくれた社会人で、でもそれじゃあダメだって感じた。
彼らと話して気付いたんだ。なんだってできるのに、なんで人生はこんなもんって思い込んでいたんだろうって。
それは、ちょっとした些細なきっかけにすぎないのだけれども、大きな衝撃だった。
その日から、おれは彼女を全力で応援しようと思ったんだ。
彼女のように誰かに希望を与える存在でありたいって思った。

人間の愛の感じ取り方って二通りあるように思えるんだ。
愛は無限に与え続けるもので、与えるからこそ価値があるんだって考えと、もう一つは愛は失ってしまうものだからこそ、いまある愛を全力で感じ取ろうって思うタイプ。
有限か無限かなんてどっちが正しいなんて話じゃない。そんなことはどっちだっていい。
愛するシステムが大事。
不思議なのは、憧れの目で彼女を見ていくうちに、自然とそうなっていくんだ。不思議だと思わない?
愛そうと思って愛しているんじゃないんだよ。
彼女の立ち居振る舞いを思い浮かべるだけで、自然と愛していく。

それだけでもよかったんだけどな。
そうはいかなかった。
ある日、こんな会話をした

「わたし徹子さんみたいになりたいの!黒柳徹子さん素敵でしょ?」

おれはショックだった。
それは彼女がとても悲しい恋をしていると知っているからだ。
受け入れられなかった。肯定してあげて、きっとなれるよ!もうなってる。言えなかった。みんなに沢山の愛情を注いでいるでしょ?って言えなかった。
それどころか、取り乱してなんで?なんでなん?とうろたえてしまった。
なんでなんだろう。言えなかったんだ。
彼女になりたいってことは、悲しい恋をするってことでしょ?だって彼女がそうなんだ。彼女自身が悲しい恋をしている。
でもそこは気にするところではないはずなんだ。おれは彼女になる為に財布に彼女の写真を入れているのだから…。

オイラが彼女の写真を財布に入れてる理由はざっとこんな感じだ。
一体誰を思って見ているのか?オイラ自身はわからない。
でも大丈夫だ。自分にブレーキをかける為にやっている。こうすることで永遠に思い続ける存在でいられることはできるだろ?嫌いにならなくて済むんだぜ。

オイラの愛はブーストしている。みんな大好き、みんな幸せ、みんな楽しい。っておもってる。オイラが会いたがってる人をみんな愛してないわけないんだぜ。
と、いう設定にしておくとTarCoon☆CarToonの可能性は更に深まると思います。だってキミオイラのことスキでしょ?

連載時のあとがき
寄稿させて頂いたテクストにも書いてるけど、本当に黒柳徹子さんが38歳の時の写真を財布に入れて持ち歩いてるんです。面白いことに財布の中から徹子さんがいなくなるとお金の減りが激しくなって、再びINするとお金が貯まる。たまたまなんですけどね。今度流行らそうかと思ってる。お会いする機会があればお見せしますよ。あと亡くなった猫のヒゲも紙に包んで持ち歩いてる。いつかクローンを作って復活させたいの。狂気! 

週刊キャプロア出版では、このようなテキストを沢山の人が参加して、沢山の人が企画し、編集をして出版される電子書籍です。
Kindle Unlimitedでも無料で読むことができますので、是非お手に取ってみて下さいね。

週刊キャプロア出版(第2号): 愛と性 週刊キャプロア出版編集部
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