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エズ村をあるいて

朝早く目が覚めてしまった。

時計をみると、まだ5時になるかならないかという「さて、起きてコーヒーでも」という時間には、すこし早すぎる時間だった。しかし、ベッドで枕にあたまをまかせ、目を閉じようとしても、目を閉じることができない。目を閉じられるえれど、それを閉じ続けるということがむずかしい。

だいたいにおいて、旅先での最初の朝は早く起きすぎてしまう。

ちょっとばかり起きて、観光ガイドブックでもみておこう。と思ったけれど、その買った観光ガイドブックは、東京の家の本棚に置かれていたままだった。せっかくわざわざ書店で見てえらんだのに。地球は自力で歩くしかなさそうだ。

冷蔵庫にはなにもはいっていないし、机には水のはいったペットポトルが置かれているだけだ。キッチンには、いろいろと調理するための器具はそろっている。その中から、電気ケトルをとりだして、コンセントにプラグをさして、ペットポトルの水をゆっくりとそそいだ。あっというまに、お湯ができ、それをティーカップに移して飲んだ。

少しづつ、窓の外の朝の暗闇が、やわらかく、青白くかわっていっていった。カーテンの隙間から外をみると、薄暗い中に、空と海と山がみえた。空はまだ白く、海との境目をぼんやりとさせたまま、青みがすこしついた海があった。それらの色は、今まで見たことのあるその色とは、少し違っているように感じた。

しばらく時間がたって、身支度をして朝食をたべにでかけた。9月の後半だということもあり、少し朝の空気はひんやりとしていた。歩いて、少し急な坂道を登って、エズ村の入り口についた。崖にそびえたっている、石造りのお城のようなその村に入っていく。

まだ、朝もはやかったので、僕たち以外にはほとんど人はいなく、いたとしても、その村のなかでなんらかの仕事をしている人(花屋やホテルの人)だけだった。石造りの街を歩いた。まるで迷路のように道がわかれては、つながって、あっちにいってはこっちと、その街をひととおり見てまわった。

そのなかで、一つだけもう開いているカフェがあったので、朝食を食べるためにはいった。景色をみわたすことのできる席にすわって、ジャムがはさまったクロワッサンとカフェ・クレムを注文した。

エズ村の中にある庭園〈Le Jardin Exotique〉が開く時間にちかづいたので、そこにむかった。その頃には、すこしづつ観光客がふえていっていた。猫がいる受付でチケットを買い、猫からチケットを受け取って、中に入った。入ると、すぐそこにも猫がいて気持ちよさそうに寝転んでいた。

庭園をのぼっていった。先に、フランス人かイタリア人かの、女性のティーンたちが団体できていて、とても賑やかにしていた。いちばん上の広場からは、コートダジュールを見渡すことができた。あっちの方やこっちのほうと、いろいろと見た。すると、ティーンたちがいっせいに叫びはじめた。聞いていると(聞こえてくる)そこに見あたらない生徒の名前をさけんでいるようだった。さけび続けていると、あわてて、その生徒がのぼってきていた。


♤チケットを受け取ったことはウソです。


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