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ドラマ「ディア・ペイシェント」でのシステマ指導

ドラマ「ディア・ペイシェント」でシステマを指導しました。

主人公真野千晶演じる貫地谷しほりさん、真野千晶が通うシステマ教室のインストラクター吉良大輔役の永井大さん、システマ教室の生徒役の皆さんと一緒にシステマをやってきました。

南杏子さんの医療小説「ディア・ペイシェント」のドラマ版です。

モンスターペイシェントや在宅介護など現代の日本が抱える重いテーマと、主人公真野千晶のどこか爽やかな存在感が見事な対比となって作品を成立させている佳作です。

真野千晶がシステマを学び、そのメンタルマネジメントを日々のストレスフルな業務に活用しているという設定です。南さんによると、医療現場の重いシーンが続くので、真野先生がどうやってリフレッシュして自分を保っているのかが分かるシーンがほしい、という編集者からのリクエストで追加されたとか。

南先生は小説家としてデビューする前、私のクラスでシステマを学ばれていました。帰り道が同じ方向だったので、電車で色々話したことを覚えています。その体験を小説に織り込んだのですね。

それでNHKのプロデューサーに「システマの指導をお願いするなら誰が良いですか?」と尋ねられて、真っ先に私の名前を挙げてくださったことが、今回の監修に繋がりました。

それでNHKから連絡があったのが2019年の11月ごろ。「実際の教室の風景を見てみたいから」とのことで、大勢のドラマクルーが赤坂クラスを見学に来たり、NHKに通って俳優さんたちに指導したりしました。プロデューサーや演出家、脚本家の方も皆さんシステマの本を読み込んでくださっていて、モチベーションの高さに驚かされました。

私が監修したのは、システマが関わるシーン全部です。リハーサルや撮影の現場で実際の動きを指導します。事前に台本が送られてきて、セリフの手直しなどもしています。

あとシステマではないんですが、第9話で平田満さん演じる警備員の蓮見さんのアクションも指導しました。

アドリブを身上とするシステマですが、撮影ではそうもいきません。ある程度、振り付けを決めることになります。またシステマをそのままやると、動きが目立たずに見栄えがしません。そこを加味して、見栄えのするように動きをアレンジしましたし、現場で演出家や出演者の意見を取り入れて、大幅に変えることもありました。

「いち生徒なんだから、あまりうますぎない方がいいんじゃないか?」という貫地谷さんの意見を受けて、初心者によくあるミスなども織り込んだりしています。永井さんが受け身が得意なのがわかって、派手に受け身を取るアクションを入れたりしました。

貫地谷さんはさすが、憑依させる能力があるのでしょう。

ナイフワークの練習中、とても見事な動きを見せたことがありました。本人は自覚してなかったようですが、私の見本からその向こうにいるミカエルやヴラディミアの姿を探り出し、彼らの動きを自分に降ろしたんじゃないかと思えるような動きでした。思わず鳥肌が立ったほどです。

でもあまりうまくては、主人公の真野千晶っぽくありません。だから、撮影では「ちょっとヘタに見せる」工夫をしました。

もう20年くらい前になりますが、私はテレビドラマの台本を書く仕事に関わっていたことがあります。脚本家と言えるとこまでは行き着けず、その下書きのプロットを書く程度の、末端もいいところでした。

まあ端くれなりにドラマづくりに関わっていたのですが、原作もののドラマ化の場合、大きく改変されることがあります。原作そのままだとドラマで使えない部分が必ず出てくるからです。原作の意図を損ねることなく、エピソードを抜いたり、創作したりしてドラマ向きに変えるのが脚本家の仕事になります。

「ディア・ペイシェント」がドラマ化されると聞いて、まず驚いたのがシステマがそのまま使われる、ということでした。システマなんてロシアだし、軍隊武術だし、物騒だし、芸人のネタにされてるし、そもそも知名度まったくないから視聴者にもぜんぜんわからないだろうし、とカットされる要素満載です。私が脚本家なら絶対そういって削るか、空手や合気道などほかのメジャーな武道に差し替えます。そのほうが貫地谷さんの道着姿も見られるし、視聴者受けもするでしょう。

でもあえてのシステマ。

原作を読んで、演出家は「システマってなんだろう?」と思ったのではないでしょうか。そしてシステマの本を読み、実際に何度も練習風景を見学して、「やはりシステマだ」と確信したのではないかと思います。実際の撮影現場でも、どうしたらシステマの真意が伝わるか、あれこれ苦心してくださっている様が伝わってきました。システマを気に入るあまり、原作にはなかったシーンまで追加してくださったほどです。

今回の仕事ではドラマ制作の皆さん、貫地谷しほりさん永井大さんを始めとする出演者の皆さんにとてもお世話になりました。システマを理解し、広める手助けをしてくださったことに感謝しかありません。

ドラマは最終回を迎えましたが、この作品によって多くの人々が励まされ、幸せな人生を歩んでいただければと願っています。


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吉良大輔役の永井大さんと。吉良大輔のモデルは私なので、私の役と言えなくもありません。イケメン度合いが違いすぎますね。

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院長役の石黒賢さんと。ラストシーンの撮影ではじめてお会いしました。結構、筋肉質です。鍛えてます。

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主演の貫地谷しほりさんと。もうね。顔のでかさときれいさが別次元ですね。二人並ぶと私の顔が岩石のようです。私のクランクアップの時には、出口まで見送りにきてくれました。


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