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noteで学べるシステマ講座 第12回「システマの制度面での基礎知識」

二つの本部

意外にわかりにくいのが、システマの制度。

特にインストラクター制度とか、システマをやってる人でも曖昧だったり、勘違いしているところがあったりします。つい日本武道の帯制度や会社の出世レースみたいな、ピラミッド状のヒエラルキーを重ねてしまうのですよね。でもそもそもその観点からして異なります。システマでは自律性を重んじます。そこに上意下達で下の思考停止を強いるような上下関係があるわけがありません。

上下関係のないシステマにおいて、インストラクターとはどんな立ち位置なのか。そういう結構、根本的な理解にも関わってくるので簡単に説明したいとおもいます。

まずシステマには本部が二つあります。

モスクワ本部と、トロント本部。

まず、カナダに移民したヴラディミアが1995年、トロントに開設したのがトロント本部です。この本部は生徒が増えたことから2010年に同じエリアのもう少し広い場所に移転しました。

一方の創始者であるミカエルは2000年まで軍務についていたため、その名前も存在もロシア国外で公にすることができませんでした。そのため、トロント本部が唯一の本部として稼働していました。

ミカエルが退役し、自由に活動できるようになってから、徐々にロシア国外に公開されたのがモスクワ本部です。モスクワ本部はトロント本部のやり方を踏襲してイベントを実施したり、インストラクターライセンスを発行するようになります。

このような経緯から、トロント本部とモスクワ本部の二つの本部が共存するようになりました。欧米からロシアに行くのはビザなどの手間があることから、トロント本部には旧西側諸国の、モスクワ本部には旧東側諸国の生徒たちが集まっている印象があります。

インストラクターライセンスについて

インストラクターライセンスは、通常の「Instructor」と「Instructor in training」の2種類。Instructor in training(インストラクター・イン・トレーニング)は「Iit」と略されることもあります。

もともとは通常の「インストラクター」しかなかったのですが、2009年ごろにトロント本部がIitを導入しました。まあ、インストラクターライセンスをとった途端に練習に来なくなる人が続出したからですね。それで「続ける意思があるのか」と確認する意味もあって、準備期間としてのIitが設けられたようです。Iitになって1年間の指導実績を積んだら、インストラクター審査を受ける資格が得られます。Iitからインストラクターシャツを着て良いことになってます。

ライセンスを発行できるのは、ミカエルとヴラディミアの二人だけです。

このどちらかに認定してもらうのがIitなり、インストラクターなったりライセンスを更新したりする上での必須条件です。

Iitもインストラクターも、有効期限は1年です。

ただトロント本部は2年くらい前に、有効期限を2年に伸ばしました。

費用については、モスクワ本部の場合は更新ごとに100ユーロ、新規認定は200ユーロ。トロント本部は新規認定だけ100ドルくらいです。更新費用はありません。その代わりに、トロント本部のウェブサイトに情報を掲載してもらう場合は掲載費として年間100ドル必要です。

モスクワ本部かトロント本部のいずれかのライセンスがあれば、公認インストラクターとして活動ができます。

これとは別にモスクワ本部ではコンディショニングに特化したライセンスも発行しています。「Massage Instructor」だったり「Applied Systema Instructor」だったりして呼び名が一定していないのですが、一定のカリキュラムを修了して、システマ式コンディショニングのプラクティショナーとして認められた人が授与されます。

インストラクターの認定試験

インストラクターを認可できるのは、ミカエルとヴラディミアの2名です。決まった試験はありません。北川はモスクワで「システマとは何か、全くシステマを知らない人に伝えるつもりで説明する」というお題で、スピーチをしました。普段の練習を見ていれば、どの程度動けるのかはわかります。その補足としてのスピーチだったんじゃないかと思います。ただ最近はセミナーの参加者が多く、全員に手が回らないので、セミナーなどの空き時間に数分程度動きをチェックしてもらうケースが多いです。動きは主にナイフワークやグラップリングなどの対人ワークです。あと最近は、ダニールがミカエルの代行として更新を認める場合もあるようです。

システマのインストラクターライセンスの特徴

システマのライセンスの特徴は主に二つ。

まず一つは更新制度があるということ。日本の空手でも柔道でも、一度黒帯をとってしまえば死ぬまで黒帯です。更新をうっかり忘れて剥奪されることはありません。どれだけ練習していなくても黒帯は黒帯です。でもシステマの場合は、1年とか2年という結構短い期間で、更新する必要があります。更新するにはミカエルやヴラディミアのセミナーに参加しないといけないので、有効なライセンスを維持するには、継続的に学ばないとならないシステムになっています。

もう一つは、ライセンスの取得だけならかなり簡単だということです。Iitになるだけなら、まったく練習してなくても一度セミナーに参加するだけで取得が可能です。ミカエルやヴラディミアに申請し、「ちょっと動いてみろ」と言われたら動いて見せて、許可が出ればそれでOKです。

このように、システマのライセンスは「継続すること」に主眼が置かれています。なるのは簡単ですが、練習して、学び続けなければいけません。もし怠れば生徒は離れていって、グループを続けられなくなるでしょう。またモチベーションが下がって、学ぶ意欲が失われたら、自動的に失効します。逆にどれだけダメでも続けられさえすれば必ず成長します。スクールを維持できるのであれば、何かしら良い点があるから生徒が来続けてくれているということです。

システマのライセンスは、取得そのものよりも、取得後の活動を念頭においての制度設計と言えます。

グループを持つ資格

これもシステマインストラクターの特徴だと思うのですが、システマの練習会を始めるうえで、ライセンスは不要であるということです。Iitやインストラクターでなくても、自由に仲間を募ってサークルを作ることができます。なので「グループを作りたいのでライセンスが欲しい」とか「ライセンスがないからグループができない」とか思う必要はありません。

ライセンスのメリット

ライセンスがあると、トロントやモスクワ本部の公式サイトに「公認グループ」として掲載される権利が得られます。あと代理店として割安価格でのまとめ買いができるようになります。あとなんらかの肩書きが必要な時に役立ちます。プロフィール欄に肩書きが書いてあった方が、初めてシステマをやる人になんとなく安心感を与えるものです。とはいえ民間資格ですし、しかもロシアのものなので法的な実効性は一切ありません。

日本におけるインストラクターライセンス

どうも肩書きをありがたがる傾向の裏返しか、日本では「ライセンス取得を目指して頑張る」という目標を立てる人が多いようです。でも取得だけなら簡単です。問題はその後なのです。

システマの独特なインストラクター制度がなぜ出来上がったのか。実はここには「ロシア人にとっての『上下関係』とはなんなのか」という、文化的背景が関わって来ているように思います。

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