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ヴラッドとの13年

11月に東京で実施される「EDGE」セミナー。

これまで多くのセミナーを主催してきたシステマ東京だけど、トロント本部校長であるヴラディミア・ヴァシリエフ(以下:ヴラッド)をお招きするのは今回が初めてだ。

あれこれ準備を進めていく中で、そう言えばヴラディミアにも色々と教わったなあとあれこれ思い出すことがあった。

初めてヴラッドに会ったのは、2006年4月下旬だ。2005年末にシステマをはじめた直後、システマジャパン主催でスコット・コナーという当時のシニアインストラクターのセミナーが行われた。それがあまりに面白かったので、トロント本部とはどんなところだろう、と、行ってみたくなったのだ。

当日はシステマをやるためにサラリーマンを辞めた直後、さらに「2度と人に雇われる仕事はしない」と決めたはいいけど、やることもお金もない時期だったので、かなり躊躇したのだけど、「システマやるために仕事を辞めたんだから」と貯金を切り崩したりしてトロント行きを決めた。英語なんて全く自信がないけど、まあなんとかなるだろうと。

当時は確かエクスペディアもないし、Airbnbもない。トロント本部周辺の宿泊施設といえば、トロント本部から1時間くらい歩くモーテルか、ノースヨークエリアの高いホテルしかない。仕方ないから本部まで電車とバスを乗り継いで1時間半くらいかかるダウンタウンの安宿の相部屋を確保した。確か1泊1800円くらいだったと思う。まあ本部のクラスがない時には、エマニュエルのジムの「Fight club」にも行こうと思っていたのでちょうどアクセス敵には両方の中間でちょうど良いとも言えた。

確か最初に日本からトロント本部を訪ねたのは、のちにシステマ神戸を立ち上げるカズさんこと奥内さん。実はその前にも留学中に友人に誘われて訪ねたという人がいたのだけど、システマ留学としてトロント本部を訪ねたのは、私が知る限りでは奥内さんが最初だ。それに続いたのが私ということになる。

ヴラディミアは日本からやってきた僕を快く迎えてくれて、ダウンタウンに泊まっているというと、その近所から車で来ている生徒に私を送るよう手配してくれたりした。

かれこれ13年。ハプニングでヴラッドがセミナー会場に来られなかった年を除いて、毎年トロント本部でヴラッドに教わっている。1回の滞在は1週間から3週間ほど。相変わらず僕はシステマも英語も下手くそな、日本人システマーなのだが、トロント本部は移転して街も色々と変わって、ヴラッドも進化した。

つくづく思うのはヴラッドのシステマはマルチレベルであるということ。

クールでイカしたカッコいいシステマ。

人間の深淵さに迫るコアなシステマ。

その両方のニーズを同時に満たすクラス運びをする。

かつてブルース・リーは映画作りにおいて「マルチレベル」について語っていた。派手でカッコいいアクション、武術によって表現される東洋思想の深み。一見対極に見える両側面のニーズを同時に満たす。それがマルチレベルだ(ったと思う。何かで読んだ)。

とかくヴラッドは派手でカッコいいデモが注目されがちだ。でもそれをいくら真似たところで、紛い物にしかならない。ヴラッドはその人自身がカッコいいところがある。ヴラッドとすれ違った女子高生の一団が、「わぁっ!」と歓声を上げて振り返り、近くにいたシステマーに「映画の撮影でもあるんですか?」と尋ねたなんてエピソードがあるほどだ。

でもキムタクと同じダウンジャケットを着たところで、誰もキムタクにはなれない。それと同じでヴラッドに影響されたデモをしたところで、誰もヴラッドにはなれない。ヴラッドかぶれの痛いヤツが出来上がるだけだ。でもそうしたくなるカッコよさがある。

ただヴラッドというシステマーの本質は、おそらく他のところにある。

動きの精度、原理への忠実さ、基本の確かさ。

つまり身体の基盤が出来すぎなくらい、出来ている。そこに尽きると思う。

身体各部がバラバラに動くのもそう。全身にくまなく神経が張り巡らされて、極めて高い精度で制御されている。

その姿勢はたまに指導でも垣間見られる。

ほんの少し手を動かしただけ、ほんの一歩足を踏み出そうとしただけ。

そんなわずかな動きで「ダメだ。やり直せ。」と、指示が入る。

その度に、自分の動きの粗雑さを省みて、せめて水準くらいヴラッドに近づこうともがく。でも再度の「ダメだ。」

たまに受けるこの容赦ない指導に、どれだけ助けられたか。

まあもっとセンスがあったり、飲み込みが良かったり、あるいはもうちょい英語がうまくてコミュニケーションが円滑ならスムーズなんだろう。

でもまあ仕方ない。センスがないのははなから分かってるし、親がお金を出して英語を学ばせてくれるなんてこともなかった。

そのくせすぐに天狗になる僕の鼻っ柱を、適度に叩き折ってくれる。

そういうありがたい存在だ。

そんなヴラッド夫妻には今回の東京も楽しんで頂けるように、そして日本のシステマ仲間たちが多くをヴラッドから学べるように尽力していきたい。

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