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「俺たちの野球」とはなんだったのか〜矢野阪神を振り返る

◇10/15(土)の朝


季節は緩やかに、しかし確実に変わっていく。

ニュースアプリを開く。阪神タイガースのタブに移る。

藤浪晋太郎の話。
FA選手の動向の話。
外国人の残留、対談の話。
コーチ退任、そして新任の話。
メジャーリーガー獲得調査の話。

そして、CSファイナルを3連敗で終えたチームの話。

終わりはあっけないものだった。試合の結果は悲しみよりも怒りの方が強かったかもしれない。矢野監督の四年間をこんな形で終えていいのか、というやり場のない怒りだ。

しかし、同時に少し安堵を覚える自分もいる。ああ、これで「俺たちの野球」から解放される、と。

矢野監督の四年間と「俺たちの野球」を自分なりの解釈を交えてふり返っていこうと思う。

◇「現代的なリーダー」

前任の金本知憲監督は「古き良き青年監督」だった。
現役当時の圧倒的な成績からくる背中の大きさで組織を引っ張るリーダーだった。

時に、その言葉や思いが悪い方向に作用すると藤浪晋太郎を追い込み、大和という貴重な中堅選手を追い出すことになり、鳥谷敬というレジェンドをぞんざいに扱うことになる。

世代が変われば接し方も変わる。そのことがうまく作用しなかったのが金本知憲監督時代の一側面だ。

対して後任である矢野監督は「現代的なリーダー」だ。まず、選手の話(=希望)を聞く。その上で競わせる。
これはファーム監督時代の経験が大きいのかもしれない。とにかく、選手に寄り添うタイプのリーダーなのだ。

これは年功序列で、上司の言うことを聞いていて、我慢すれば自分も出世できる……という慣行が崩れた社会で、「自分の希望を叶えること」に重きを置く現代の若者には適したリーダーと言えるだろう。

だから、選手にも自由な発想が生まれる
虎メダルなんかもその一貫だろう。批判も多いが、みんなで喜びを分かち合う。それは昭和ではない、令和のリーダーの姿と言える。

◇モチベーター

なにより、矢野監督はモチベーターとして稀有な優秀さを持っている。

理想を追い、諦めない。
自分の夢を叶えることで誰かを喜ばせる。

そしてその喜びも悲しみを監督も共有する。だから、大事なのは気持ち

それが、「俺たちの野球」だ。

矢野ガッツ、会見での涙(シーズンの一つの試合なのに)、波(誠司さん)、言霊。
時に死んだ目でベンチに佇むことすらもファンの心を動かした。

しかし、ここに一つの問題が生じる。
監督としての価値基準が気持ちにあるのはいいのだが、勝負、すなわち采配に関しても気持ちが優先されるのだ。

CS1stの投手起用が合理的かつ迅速だったのに対して、2022年のリーグ戦の采配は不可解なものも少なくなく、合理的判断からのものとは思えないことが多々あった。

そして、四年という歳月は選手に「気持ち」の大切さを伝えるには充分すぎる時間だった。

◇就任当時と現在のチームの違い

就任当時、前年最下位に沈んだチームは、糸井、福留といった他球団からの移籍組以外は梅野、糸原ぐらいが生え抜きとしてはせいぜい主力と呼べるレベルであり、それ故に近本、木浪というルーキーがポジションを奪うことが出来たと言える。

そう、チームが若かった

そこから大山が覚醒し、佐藤輝明、中野が加入して、投手でも青柳、秋山が頭角を現したのであり、その前夜はまだ何も生えぬ荒れ野であった。

そんなチームに矢野監督は最適であるのは、前述の通りだ。

それから4年が経ち、気づけばスタメンはほぼ生え抜きで固められた。そして、控えも含めて選手層が厚くなってきた。
オリンピックに3人の生え抜きが選ばれて、WBC強化試合にも4人選出された。

これは「俺たちの野球」の成果のひとつである。

そう、気持ちはクリアーしたのだ。プロとしてのメンタリティは十分に選手に浸透した。

次に求められるのは戦術であり、戦略だ。
そしてそれをこの2022年の戦いを通して選手に与えられたとは到底思えない。

その意味で、矢野燿大その人が限界を感じた結果が、キャンプ前日の退任宣言なのだろう。

◇個人的な思い

初めて買った選手ユニフォームは39番。矢野捕手のものだった。他球団出身なんて関係ないほどに好きな選手だった。

そして、2003-2010あたりの「一番勝っていた時期」に扇の要に最も多く鎮座していたのが矢野燿大その人だった。

捕手出身らしからぬ監督だった。これは、同じく野村克也の教え子捕手の古田も然りかもしれない。

そんな彼が振るったタクトは理解できないことも多かった。特に最終年は「早く辞めてほしい」と幾度思ってしまった。

だから、また監督をしてほしいとは正直あまり思っていない

しかし、かつて星野監督の優勝は野村時代の功績が大きいと言われたように、岡田監督の優勝は矢野時代の功績が大きかった、と言われる未来が来ると思えるのだ。なぜだか。

そんな未来を思い描きつつ、それでもあなたは嫌いになれない。

矢野監督、お疲れさまでした。
まずはゆっくり羽を休めてください。

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