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2022入試 問題研究⑧-1 大阪大学(文学部)の現代文【大問1】

なんだかんだで8週目。

前回は一橋大学の現代文。

今週は大阪大学文学部の現代文の研究です。
ただし、なかなか重厚なので大問1の解説をアップします。大問2は来週。

ちなみにヘッダーは淀屋橋~肥後橋あたりから移した堂島の風景ですね。ダイビル本館やアクア堂島NBFタワー、ANAクラウンホテル大阪などが写っています。(元オフィスビル営業マンの血が騒いだ一枚。)

◇大阪大学文学部の現代文

〇大まかな特徴

大阪大学の国語入試は文学部と文学部以外に分けられる
文学部の国語には小説が出てくるのだが、これが本当に難しい

なんとなくだが、大手予備校の採用試験(筆記)はこのレベルの問題に対してしっかりと答えを作ることができるかが求められていると思う。

その意味で、受験生がどこまで答えられるのか、というラインを示すのもこの記事の役割だと思っている。

〇ちょっとした宣伝(2週連続)

この大阪大学文学部小説の対策の仕方が分からない……という受験生に向けて、東進ハイスクール・衛星予備校の「仕上げ特訓講座」にて「大阪大学文学部・小説問題」の攻略講座を担当しております。ぜひともお近くの校舎までご連絡ください。

◇出典分析

〇第一問

『フェミニズムの政治学』 岡野八代

〇第二問

『声の山』 黒井千次

◇第一問解説

〇論理展開

この文章は10の形式段落に分かれているが、論のまとまりで分けると2つ(あるいは3つ)に分かれる。

⑴ グディンの責任論の概要
「特別な責任を負っている」と感じる他者との「関係性」を注視することがグディンの「責任論」を理解するために必要なことである。
その中でグディンは「義務と責任」を区別している。義務とは「ある行為を命じる意志を尊重し、結果を問わない」ことであり、責任とは「帰結主義的な倫理」である。結果を重視することで、多数のものと分有可能であり、責任者の裁量を大きく見るところに特徴がある

⑵ グディンの責任論の内容
① 責任は関係性の中で生じるもの
→ 「特別な責任」はその関係性の中から生じており、その中で重みも変化するものである。
② 帰結主義的な責任論
→ 責任とは責任者が「傷つきやすい立場に置かれたもの」(=弱者)に加えられる「危害」をいかに避けるかが問われる。その結果がすべてなのである。そしてその結果のためには責任者は一人で責任を負うのではなく、他者との分有できることが重要な意味を持つ。

言葉がやや難しいが、内容は一貫していると言えるだろう。

〇問一 理由説明(やや平易)

<タケガワ解答>
責任とは相手に対してある特定の効果をもたらされることを重視しており、そのために責任者には多くの裁量と他者との責任の分有が認められるが、この場合の教師は自らの裁量において特定の分野にいて信頼できる他の講師を呼すことで、自分が担当するよりもより大きな学習効果を学生に与える結果を生み出した点で、責任を果たしたと言えるから。

<解答根拠>
設問を踏まえて留意すべきポイントは以下の二点である。

A 「責任の意味を明らかに」すること
B Aの内容を踏まえ、例が「責任を果たした」と言える因果関係の構築

A 「責任の意味」
これは②段落の傍線部の直前と直後に注目する。押さえるべきポイントは2つ。

❶責任とは相手にある特定の成果が持たらされることが大事(=帰結主義)
❷責任は分有可能で、責任者に多くの裁量がある

B Aを踏まえて例示内容の因果関係を作る
例示内容では教師の責任が挙げられている。傍線部内容を上記❶と❷に当てはめると以下の通りになる。

❶教師は学生に教育効果/教科内容の理解をもたらす責任を持つ。
❷❶のためには自分以外の講師に授業を依頼することも教師はできる。

つまり教師は❷を行うことで❶という責任を果たしたという結果をもたらしたと言えるのだ。
これをまとめると上記の解答例となる。

<阪大様の答え>
義務とは異なり責任は、ある結果を生じさせることに重きを置き、責任を負う者にある特定の成果がもたらされることを引き受けるよう命じる。 例においては、専門の講師に講義を依頼することによって、教師自身が講義をもたなくても学生によりよい教育効果をもたらすようふるまったことになり、責任を果たしたことになるから。

Aについては❶が「義務とは異なり責任は、ある結果を生じさせることに重きを置き、責任を負う者にある特定の成果がもたらされることを引き受けるよう命じる。」とあるので、私の❷の内容がない。ただ、他の講師に授業を任せることは責任の分有なのでこの内容は必要じゃないのかな、という疑問は残る
Bはだいたい同じ。

そのいみではこの問題はやや平易。ある程度同じ方向で書けていることが望まれる。

〇問二 理由説明(標準からやや難)

<タケガワ解答>
契約モデルは自発的に取り交わした契約がもたらす結果に対して義務を負わなければならないと考えるが、家族は自発的に関係を構築した契約とみることができるものであり、その中での行為の結果については契約の当事者である家族の一員の自分こそが責任を負わなくてはならないという、排他的な義務を感じさせるものであるから。

<解答根拠>
答えるべきものは2点である。

A 「契約モデル」とは何か
B Aを踏まえてなぜ「家族における責任が特殊なのか」を考える

作業の方向性としては問一と変わらないのだが、Bの内容の処理がかなり難しい。ただ文章内容を羅列するだけでは因果関係が作り切れない。この難しさをのり越えられるかは非常に大事……。
だが、Aの指摘とBの論理を不十分なりに何とか構築することができるのが実際の合格ラインだろう。

A 「契約モデル」
これは③段落の内容を押さえる。「自発的に取り交わした契約がもたらす結果に対しては義務を負わなければならない」モデルなのだ。

B Aを踏まえて家族が特別な関係になりうる因果関係を作る。
Aを踏まえると、家族は「自発的に取り交わした契約」による関係なのであろう。ここまでは何とか触れたい

その上で、なぜ家族関係が特殊なのかを考える。
つまり、他の関係に対して、家族の問題は「家族こそが排他的に(一方的に)責任を負わなくてはならない」ということに触れられると、上記の解答のようになる。
ここまで作るのはやや厳しいかもしれない。ただ、旧帝大、なかでも日本で一番難しいと言える大阪大学文学部に臨む受験生であれば、表面的な読解に終始しない、きちんとした論理関係の構築を目指してほしい

<阪大様の解答>
契約モデルにおいては、自発的に取り交わした契約がもたらす結果に対して責任を負わなければならないという考え方が前提されているため、自発的な契約によって形成される家族においては、このモデルに従えば、責任を負う者が一方的に責任を担うものだと考えられることになるから。

各予備校の解答よりも明快な論理であると言える。私の答えもやや煩雑かもしれないね。

〇問三 換言問題(標準)

<タケガワ解答>
関係性によって責任の重みが変わるという点から考えると特別な責任はやはり親密な関係性が無ければならないと思われるが、グディンの考える責任は帰結主義に基づいているものであり、求める結果が守られるならばその責任を果たす人間との関係性は二次的なものであると考えている。

<解答根拠>
設問条件を守ることを意識すると以下の二点がポイントとなる。

A 指示語「その」の内容
B Aに対するグディンの意見

A 「その」の内容
意外とこれが探しにくいかもしれないが、単純に直前と考えるのではなく、⑥段落全体で考える。
すると「関係性によってその責任の重みが変わる」という内容になるだろう。

B グディンの意見
これは傍線部を含む⑦段落から考える。彼の意見では「帰結主義」がすべてなのである。責任とは「結果」をもたらすことができるならばそれでいいので関係性が親密であるかどうかは問われないのだ。
Bをちゃんと導き出せるかが一つのポイント。

<阪大様の解答>
責任が関係性から生じ、 関係性に応じて、その重みが変化するのであれば、責任を果たすには親密な関係性が必要であると思われるかもしれないが、危害を避けるという結果がもたらされることを重視するグディンは、この結果をもたらすことのできる者が責任を負えばよく、責任を果たすうえで必ずしも親密な関係性が必要なわけではないと考えている。

これは正直、私の解答の方がすっきりしていないかな。
そんな気がする。

〇問四 理由説明(難)

<タケガワ解答>
「傷つきやすさを避けるモデル」は結果として責任が果たされればよいと考えるので、例えば子供の飢えを回避するためならその責任は親と政府がそれぞれ異なる役割を果たすことで全うされるということも想定されるから。そしてそれにより子供の飢えを回避しやすくなるという現実的に有意味な価値が生じると言える

<解答根拠>
答えの根拠が非常に作りにくいと思われるが、3点考える。

A 責任を分かち持つことが可能な理由
B Aの価値
C AとBを例示に置き換えて考える

A 責任を分かち持つことが可能な理由とC例示
→ これはここまでも何度も触れられているが、「傷つきやすさを避けるモデル」による責任論では「結果」が大事なので、その中で責任を分有することは二の次なのである。
これを直前の「子供の飢え」に置き換えて考えると、子供の飢えの回避という結果のためには親と政府がそれぞれ責任をもって異なる役割を果たすことが想定されるのは不自然ではないと言える。これでAの因果関係は成立する。

B Aの価値とC例示
→ これは抽象的に考えると答えが出しづらいというなかなかアプローチの難しさが感じられる問題である。
その価値とは要は「結果が出しやすくなる」ことであると言えるだろう。ここでは「子どもの飢えが回避しやすくなる」ということになるのだが、ここまで導けるかは…微妙である。

<阪大様の解答>
飢えという深刻な危害が子どもに及ばないよう対策を講じる責任は、その能力をもつ政府が負い、母親には政府とは別の仕方で子どもに危害が及ばないよう努める責任が伴うことになるから。このように分かちもたれた責任をそれぞれが果たすことによって、子どもの傷つきやすい状況が克服されるという価値が生じる。

Aが書けているのが合格点かな、と。

今回はここまで。次回は阪大文学部の小説を扱います。

それでは

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