毎日悪夢を見る (5)

治療の経過ⅲです。暗い話をしませんのでご安心ください。


治療

いよいよ認知行動療法による治療が始まる。担当は主治医ではなく、心理士の先生である。心理士をしている知人に柔和な雰囲気と風貌がかなり似ていて不思議。

治療は継続的に行うのではなく、全12回ほどで完了する。1時間の面談を週1回、3ヶ月続ける計算。1回ごとにホームワークが出され、それも含めて治療となる。

ふつう治療する病気(鬱病とかPTSDとか)によって基本のプログラムは決まっているそうなのだけど、今回の悪夢障害はプログラムが確立されていないため、先生方で話し合って専用にプログラムを組んでくださるとのこと...。本当にありがたくて頭が上がらない。

「認知行動療法」を人に説明するのはとても難しい。他力を頼って様々なサイトを漁ったが、簡潔に説明されていてしっくりとくるものもあまりない。私の言葉で言うと、心理士の先生と課題(問題)を決め、認知(考え方)を見つめ直し、歪みに気づき、修正するための行動を考え、行動をホームワークで実践してみる、その繰り返しといった感じです。以下実際の様子を抜粋して書いていきます。治療を受けてから少し時間が経過しているので、記憶が抜けている部分があると思いますがご容赦ください。

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[作業0]
まずは経過や症状を事細かに説明する。その上で各症状のひどさなどを5段階で評価していく。今後の変化を定量的に測るためと思われる。


[作業1]
睡眠の状況を毎日記録していく。
①布団に入った時刻、布団から出た時刻。
②布団に入ってから寝付くまでにかかった時間、夜中に起きていた時間、目覚めてから布団を出るまでにかかった時間。
③悪夢を見た回数とその内容、各回のひどさ(10段階評価)。
④総合的なその日の熟睡感(10段階評価)。


ここで睡眠効率という指標がある。

睡眠効率とは、布団に入っている時間に対する、眠っている時間の割合のこと。たとえば布団で本を読んでいたりすると睡眠効率は下がる。なかなか寝付けない場合にも同様。ちょっと面倒だけど、上の①から布団に入っている時間を、①②から眠っている時間を計算し、その比率を割り出すと数値化できる。

睡眠効率を上げる(布団で睡眠以外しない)ことで、脳に「布団=睡眠」と覚えさせる。これが質の高い睡眠を得るための1つの方法だという。睡眠の質が高まると、浅い睡眠の量が正常になって悪夢が減るという計画。

どうしたら睡眠効率を上げることができるかを先生と考える。まず、布団でスマホを見たり本を読んだりしない。これはできそう。寝ようと思っても寝付けないときは、無理に布団に居続けない。一度布団を出て眠くなるのを待つ。布団の外で本を読んだりするのはオッケー。

悪夢で夜中に起きてしまうことも仕方がない。その時にも出来るだけ、寝付けない間は布団の外にいる。これもできそう。寝付けない時は無理に寝ようとしなくていいんだという考え方はむしろ救いである。

朝目が覚めてから布団を出るまでの時間だけど、これがなかなか難しい。目覚めの後、夢と現実を行ったり来たりしてしまう時間があったり、布団以外で眠り入ってしまう時間がある。ではどうしたらいいか。目を覚ますために朝日を浴びるとか、人に起こしてもらうとか、硬い椅子に座って再度眠らないようにするとか、アイデアを出して検討する。

目標のために、何なら効果がありそうか、どうしたらそれが達成できそうか、を個人の背景に合わせて探っていく。場合によっては、できないことの妨げになっているものを探り出し、それを取り除くためにできることを探る。このようにして行動を決め、1週間ホームワークとしてそれに取り組み、次回にどうだったかを振り返る。


認知行動療法の最初の取り組みはこのようだった。認知の歪み(どうしても朝悪夢で起きられない)を修正(そう思う理由を精査して解決策を探す)して、行動を決める。

なんというか「精神のコンサル」を受けているようだと思った。コンサルしてもらったことがないので合っているかわからない。


この作業は全12回の最後まで続けることになる。これは結果としてかなりよかった。この「布団=睡眠」脳インプット策も、実行しやすくてそれなりに効果があったと思う。定刻に寝起きすることにそれほど重点を置かないことも、眠れないときは無理に寝ようとしないという考え方も気楽だ。2ヶ月くらいかけてゆっくりと悪夢が改善していった。

加えて、毎日の睡眠を目に見えるようにしたことがとても大きかった。記録することで、のっぺりと続くつらい日々から多少の起伏が見てとれるようになった。工夫できるようになった。

上記の記録は睡眠日誌とも呼ばれ、睡眠にまつわる治療でしばしば利用されているようだ。最初は記録をつけるのがかなり難しいと思うけど、睡眠に悩む方におすすめではあります。どのくらい眠れなかったかとか何時に起きたかとか、すぐ忘れてしまうし、そもそも入眠した時刻を自分で正確に知ることなんてできないんだからアバウトで良い。抜けてしまう日があっても良い。しばらく記録をつけてちょっと俯瞰して見てみると、改善の余地が見つかるかもしれない。


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※認知行動療法について書籍もあたりましたが、「はじめての認知療法」大野豊著 が入門として分かりやすかったです。主にうつ病治療。睡眠のことにも触れられている。

※不眠の認知行動療法はこの記事もわかりやすい。



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