北インド古典音楽について
こんにちは。tkcです。
この記事は、北インド古典音楽を聞く上で最低限知っておくと楽しめるポイントをざっくりまとめたものになります。
この記事を通して、そもそも北インド古典って何?なんか難しいやつでしょ?踊るやつ?スピリチュアル系?といった印象が変わり、みなさんが北インド古典音楽のイベントに行く時の心理的な抵抗感を少しでも減らすことができればと思います。
そして私のライブに来てくれ。たくさん来てくれな。
あと、とても大切なことなのですが民族音楽の世界は人によって言うことが異なる場合がよくあるため(海外の言葉を日本語に訳すときのニュアンスの違い、流派の違い、師の違い等による)、この記事の内容もあくまで僕個人の意見として読んでもらえたらと思います。大きくは間違えてないと思うけど噛みつかないでくれほんと。
1:北インド古典音楽ってどんなの?
歴史の話になると諸説あったりしてややこしいし正直wikiとか読んだ方が早いのでここでは詳しく書きませんが、日本でよく聴けるタイプの演奏はタブラ(打楽器)とシタール(弦楽器)やバーンスリー(笛)でのデュオスタイルの演奏が多いです。
基本的に北インドの古典音楽はメロディ楽器がメインで1人、伴奏としてリズム楽器のタブラが入ることが多いです。
その他ヴォーカルが入るスタイルではヴォーカル+ハルモニウム(インドのアコーディオン)+タブラ、もう1人シタールなどのメロディ楽器が入ることがあります。あくまでメロディが主体ってことですね。
インドだともっと南インドのムリダンガム(両面太鼓)とかバイオリンとかの入った色んなセットが聴けます。
2:北インド古典音楽の大まかな構成
ここから本編です。結局何してるの?って話です。ざっくり言うと北インド音楽は一定のルールの上で即興演奏をしています。
ジャズをよく聴く人はそういうイメージだと分かりやすいかもしれません。流れは以下のようになります。
2−1:例)16拍子(teentaal)でのよくある展開
①alap(アラープ)→jod(ジョール) :メロディ楽器のみ
→②gat(ガッド):「vilambit(ビランビット)→madya(マッディア)→drut(ドゥルット)」 :メロディ楽器とリズム楽器(タブラ)のパート
わかんない単語が出て来ましたね。以下で解説していきます。
2−1−1:alap(アラープ)
メロディ楽器のソロパートです。ラーガ(旋律というか音階というか、詳しい定義はメロディ奏者に聞いてください)を元にゆったりとした演奏を行うパートで、だいたい10〜20分くらい演奏されます。
ここではテンポをあまり明確に出さず、ピアノソロでいうルバート奏法のような感じで演奏されます。ゆったーり流れる感じですね。
僕はインドでのオールナイトコンサートで明け方に40分くらいのalapを聴いて爆睡したことがあります。
2−1−2:jod(ジョール)
こちらもメロディ楽器のソロパートなのですが alap との主な違いは縦のリズムがはっきりと出される事です。シタールなどの弦楽器だと裏拍にリズムを入れたりします。
この辺りからテンポ感が出て来て徐々に演奏が速くなり盛り上がっていきます。
jod で盛り上がったら一旦演奏が次のパートに切り替わります。
2−1−3:gat(ガッド):「vilambit(ビランビット)→madya(マッディア)→drut(ドゥルット)」
いよいよタブラの入るパートです。まず用語の解説からしていくと、** vilambit(低速:bpm=40~70)、 madya(中速:bpm=90~150)、 drut(高速:bpm=150~)**って感じです。
※bpmはあくまで目安ですからね!
前述の jod パートで一度bpmが上がった状態でもvilambit から始まる場合は一度テンポをがっつりと落とします。もちろん上がったテンポのままで drut に行く場合もあります。
タブラが入ってからの流れは、
vilambit(低速)で、メロディのソロとタブラのソロを交互に何度か繰り返したら、madya(中速)にテンポをあげメロディのソロとタブラのソロの繰り返し、drut(高速)にテンポを上げ交互にソロを繰り返し。といった流れになります。
ジャズでいうチェイスでソロを取り合う感じですね。
なのでここまでをまとめると
①メロディ楽器だけのパートが10~20分あり、 ②タブラが途中参加してテンポを上げながら交互にソロを取り合う
といったものになります。全体像が見えるとなんとなく難しくなさそうでしょ?
次からはタブラやメロディ楽器は何してるのかという話になります。
3:タブラ奏者、メロディ奏者はどんなことをしているのか
ここが一番大事かもしれません。とはいえ僕はタブラ奏者なのでメロディ視点ではなく割とリズム視点によった話になると思います。メロディのことを詳しく知りたい方はメロディ奏者に聞いてみてください。
3−1:タブラ奏者のソロ中のメロディ奏者のプレイ
teentaal(16拍子)の場合、16カウントで1サイクルとなるため1サイクル分でラーガに沿ったリピートするフレーズを弾きます。vilambit(低速)の場合はほどんど16カウント1サイクルのフレーズですが、madya(中速)やdrut(高速)になると2〜3サイクルで一つのフレーズになったりします。
ジャズでドラムソロを叩いている時にコードをバッキングで繰り返し弾いているような感覚です。しかし、このようなバッキングと異なるインド音楽でややこしい点はメロディの弾き始めが必ずしも拍子の頭ではないという点です。ややこしいですね。
例えばフレーズが7拍子目から始まるものもあれば12拍子目から始まるものもあります。これをMukura(ムクラ)と言います。
※このリピートする時のフレーズは”スタイ”だったり”バンディッシュ”と呼ばれるのですが、「バンディッシュは声楽用語なので器楽だとスタイになる」とか「私の先生はバンディッシュで統一してる」とか色々あるためそういうフレーズがあるんだなくらいに考えてもらえたらと思います。
3−2:メロディ奏者のソロ中のタブラ奏者のプレイ
ここが分かっているとインド古典がだいぶ聴きやすくなると思います。
タブラ奏者もメロディ奏者と同じく16拍子を繰り返すフレーズを叩きます。これを”テカ”と呼びます。
テカは taal (拍子)によって決まっているためその taal のテカを知って入れば聴いている演奏が何拍子目にあたるのかといった現在位置が確認できます。
例として、teentaal(16拍子)のテカだと以下のようになります。
※左上から数字に沿って読んでください。
はい。いきなりこんな文字列見せられても何これ?ってなりますよね。
タブラのフレーズは基本的に口伝なので叩く音全てに言葉が割り振られています。そのためタブラボル(口で言うタブラのフレーズ。南インドではコンナッコールと呼ぶ)を表現するときは譜面ではなく文字になります。
ここであまり難しい話をするつもりはないため、 Dha や Dhin などの"D"が入ったところは低音が入り、Ta や Tin などの部分は低音が抜けるところくらいに思ってもらえたら大丈夫です。
タブラで16拍子のテカを叩く際はだいたい1〜4拍子目、5〜8拍子目、9〜12拍子目、13〜16拍子目と大まかに4つのブロックに分けられます。
ここで理解してもらいたいのは、5〜8拍子目のブロックに10〜12拍子目で低音が抜ける部分がありますよね。
この低音が抜ける部分は”カーリー”又は”クリムディ”と呼ばれテカを叩く時には必ず低音を抜く部分になります。
メロディ楽器のソロの進行や盛り上がりに合わせてタブラの演奏も基本のテカから変化していくのですがこのカーリーの部分だけは低音が抜けるのでここを聴いていると今が何拍子目かが分かるということです。
↓テカの説明動画です。指での白のカウントについては次節の 3−2 を参照してください
3−2の補足:拍子のカウントの仕方
インド古典は拍子をカウントしながら聴くと楽しいです。
というのも次に解説するテハイというインド音楽独特の考え方があるためなのですが、頭の中でのカウントだと数えるのに精一杯になってしまうので今回はインドでもよく使われる片手で16拍子をカウントする方法を説明します。
右手を準備しましょう。
指には第一関節と第二関節がありますね。指の付け根、関節、指先を数えると16あります
これが今の僕の画像加工の限界です。
小指の付け根からスタートし親指でカウントしていきます。そうすると人差し指の先までいくと16拍子のカウントができます。
3−3:Tihai(テハイ)について
インド音楽を聴く上でこれも分かっているとかなり楽しい要素です。
Tihai(テハイ)と呼ばれるもので、簡単にいうとソロを終える際に必ず入れるフレーズみたいなものです。これが少し説明が複雑になるのですがテハイにはざっくり2点ほどルールがあります。
①同じフレーズを三回繰り返す
②最後の1音で1拍子目に戻る(応用してムクラに戻るというのもある)
はい。よくわからないですよね。説明していきます。
例えば、カウントを(1、2、3、4、5)と数えられるフレーズがあるとします。この場合、最後の音に1音空白を足すと(1、2、3、4、5、ー)となります。これを1拍子目からカウントして3回繰り返したのが以下の図になります。
ちゃんと伝わるかこれ。
この場合、3回繰り返したカウントの”5”の音で頭に戻ることができます。これはかなりシンプルな例で、
例えば
「11カウントのフレーズ×3回=33カウント=16拍子×2回あまり1」とか
「(21カウントのフレーズ+1カウント休み)×3=65カウント(※最後の音は65カウント目に来る)=16カウント×4あまり1」
となったりします。数字がたくさん出てきてインドっぽいですね。
要するに、聴いている途中で4×4の16拍子としてカウントしていたらカウントから外れて叩いているように聴こえるけど最後にぴったり合うということです。
感覚的な表現をすると、あれ?なんかズレてない? どんどんズレてるけどちょっと気持ち悪くない? え?このまま進むの? 最後の一音で合った!!!気持ちいいいいーーーーー!!!ということです。
このようにカウントからズレていく要素があるため頭の中で数えるよりも、先ほど書いたような手で数えるやり方ができるとインド音楽が楽しくなると思います。
かっこいいテハイがビシッと決まったときは「キャバテ!!(すげえ!!とか oh my god!!的な意味)」と叫んだりして拍手しましょう。
↓テハイの簡単な解説動画です
まとめ
これまで書いてきたことは一番基本的な16拍子(teentaal)のお話で、インド古典では7拍子(Rupak)や10拍子(Jhaptaal)、12拍子(Ektaal)などこれ以外にももっとたくさんあります。
それぞれテカが異なりますが、それぞれにカーリー(低音が抜けるパート)があったりテハイでソロが終わるといった部分は共通しています。
かなり長文になってしまいましたが、可能な限り専門的な深い部分は省略してインド音楽をもっと楽しむために必要な要素を抽出して書いたつもりです。
日本国内でもインド音楽を楽しむためのレクチャーライブやイベントをしている方もいるため、この記事を読んで興味が湧いたら実際にイベントに行ってみてください。音楽はうんちくじゃなくて聴いて楽しむものだと思うので。
最後に個人的な話になりますが、日本のインド古典音楽業界は今30歳後半から50代の演奏者が多く、僕(現在29歳)のような年代の演奏者がかなり少ない状態です。
この記事を通してもっと若い世代に興味を持ってもらって色んなイベントに来てもらったりインド音楽を始めました!!って人が増えるきっかけになれば嬉しいです。
更に最後に、サブスクなどで聴けるインド古典で比較的わかりやすいものを有料部分で公開しています。ちなみにここまでの無料公開部分が本編で今後も全編を有料にしたりするつもりはないので安心してください。記事を読んで無料部分の内容的にちょっと課金してあげてもいいかな!と思った方は購入していただけると嬉しいです。
では。
※おまけ:古典演奏の一連の流れの解説動画があります
バーンスリー奏者の寺原太郎さんのチャンネルにて自分たちのライブ演奏を見ながら解説&感想戦を行う動画がアップされています。実際の演奏を見ながらの説明でわかりやすいと思うのとメロディ奏者目線からのラーガの説明もあるので是非みてみてください
おまけ:聴いてほしいインド古典入門編
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