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日系人のアメリカンコミックス(雑誌『アイデア』のアンケートに答えて)

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 2021年1月に、翻訳家の原正人さんからDMが来ました。なんと雑誌『アイデア』が海外マンガ特集をするとのこと。そこに15名くらい、邦訳・未邦訳問わず好きな海外マンガを紹介するコーナーを作るらしく、「川勝くんも書いてくれ」ということらしい。自分の好きなものを紹介するのは好きなので、快く引き受けた次第。

 原さんには2020年1月にもメールインタビューを受けたことがあります。ダヴィッド・プリュドム『レベティコ』出版のためのクラウドファンディング応援記事でです。

 ここですでに色々と紹介してしまったので、それとは違うものを三冊選ぼうと思いました。少し渋好みになってしまいましたが『アイデア』の読者なので大丈夫でしょう。


①モリス作画、ルネ・ゴシニ原作『判事ロイ・ビーン』

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 西部開拓時代の実在の人物であるイカれた判事ロイ・ビーンと、他所者の悪徳判事とのトンチ合戦。争いには打ち勝つものの、時代は移り変わりビーンも過去の人になってゆくというものです。ユーモラスに描かれておりますが、どこかペーソスを感じさせる好編です。日本では(何故か)渡辺一夫編集で三冊翻訳されておりますが、この一冊目が抜群に面白いです。

 作画のモリスはベルギー人なのですが、このラッキー・ルークのシリーズをちゃんと描くために渡米しているのです。偉いですね。原作のルネ・ゴシニはフランス、ヨーロッパではめちゃくちゃ有名な漫画『アステリックス』の作者です。他にも『プチ・ニコラ』なんかも書いてます。

↑調べたら今年復刊してました。全五巻揃えると期間限定で「0巻」が貰えるキャンペーンをやっているらしい。私は1970年代に出た二巻本の渋い装丁の本で読みました。


②ミネ・オークボ 『市民13660号 日系女性画家による戦時強制収容所の記録』

Amazonで取り扱いがないので英語版(オリジナル)のリンクを貼ります。

 「第二次世界大戦時にアメリカにいる日系人/日本人が強制収容所に送られたのは有名な話だが、その実体験を絵物語で綴った本が存在する。文章も無駄がなく、身の回りの些細な出来事や感覚を丁寧に捉えており見事。絵もディテールが細かく生々しい。絵物語という様式の可能性を感じる一冊でもある。」

 ↑の文章が『アイデア』に寄せた文章です。これは普通のコマ割された漫画というよりも、画と文が別になっている絵物語形式に近いスタイルの本です。

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こういう画文がずっと続く。読み進めると不思議な感動がある。


 南北米大陸の日系人や移民の歴史に興味があったころに探して読んだ本です。Amazonの洋書の方のグローバルレビューの数を見てびっくりします。アメリカではかなり広く読まれている本なんですね。 

 この本は移民の歴史に興味があったころに沢山読んだ本の中でも印象深かったものです。他にも大陸書房の『世界の中の日本人』も良かったです。

③ボブ・フジタニ作画『原子人間 ソーラー博士』(未邦訳)

 ↑のリンクはハードカヴァー版ですが、私はペーパーバックで持ってます。そっちの方が安いよ

 2010年に姉の住むブルックリンの街に二週間ほど滞在したことがあるのですが、その滞在初日にマンハッタンにある「禁じられた惑星(Forbidden Planet)という漫画屋で買ったのです。ペンタッチが流麗で、かつ1960年代の香りが強く漂っていて、そこにも惹かれたのです。その絵を描いたのがボブ・フジタニです。 

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 この本の前半はボブ・フジタニが手掛けていて、後半は違う画家によって描かれてます。後半になると、普通のスーパーヒーローものになってしまい、ストーリーも単調になるのです。その落差で、フジタニという名前を覚えたのでしょう。明らかに日系人であるその名前にも強い印象を受けました。とはいえ熱心なアメコミファンではないので、時々その名前を見かけたら手に入れる程度のものでした。

 ところが去年、2020年9月6日にボブ・フジタニの訃報が届きました。なんと、1921年生まれなので、100歳近くまでご存命だったのです。これには驚きました。昔はなかったと思うのですがWikipediaの記事も作られておりました。このような内容でした。

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ロバート・フジタニ(生1921年10月15日〜没2020年9月6日 98歳)は、米国のコミックブックの作家である。

経歴:1921年、アイルランド系日本人家庭にて生誕。NYで美術を学んだ後、1940年代のはじめに市内の小さな出版社でコミックスを執筆。Avon、Dell Comics、Harvey Comics、Lev Gleason Publications、などがその出版社である。雑誌記事用の挿絵も手掛け、『フラッシュ・ゴードン』などのゴーストライターでもあった。1960年代コミック・ストリップ「原子人間 ソーラー博士」の制作を手伝う。1990年代にはリップ・カービーの作画を担。2005年、サンディエゴのコミコンにてインクポット賞を受賞。フジタニは2020年9月6日に98歳で逝去。同年の6月に脳梗塞を患っていた。

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 この『原子人間 ソーラー博士』は電子辞書で少しずつひきながら読んだ、はじめてのアメコミなので、思い出深くものあるのです。もう10年も前の話です。ボブ・フジタニ先生、謹んでお悔やみ申し上げます。

 

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