中学女子バレーの肝はサーブ!
コーチになる前、全国まで行った3年生の練習試合と公式戦を、1年生保護者の一人としてずっと観戦していたのだが、中学女子バレーの得点パターンの大きなウエイトを占めるのは、サーブによる得点だった。
高校、大学、一般のバレーしか見てこなかった私には、驚きであった。
郡大会レベルでは、コートの外側に弾いたボールを、残り2打で相手コートに返す技量がないチームが多い。
弾いたことに気づくまでの時間、動き出しの速さ、ダッシュ力、コート内に戻す腕力、そして何より、イレギュラーな状況に対応する体幹維持力、対応力がない。
県大会ベスト4以上ではそういうフィジカル的な遅さや弱さはほぼないが、サーブのスピードが上がるため、そうなると弾いた時のボールが飛んで行く距離が遠くて戻せない。
または、落ちたりスライドしたりする変化量が大きくなるため、受ける側の経験不足もあって、対応できなくなる。
中学女子のネット高は215。
ちなみに最も高い成人男子は243。
サーブがネットを越えて落ちてくるまでの高低差があるほど、レシーバーにとってはどんな球筋か、判断するための視覚的手がかりとなる。つまり情報量が多ければ多いほどサーブレシーブはしやすくなる。
ネットが低いと、スレスレに飛んでくるサーブは、比較的情報量が少ないということになる。
例えば成人男子の高いネットでのサーブレシーブに慣れている人が、突然中学女子ネットでサーブレシーブすると、おそらく「難しい」と感じるはずだ。
そういう理屈により、最も効果的なサーブの打ち方の条件の一つは、「ジャンプして打つこと」である。
ジャンプして打点を高くすることで、ネット上までのボールの上下動を最小化し、わずかではあるが到達距離と時間を最短にすることができる。
次に、ボールに回転を与えるか、与えないかという選択に迫られる。
バレーボールはその大きさに比して重量がとても軽いので、
手前から奥行き方向に前回転(ドライブ回転)させることで、相手コート枠内に落ちやすくなる。
ただし、ジャンプしてドライブ回転をかけるスパイクサーブは、フィジカルの強さがなければ、そもそもの練習回数をこなせない。
そしてレシーバーが対応できない程度の速度でもって、いつでも打ち出す体力と正確性、メンタルの強さが必要だ。
ゆえに、特に女子バレーの世界では、戦略的にミスが少なく、最も効果的なサーブの打ち方は、ジャンプしての無回転、ジャンプフローターサーブだと言われている。
バレーボールはその大きさと軽さにより、他競技のボールよりも空気抵抗の影響を受けての変化量が大きい。
熟練すると全く無回転のサーブをいつでも打てるようになるし、ある程度意図的に落としたり伸ばしたり、スライドさせることができるようになる。
これは職人並みの、ほんのわずかな力加減である。
なので、2年生たちにも、できるだけジャンプフローターサーブを打つように練習させたのだが、結局は無理だった。
私が指導した10か月、サーブばかりに時間を割いてはおれず、また、実戦を重ねれば自然と上達すると目論んだのだが、それは痛い誤算だった。
ジャンプしない、スタンディングでのフローターサーブでさえ、習得するのに半年以上かかった。半年くらいまでは、ゆるく回転してしまうサーブしか打てず、しかも成功とミスの比率が半々くらいだった。
相手が取ろうか取るまいか、迷うようなミスならまだいいが、ネットにかかったり、大ホームランだったりと、相手が安心するようなミスが多かった。
スポ少経験者の3人は、最初から無回転サーブをほぼ毎回打てたので、これだけはいかに回数多くサーブを打ったかがものを言うのだと確信した。
自分も大学時代、とにかくピンチサーバーでいいから試合に出たくて、誰より早く練習に行って、毎日200球くらい打ったものだ。
しかし、女子中学生では、自分でトスしたボールに、ちょっと助走して、ジャンプして正確にヒットする、という一連のせわしない動作が、どうしてもできないという子の方が多いのかもしれない。
ただ、郡大会レベルであれば、変化するサーブでなくても、相手コートにサーブを入れるだけで、相手側のミスも多いので、必ずしも難しいボールが返球されてくるわけではない。
とにかくサーブミスがないことが、試合結果に大きく影響するのであった。
サーブミスは即ち、相手に1点あげること。
サーブミスが一度もないということは、簡単に点数を与えなかったということになる。
自分でトスを上げ、自分だけで打ち、完結するサーブというプレー技術。
賞賛は独り占めだが、ミスは全部自分のせい。それだけに、プレッシャーも大きい。
けれど、それを極めることが、バレーボール、とりわけ中学女子バレーの世界では、何より重要なのである。
ただ、
「コーチ、なんで無回転でサーブ打った方がいいって、何回も言うんですか?」と、当初2年生から質問されたときは、
「全国大会までついて行って、何試合も間近で見てきたのに、今更その質問かよ・・・」
と思ったが、
笑顔で、「無回転にすると空気抵抗でな・・・」と優しく説明。
ふう。やれやれ。