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予備自衛官補(技能)試験に応募してから合格するまで その1

予備自衛官補(技能)の試験に合格

5月21日に予備自衛官補(技能)の試験結果の発表があり、無事合格。翌日には書面での合格通知と回答票が届いた。回答票が入っている人は、補欠合格ではなく、志願して訓練を終了すれば、ほぼ確実に予備自衛官として任官されるらしい。

国立中学、国立高校、国立大学とずっと国立の素晴らしい学校に通ったことを誇りに思い、毎年伊勢神宮や九段に参拝する私だが、社会人になってからの26年間は、一度も日本の会社で働いたことはなかった。

もちろん、外資系の会社で働きちゃんと税金も納めてきたので国に貢献しているのだが、一度も直接的に日本のために働いたことがないことが、ずっと心に引っかかってきた。

引退してから何かお国のお役に立てることはないか色々調べてみたが、どれもたいてい年齢制限がある。そんな中で、予備自衛官補の技能公募は53~55歳までなら応募できることを発見。これならアラフィフの私でもお国の役に立つことが出来る。

少々きつい訓練があったとしても、今もトライアスロンやマラソンのレースに出ているぐらいなので全く問題ない。自己満足のために身体鍛えるよりは、誰かの役に立てた方がいいに決まっている。

そう思って今回初めて予備自衛官補の技能公募に応募し、合格した。

ちなみにわたしはいわゆる「ミリオタ」ではない。


そもそも予備自衛官補技能公募とは

自衛隊に入隊したことがないが、防衛に役立つ特別な技術を持つ人材を、防衛力の一部として組み込むための制度が自衛官技能公募。技能以外に一般もある。

技能は医療従事者や語学/通訳要員など、専門分野における任務にあたる予備自衛官になるコース。一般は、駐屯地の警備要員や、補給などの後方支援等の任務にあたる予備自衛官になるコース。

私が合格した技能分野は英語。語学では、英語以外にもロシア語、中国語、韓国語などの技能を持つ人が募集されており、語学以外には医師、歯科医師、看護師、システムエンジニア、無線通信士、弁護士、司法書士など、変わったところでは遺体衛生保全士(エンバーマー)や納棺士も募集の対象となっている。詳細については、こちらをみてもらうのがいいだろう。

予備自衛官補は、教育訓練招集に応招する義務のある非常勤国家公務員。勘違いされがちだが、いきなり入隊したりはしない。

予備自衛官補が教育訓練を受けて「補」がとれて予備自衛官になる。
予備自衛官も招集されない限りは普通に民間で働く非常勤国家公務員。

予備自衛官補は、教育訓練に参加すると日額7900円が支給される。時給にすると最低賃金を下回るから、実質ボランティアに近い。

教育訓練は、技能だと2年以内に10日間、一般だと3年以内に50日間。基本は5日間連続で1クール。それを技能は2クール、一般は10クールこなすことになる。

それが終わると、予備自衛官として任官される。予備自衛官は、通常民間の一般企業などで働くが、有事の際、すなわち防衛招集命令、国民保護等招集命令および災害招集命令が発令される際は応招義務があり、出頭すると自衛官として任官される。海外でいう予備役、いわゆるReserveだ。

仮に招集されて出頭せず、応招義務違反を犯したらどうなるのか。

自衛隊法第百十九条に、防衛招集命令を受けた予備自衛官で正当な理由なく指定された日から三日を過ぎても指定された場所に出頭しないと三年以下の懲役または禁錮に処する、と定められている。戦争発生時、もしくは発生が予測されるときに出頭命令を受けて従わないと懲役刑もしくは禁錮刑ということだ。

だが国民保護等招集命令や、災害招集命令に関しては、予備自衛官の出頭拒否に対する罰則規定はない。
東京に大地震が来て家が倒壊し家族が負傷した、というような事態だと、家族を残して出頭しろという命令に従わなくても罰則はないということになる。

有事の際は即応予備自衛官(4000人強、実質自衛隊経験者)が予備自衛官(約3万4千人)よりも先に招集されるといわれているが、昨年7月の熊本の豪雨の際は即応予備自衛官が77名、予備自衛官が50名招集された。地元の地理に詳しいものを、即応予備自衛官、予備自衛官をわけへだてせず招集したということのようだ。

また予備自衛官に任官されると、練度を維持するために年に1度、5日間の訓練招集に応じる義務が発生するが、出頭率は76.1%となっている(平成28年度)。

これまで技能公募の予備自衛官が招集を受けて出頭したのは、東日本大震災(通訳)と、昨年のダイヤモンド・プリンセス号や帰国した日本人などが滞在する一次宿泊施設への新型コロナウイルス関連の災害派遣(医療・衛生、通訳)

私はこのままいくと、7月に東京地方協力本部にて予備自衛官補としての辞令書の交付を受け、8月末の教育訓練に10日間参加する予定。

(結局コロナによる緊急事態宣言で8月の教育訓練は中止となり、翌年1月に2週間連続で教育訓練を受け、晴れて予備2等陸曹に任官された)

採用試験の準備

4月に行われる予備自衛官補の技能の試験を受けると決めた後、海上自衛隊二佐の中学時代の同級生に連絡して、東京地方協力本部の募集案内所の所長を紹介してもらった。

広報官から携帯に連絡いただき、3月半ばに募集案内所を訪問。仕事辞めてからスーツ着るのは初めてで、なんだか懐かしい。自衛隊HPから予備自衛官補の志願票をダウンロードして記載して持参。志願票の職歴に海外勤務歴などを細かく書くよう丁寧に教えていただき、書き直したものを改めて広報官に郵送。そして採用試験での小論文の過去問をいただく。

試験は、4月17日土曜日に朝霞駐屯地で朝8時半から行われることが確定。

出願する技能のカテゴリーは語学。4月に行われる予備自衛官補の採用試験に間に合うためには、1月末の英検試験で「英検準1級もしくはこれと同等以上」の資格を取得する必要がある。英検試験の申し込み締め切りは12月上旬。

私は26年間英語を使う仕事をしてきたけれど、いわゆるストリートファイトしかしてこず、資格を何一つ持っていなかったので、今回予備自衛官補の採用試験を受けるために英検1級と準1級を受験した。別にTOEICなどでもよかったのだけれど、受験資格には英検準1級もしくはそれ以上と明記してあったのと、予備自衛官補という職業柄、日本の資格の方が何となくいい気がした。

4月の予備自衛官補の試験に間に合うためには、1月末の英検の試験に一発合格しないといけない。万が一1級に落ちた時に備え、準1級にも申し込んだ。このダブル受験のせいで、一次試験と二次試験の日は一日がかりとなり、週末二日が丸つぶれになってしまった。

失礼な言い方だが、これまで英検をちょっとバカにしていたところがあったが、1級は意外と難しい。例えば二次試験の面接は、面接会場で渡された紙に書かれたトピック5つの中から1つ選んで、1分で何を話すか考え、2分で自分の考えを述べよ、というもの。当たり前だが、指示も問題もすべて英語で書かれている。

本番で私が選んだトピックは、「現在の先進国では、国内でのテロのリスクと、海外からの攻撃のリスクと、どちらが高いと思われるか」というものだった。

日本語でも、1分で上記のようなトピックを選んで何を話すか考え、2分間でしっかり自分の言いたいことを理路整然と言うのは簡単ではない。それを英語で行い、その後ネイティブと日本人1人ずつの面接官から質疑応答を受ける。

さすがに米系の会社で部下の英語も含むコミュニケーション能力を評価する立場にもいたし、海外出張行って本国のエラい人や外国の顧客にプレゼンする機会もこれまでちゃんとこなしてきたのに、合格しなければ正直恥ずかしい。

自分の年齢と、53歳未満という技能語学の受験年齢制限を考えると、無駄にできる時間はない。そう思って英検1級一発合格を目指し、見事に成し遂げたが、合格してほっとしたのは言うまでもない。

私の語学のバックグラウンド

少し脱線するが、私の語学のバックグラウンドの話をする。

帰国子女でもなく、海外旅行に初めて行ったのも大学に入ってから。だがふとしたことで、新卒で米系の会社に入社。

入社してみると、会社のPCは英語のWindowsしかインストールされておらず、日本語を打つことすらできない。メールなど、会社の公式コミュニケーションは全て英語。そして外国人が一人でもいれば、全てのミーティングは英語。完全に駅前留学状態だ。

当時は、コンプライアンス意識なんてものはほぼなかったので、「使えない」新入社員、特に英語が理解できず話せない、「より使えない」新入社員は完全に奴隷扱い。

「お前一人オフィスでここに座っているだけで年間1000万円以上のコストがかかるのに、お前は何か会社に貢献しているのか?」と先輩に詰められるのは日常茶飯事。

まあ正論だが当時は当然辛かったし、今の若い人からしてみたら、単なるブラック企業にしか思えないに違いない。でも仕方ない。学生の間は「金払って教育というサービスを享受してきたお客様」だったのが、社会人になると立場が逆転して「金もらってサービスを提供する労働者」になるのだから。

だがしばらくしてゲームのルールが理解でき、奴隷から人間に昇格するには何をすればいいのか分かった。外資系企業のシステムは、年俸制の部分も含め、プロ野球のシステムとそっくりなのだ。

プロ野球で、自分のポジションを将来脅かすかもしれないルーキーがチームに入ってきたら、レギュラー選手がその若者に無条件で手取り足取りなんでも教えるか?

答えは確実にNo。

「こいつは将来チームに貢献するはずで、こいつを教え込むと将来自分のためにもなる」と思わせない限り、若者の足を引っ張る方が合理的なのだ。先輩の性格がいいとか悪いとかは全く関係なく、そう行動する方が経済的に合理的。

なぜならばポジションは有限で、それを確保できればそれなりの給料が保証されるが、ポジションを失えば全てを失う。そしてプレイヤーが一定の成績を残せなければ、どんなに親切に後輩を指導したところで、ポジションを失うからだ。若くて優秀で比較的給料が安い、つまり会社から見たらコスパのいい自分の将来のライバルを育てるのは、レギュラー張っている人でもリスクが高い。

ちなみに仕事は、個人の成績も大事だが、チームの成績が悪いと、自分のボーナスの大もととなるボーナスプールが小さくなる。アメフトやプロ野球同様、個々人の仕事の役割分担ははっきりしていて、自分の仕事をきっちりして個人成績を上げ、さらにその上でチームとして成績を残すことが求められていて、そうすると個人のリターンも大きくなるように制度設計されている。

だから自分の成績しか興味のないものも長期的にはふるい落とされるようになっているので、後輩を教えることが全く非合理的なわけではない。

これが理解できたので、ゲームのルールが分かった。

ルールその1: 自分の成績を上げるのに必死な余裕のない人にものを教わるのは難しい。

ルールその2: 優秀で余裕があり、将来チームを率いる人もしくは現在率いている人、つまり将来自分が成長しているかどうかに利害関係を持つ人に「こいつは仕込んだら役に立つかも」と思ってもらい、実際に「使える」ところを見せておかないと奴隷のままで終わる。

それが分かったので、先輩の朝食や弁当を買いに行かされても、「その分先輩に質問することが許されて、奴隷から早く卒業できる」と思えて苦にならなくなった。プライドばかり高いと、高い壁を自分の力だけで乗り越えなければならないのだ。

英語も早く身につけないと、いつまでたっても外人と話せない(=「使えない」奴隷のまま)ので、習うより慣れろ、でひたすら聞き、ひたすら書き、言いたいことが英語で言えずにフラストレーションがたまる中で、何とかコミュニケーションをとる努力をした。

アメリカの会社で最終決定権を持つアメリカ人とコミュニケーションできなければ、昇進のしようもない。

そう思って自分がccされているメールで「この言い回しは知らなかった/これいうと外国人はキレる」というものがあれば覚えておいたり、偉い人にメール送るときはこう書かないといけないのか、などひたすら学んだ。

Many thanks in advance(目下の人が使うとリスキー)とか、I know you are busy however your help would be highly appreciated(英語に敬語がないなどの嘘は信じてはいけない)などの表現は学校では教わらない。

幸いリスニングの方は、中学・高校生の頃から暇さえあれば当時流行っていた洋楽を聞きまくっていたので耳が慣れていて、比較的苦労は少なかった。

就職して4か月後に、ある取引を一人でまとめてきて50万ドル以上の収益を会社にもたらし、見事に奴隷から人間に昇格。その日から、周りからの態度がコロッと変わった。

その1年後に、ニューヨーク本社での9ヶ月間の研修に送りだされた。またその後も、一時的に本社勤務をするぐらいに英語が上達。まさにストリートファイトで勝ち残った。

30歳になる前にヘッドハントされ、欧州系の会社に初めて転職。その2年後に、別の米系の会社に改めて転職して約19年間勤務。好きとか嫌いとかいう余裕もなく、英語を仕事の道具として合計26年間使わざるを得ない立場にいた。

今はGoogle翻訳やDeepLなどがあるし、海外情報が日本語で訳されて入手できる機会が圧倒的に増えたが、20世紀にはそんなものはなかったので、少なくとも英語を読んで理解する能力は個人で身に着けるしかなく、それが出来ないと外資系の会社では生き延びることが出来なかったのだ。


その2に続きます。


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