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蒸溜所を訪問しないと買えない特別なボトル、「ハンドフィル」とは

はじめに

蒸溜所を訪問して、自分の好きなウイスキーがどのようにして作られているのかを見るのは、ウイスキー好きの人にとってこの上ない楽しみの一つです。それに加え一部の蒸留所では、「自分の手で樽から注いだ自分だけの1本」、ハンドフィルボトルを買うというお楽しみもあります。

つい一昨日までイギリスで蒸溜所巡りをしていたわたしが、ハンドフィルボトルについて詳しくまとめてみました。

蒸溜所にわざわざ足を運んでくれた人への敬意を示す特別なウイスキー

たいていの蒸溜所では、蒸溜所でしか買えないボトルが買える。それに加え、一部の蒸溜所ではハンドフィルボトルを買うことができる。

ハンドフィルとは、その蒸溜所で作られたウイスキーを、その場で樽から直接ウイスキーをボトルに注ぐこと。そのボトルに、自分の名前を書いたラベルを自分で貼り、買って帰るという経験ができる。蒸溜所訪問の醍醐味の一つだ。

グレンリヴェット蒸溜所のハンドフィルステーション、12年、15年、ノンエイジの3種類をハンドフィルすることができる

蒸留所限定ボトルやハンドフィルボトルのための樽は、通常蒸溜所長や製造責任者など立場がある人が、わざわざ蒸溜所に足を運んでくれた人への感謝を込めて、その蒸溜所のハウススタイルを反映している、とりわけ美味いカスクを選ぶ。

最近ウイスキー業界では、蒸溜所に訪問者を呼び寄せて、他ではできない体験をしてもらい、それがどんなに楽しい体験だったかをみやげ話として旅行後に家族や友人にしてもらうことで、自分たちのブランドを末永く愛してくれるファンを増やす、という戦略が流行っている。そのため、「自分だけのウイスキーを買って帰る」という特別な体験であるハンドフィルには力が入っている。

グレンリヴェット15年ハンドフィル、お値段70ポンド
「Bottled by You, by Hand」と書かれている

まあそんな偉そうなことを言わなくても、自分たちの作るウイスキーに自信がある作り手であれば、わざわざ遠くから自分の蒸溜所を見に来てくれた人には変なボトルは出せない、特別に美味しいボトルを飲んでもらいたい、と思うのが人情だろう。

ハンドフィルボトルが貴重な理由

ハンドフィルは、「これがうちのハウススタイルだ」という樽を真剣に選んでくる。そのため一度カスクから全て売り切ってしまうと、次のカスクを選ぶのに時間がかかることもあり、すぐにまたハンドフィルボトルが買えるようになるとは限らない。

さらに、転売を防ぐため蒸溜所訪問一度につき一人2本まで購入可能、などと制限がついていることが多い。特にディアジオ系の蒸溜所はそうだ。

だから、ハンドフィルのボトルは、「もともと密造酒であるウイスキー造りは不便で見つかりにくいところで行われていたので、わざわざそんなところにある蒸溜所まで出向かないと買えない」「蒸溜所まで足を運んだとしても必ずハンドフィルができるとは限らない」「ハンドフィルできても一人当たり2本までなどと制限がある場合もある」「蒸溜所がハンドフィル用のカスクを真剣に選んでいる」という意味で、上質で貴重なものが多い。

ダルウィニーのハンドフィルはかなり異色で、リチャードシェリーというこの蒸溜所のスタイルとはかなり違うスペックの実験的なものだった(これまで2回しかリチャードシェリーをボトリングしたことはなくその2回目だと言っていた)、予想外に美味い

そういうわけで、ハンドフィルボトルをバーのカウンターで見かけたり、バーテンダーに勧められることがあれば、せっかくの機会なので是非飲んでみてほしい。

ハンドフィルボトルの種類

普通の蒸溜所限定ボトルは、3000本から6000本ぐらいのアウトターンで複数の樽をバッテッドした上に加水されているケースが多い。

ハンドフィルは、複数の樽をバッテッドし、それを通常加水せずに再び樽に入れ、その樽からハンドフィルする形で提供する蒸溜所もあれば、シングルカスクで熟成していたまさにその樽からそのままボトルに注げる蒸溜所もある。

前者は、グレンリベットやグレンフィディックなど。

これらの蒸溜所のハンドフィルボトルのラベルには、「Batch 2021 / 001」、つまり2021年に複数の樽からバッテッドされた1つ目のバッチ、などと表記されているケースが多い。

カーデュはバッチ2021/001で11年熟成のファーストフィルアメリカンオークバーボンバレル、
試飲したらカーデュとは思えないぐらいしっかりした味わいだった
グレンフィディック15年、カスクストレングスのハンドフィルはバッテッド

後者は、グレンドロナックやオールドプルトニー、ロイヤルロッホナガーなど。

シングルカスク、つまりウイスキーが詰められて熟成されていたまさにその樽からボトリングされるので、ラベルには「2006年蒸溜14年熟成、カスクNo.381、54.9%」などと書かれる。

当たり前だが、ウイスキー好きのテンションがより上がるのは後者。シングルカスクからカスクストレングスのままでハンドフィルする方だ。

どちらも多くの場合、可愛らしいイラストや手書きのコメントが樽の横に添えられてあって、見ているだけでも楽しい。

クライヌリッシュのハンドフィルは蜂蜜の味がしますアピール

実際にどうやってハンドフィルするのか

ハンドフィルのやり方はいくつかある。

よくあるのが、樽の前にガラスのシリンダーが付いていて、樽につけられたコックを開くと自動的に700mlのウイスキーがシリンダーに流れ込み、そのシリンダーの蛇口をひねってボトルにウイスキーを詰める、というやり方。

グレンフィディック、グレンリヴェット、バルブレアなどに加え、ロイヤルロッホナガーやクライヌリッシュ、カーデュ、ダルウィニーなどのディアジオ系の蒸溜所がこのやり方だ。

イメージしにくいかもしれないので、下の動画を見てみてほしい。

グレンフィディック、シリンダーが700mlのウイスキーで満たされたところ
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コックを開いて樽から手前のシリンダーに700mlのウイスキーを流し込み、満タンになったシリンダーからボトルに移し替える

上の写真はバルブレア蒸溜所でのハンドフィル。シングルカスク、2006年蒸留でカスクストレングスだが49.2%まで度落ちしている。これ試飲したけどめちゃ美味い。

もっと原始的なのが、樽に蛇口がついていて、それをフラスコに700ml入れてからボトルに移したり、直接樽の蛇口からボトルに詰めてしまうやり方。

オールドプルトニーはこのやり方。客が自分で樽から直接フラスコの700mlのメモリに達するまでウイスキーを注ぐ。700mlを超えてしまった分は、もう一つのフラスコに移し、700mlちょうどをボトルに注ぐ。

ちなみにハンドフィルで規定量の700mlより多くウイスキーを注ぐと得した気分になるかもしれない。だが量が多いと、飛行機の中で気圧が下がってボトルの中の空気が膨張し、栓が外れてしまいやすくなるので、気を付けた方がいい。同じ理由で、しっかり栓を押し込むことも大切だ。

左に写っているフラスコで自分で700ml量るスタイルのプルトニー

グレンドロナックは客にはハンドフィルをさせず、蒸溜所のスタッフが目分量でボトルに700ml注ぐ。

グレンドロナックのハンドフィルはそもそも人気な上、1本1本注文を受けてから目分量で注ぐこともあり、買うのに結構な時間がかかる。私の前にハンドフィルボトルを購入した若いアメリカ人二人連れは12本まとめて購入していたので、私は小一時間待たされた。

手作業でカスクから直接ボトルにスタッフが注いでくれるやり方のグレンドロナック

貯蔵庫に行ってそこにある樽に大きなスポイトのようなバリンチを突っ込んでボトリングできれば、本当は一番ロマンがあるのだが。

ボトルにウイスキーを詰めた後、手でコルクのキャップを押し込むところがほとんどだが、グレンフィディックなど一部の蒸溜所では、栓を押し込むためのてこの原理を使った栓抜きの逆のような機械を使う場合もある。

また栓をした後、自分でボトルと栓にシールを貼って封をするケースが多いが、オールドプルトニーでは封蝋をさせてくれた。メイカーズマークの赤い封蝋をみたことがあると思うが、あれを自分でやらせてくれる。

ボトルの栓を下にして熱せられて溶けた黒いワックスの中に浸し、ボトルを斜め下に傾けたまま回転させ、満遍なくワックスが栓の周りに行き渡るようにし、乾燥して温度が冷えたら出来上がり。

プルトニーでキャップを黒いワックスに浸して封蝋しているところ

バルブレアでは熱でシュリンクするフィルムをドライヤーで温めて封をしていた。

ウイスキーを詰めて、栓をするところまで終われば、次はラベル貼りだ。

イギリスの酒税法上、ウイスキーはボトリングしたところで課税される。日本でもそうだ。エンジェルシェアによって樽の中のウイスキーの量は時間の経過とともに減っていき、アルコール度数も下がってしまう。だから樽詰めした時に課税するのではなく、瓶詰めしたときにアルコール度数と量に応じて課税されるようになっている。

そのためハンドフィルボトルが売れるたびに、台帳に日付、カスクナンバー、アルコール度数、購入者の名前、ボトルに貼られるタックスシールの番号を控えて管理する必要がある。それらを自分で記入し、同じ情報をウイスキーのラベルに記入し、自分でボトルに貼り付ける。

この緑の台帳に情報が書かれ、それと同様の内容をラベルに手書きし、白いフェルトを貼った台を使ってラベルを貼り付ける

それが終われば、自分だけの一本が出来上がり。

ボトルは自分のものなので、ラベルを斜めに貼ろうが上下逆さまに貼ろうが、何も言われることはない。自分で飲むために買って、誰かに売るわけではないので、シャレでいくつかのボトルは上下反対にラベルを貼った。

ちゃんと正しい向きでラベルを貼っているボトルがほとんどなので、念のため。
そちらには思いっきり本名を書いているので、変なやつだけブログに上げています

どこの蒸溜所に行けばハンドフィルが買えるか

かつてグレンオードのハンドフィルボトルをとあるバーテンダーからいただいたことがあって、それがめちゃくちゃ美味しかった(KさんのKは子供のK(笑))。今回もそれを期待して、グレンフィディック、バルブレアと訪問した後にグレンオードまで行った。だが蒸溜所が改装中というのもあってか、残念ながらハンドフィルは売っていなかった。

スコットランドの西のはずれにあるタリスカーも、ハンドフィルを買えるかと期待してインヴァネスから3時間以上かけてドライブして行ってみたのだが、こちらも改装中で残念ながら売っておらず。

スコットランドの北のはずれにあるプルトニーでも、私の訪問の翌日に知り合いのバーテンダーの方がハンドフィルをしようとしたら、前の客が2本買って売り切れてしまったという。私が買った時も「もうそろそろなくなるかな」と言っていたのだが、わざわざ遠くまでハンドフィルを買いに行って、売り切れていると本当にショックだ。

ハンドフィルボトルを売っているかいないかは、行ってみないとわからない、というのが正直なところ。

心配なら電話かメールで蒸溜所に問い合わせるのが一番だろう。Do you sell hand-filled bottles?と聞いてみるといいかもしれない。

ハンドフィルのカスクの写真がGoogle Mapにアップロードされているケースもあるので、写真を「最新」でソートしてみてみるのも参考になるかもしれない。

また、みんなお世話になっている国際的ウイスキー転売屋(笑)のWhisky International Onlineのウェブサイトでハンドフィルボトルが売られている蒸溜所に行けば、高い確率で買うことが出来るはずだ。

経験上、以下の蒸溜所はハンドフィルをやっている可能性が高い。

グレンドロナック(スタッフがその場で瓶詰め)
グレンギリー(すでに瓶詰めしてあるもの)
グレンリヴェット
グレンフィディック
グレンアラヒー(すでに瓶詰めしてあるもの)
カーデュ
クライネリッシュ
ロイヤルロッホナガー
ダルウィニー
アベラワー
ブレアアソール
バルブレア
オールドプルトニー
ウルフバーン
グレンゴイン

以上、スコットランドでの蒸溜所巡り直後の最新情報をお届けしました!

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スプリングバンク蒸溜所の最新状況をまとめた記事はこちらになります。



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