October

 学校の先生をしています。

 10月である。もうすでに半分を過ぎた10月である。
 ようやく肌寒さを思い出してきた風景が、いつも自分の足りない部分を思い出させる。
 今年も、この夏に何か失っていて、この頃になってようやくそれが、そのことが分かってくる。それが10月。
 何か得て、何か失って、生活が続いていく。

 Eric Whitacreという作曲家がいる。
 その人が作った、”October”という題名の曲がある。パートが多く分かれ、まとまり、音像が巨大な塊になったあと、ゆっくり静かに終わっていく楽曲である。
 私が高校生の時、とある音楽指導の先生に、この曲の終わり方について聞いたことがある。「小説で言うと『外からは雨が降ってきて…』みたいな終わり方」と、確か仰っていた。
 そう。夏に落ちてきて、何かを洗い落していく雨が降る。そして、そのことが何なのか考え始める季節が10月。

 今年、私は何を手放したのだろうか。何を諦めたろうか。
 涼やかに別れを告げて、今年を立ち去る準備を始める。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?