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ジェフリー・ダーマーを知って

世界の歴史には数々の残虐行為が記録されていますが、あなたは #ジェフリー・ダーマー という人物をご存知でしょうか。
彼は11年間(うち9年間は殺人を犯さなかったので、実質2年間)にわたって17人の青少年を殺害し、死姦し、食した白人男性で、ミルウォーキーの食人鬼との異名を持つアメリカ合衆国の連続殺人犯です。

ミルウォーキー:アメリカ合衆国のウィスコンシン州にある、同州最大の都市。

私はこの二日間で彼の生い立ちを再現された、とある10話のドラマを観終わったばかりです。
衝撃と、悲しみと、閃きに似た何かを得ました。
そして何より、共感に近い感情を強く抱いた自分にすこじゾッとしています。

このミルウォーキーの食人鬼についての記事を少し漁るだけでお分かり頂けると思うのですが、その大抵が彼の行動を非難し、被害者や遺族に深い悲しみを傾ける内容ばかりで、私がこれから書く内容のようなものは見当たりません。
当然私もこの事件を知った多くの方と同様、17人の被害者やその遺族、関係者に対し同情の念を抱きますが、ジェフリーに対しての嫌悪感だけが湧かないのです。
認めたくないのですが、理解できてしまうのです。

私はドラマを観終わると、食らいつくように彼の情報をネットサーチしました。
それは、彼を知りたいというより、自分を知りたい気持ちと呼んだ方が適切かもしれません。
とは言っても、私は何も実際に殺人を犯したわけではないですし、死体によって異臭悪臭の充満する空間に居続けるなど到底不可能です。
しかしそういう細かい違いを抜きにすると、非常に近しい感覚を持っていると自覚します。

例えばまず、私も”ゲイセクシャル”です。
そして特に有色人種に対する美術的感動が強く、性対象です。
ジェフリーの物語を見るあたり、彼も私と同じく有色人種が好みで、かつ有色人種を決して差別していませんでした。
たまたま時代が人種差別の真っ只中にあって、彼の性的趣向を歪んだ形でフォローするよう整っていただけなのです。
白人警官の職務怠慢、スラム街、それらの条件がジェフリーの事件に人種差別のフィルターを加えたのではないかと私は考えます。

次に、私も軽い”splanchnophilia(スプランクノフィリア/スプラノフィリア)”です。
splanchnophiliaとは、内臓性愛とも呼ばれ、血肉や臓器に対して興奮を覚える異常性癖の一種で、そのキラキラした感じや動きに惹かれるのが特徴だと言われています。
作中で逮捕後のジェフリー・ダーマーが「そういうのはsplanchnophiliaと言うんだよ」とカウンセラーに教えられるシーンを見て、私は早速これについて調べてみました。
しかし日本語の検索結果では何一つヒットせず、設定から検索結果に英語を追加してはじめて情報が出てきたほど、これは非常に稀な異常性癖なのかもしれません。
あるいは日本の情報網が弱い、または遅れているのでしょう。
とにかく私はこのsplanchnophiliaであり、スーパーなどで状態の良い精肉などを見ると目が釘付けになり、この感情はおかしいんだと抑え込んできました。
今まで誰にも言えなかった、自分の中だけに閉じ込めておいた特殊な感覚に名前があると知って、私は嬉しく思ったのです。

三つ目の共通点は歪な家庭環境、または幼少期における両親からの愛情不足です。
ジェフリーの母は彼を孕っていながら毎日20錠以上の安定剤や睡眠薬、モルフィネなどを常用しており、出産後は精神状態が悪化し、かなりの癇癪持ちだったそうです。
父は自分のやりたい事、主に研究に没頭し、この2人がもたらす家庭環境は端的に言えば”育児放棄”だったそうです。
毎日毎日怒鳴り合いの大喧嘩を繰り返す両親のそばで、まともな愛情を注がれなかったジェフリーは自分の殻に閉じこもる性質を形成しました。
私の場合、根明だった部分が異なる点ではあるものの、母から虐待を受けて育ち、3人の父を持ち、ほとんど記憶にない産みの父は現在も刑務所で暮らしています。
こういった劣悪な家庭環境は、やはり子供の発育に何かしらの歪みをもたらすのかもしれません。
そして私もイジメを受け、学校では孤立していました。

では、これらの特異な共通点を持ちながらどうして私はジェフリー・ダーマーのような人物にならなかったのでしょう。
いくつか大きな違いが見えてきました。

まず第一に、私はジェフリーと違って自己愛が強いのです。
自分自身に性愛を抱いたり興奮したりするナルシシズムとは違い、自分はこういう人間でありたいという理想が飛び抜けて高かったのです。
誰しもが根暗な側面を持っていますが、私は自分のそれが大嫌いで、根暗な人間でいたら不幸になるような気がしていました。
そして「あいつみたいになりたい」と憧れを抱く対象がいて、自分をそこに近づけるための努力を惜しまなかったのです。
同時に「絶対あいつみたいにはなりたくない」と思う対象が非常に多くいて、そうならない為の努力も絶やしませんでした。
あぁ、この「なりたくない」という感情の方が強かったかもしれません。
悲観的に捉えれば、私のこれは現実逃避の手段であり、ありのままの自分を受け入れられない弱さと言えるでしょう。
逆に楽観的に捉えると、私はラッキーな事に憧れを抱く同性を見つけることができ、自分の異常性癖に気づくより先に、他に力を注ぐ対象を見出すことができたのです。
ジェフリー・ダーマーの物語には彼自身が自分の事をどう捉えているかについてあまり細かく描かれておらず、あの描写が真実だとしたら、私にはジェフリーが「変わった自分が別に嫌いじゃなかった」と受け取れます。
その感覚が幸か不幸か、疑問なところです。

次に、私はジェフリーとは違う時代や国で育ちました。
ジェフリーが連続殺人を行ったのは1978年から1991年のオハイオ州やウィスコンシン州で、私は1989年に日本で生まれました。
これは非常に大きな違いです。
どんな素質を持っていようと、人間は、生き物は環境で大きく変化します。
ジェフリーの生きた環境は、彼の特異点を最大限に伸ばし、活用するのに適していたのです。
人種差別が蔓延り、あらゆる隠し事が容易く、偏見の強い環境で生きたジェフリー。
偏見がなかったとは到底言えないものの、人口密度や携帯電話や優秀なメディアによって隠し事は難しく、人種差別などほとんどない時代で生きた私。
この違いが非常に重要であると考えるのは、当事者であるジェフリーだけでなく、その周囲の人間の動きを構築する基本的な要因であると言えるからです。
結果的にジェフリーは、当然のようにあった人種差別の空気感と、露呈しにくい白人警官の職務怠慢、ゲイシェクシャルに対しての偏見、そして殺した相手が全く報道されないメディアによって羽を伸ばせていたのです。

さて、ここまで読み進めたあなたは、一体どう感じているのでしょうか。

全く同じ環境だったとしても絶対に自分はそんな風にならない。
環境ではなく個性の問題だ。
やっぱりジェフリーは悪魔だ。

そうかもしれません。
しかしそうではないかもしれません。

私たちは日頃、牛や豚や鳥を食べ、モツと親しんで内臓を食べます。
家畜や動物といったフィルターによって「仕方がない」「それは別」と感じている、あるいはそう思っていたいだけなのではないでしょうか。
生きるために動物を殺し食べることを選んだ乱暴者によって始まり、いつの間にか当たり前になってしまっただけの事柄にように思います、人を食べたジェフリーと、根本的には何も変わらないようにさえ思えてきます。
この違いを「教養」や「道徳」という言葉で片付けることは簡単ですが、私の考えはそこに留まりません。

私たちゲイセクシャルは遠いその昔、悪魔のような存在として、神を冒涜している存在として認識されていました。
異性愛だけが正常であると疑わず、それ以外は「おかしい」と思われていた時代がありました。
そして現在はクィアと呼ばれるカテゴリーさえ確立し、あらゆる性癖が次々と認められてきています。
ノンケ、ストレート呼ばれるヘテロもこれの例外ではありません。
ジェフリー・ダーマーや私のようなsplanchnophilia/内臓性愛を含む異常性癖には、次にようなものが代表的に挙げられます。

Nymphophilia(ニンフォフィリア)=小児性愛、主に4-11歳頃の児童対象。
Hebephilia(ヘベフィリア)=少年性愛、成人女性が7-22歳の少年や青年を対象とすること、ショタコン。
Crurophilia(クロロフィリア)=脚性愛、つまり脚フェチ
Mammophilia(マモフィリア)=巨乳性愛、巨乳好き
Phallophilia(ファロフィリア)=巨根性愛、大きな男性器だけでなく、持続時間や持続回数などの性機能の高い男性器対象。
Olfactophilia(オルファクトフィリア)=体臭性愛、汗や香水などを含む体臭が対象。
Normophilia(ノーモフィリア)=普通への偏愛、標準・規範・正常とされる状態への病的愛好。
Troilism(トロイリズム)=三者性愛、夫婦、恋人関係に第三者が加わる状況対象。
Ochlophilia(オクロフィリア)=群衆性愛、群衆や大人数が対象、いわゆる乱交好き。
Timophilia(ティモフィリア)=財産性愛。
Hybristophilia(ハイブリストフィリア)=犯罪者性愛、犯罪者などが対象、悪い人に魅力を感じる。
Pecattiphilia(ペックアティフィリア)=罪科性愛、犯罪や違法行為に興奮する。
Felching(フェルチング)=異種挿入性愛、玩具などで生殖器を責める行為に興奮する。

如何でしょうか、密かに該当するものがあったでしょうか。
これらは日本語に翻訳されている内容だけで150種類以上にも及ぶ異常性癖のほんの一部でしかありません。
人は誰しもが異常性癖を持っていると言われており、それは1人に一つ以上だそうです。
そしてここに含まれるsplanchnophilia(スプランクノフィリア)=内臓性愛とNecrophilia(ネクロフィリア)=死体性愛という組み合わせを持っていたのが、ジェフリー・ダーマーだったのです。

この異常性癖の中には同性愛者を指すゲイ、異性にしか興奮しないノンケなども含まれ、それらは時代と共に受け入れられてきました。
ジェフリーの性癖はどうなのでしょう。
彼は「抑えられなかった」と話します。
彼は自分の性癖に気付いてから9年間、必死に殺人を我慢したそうです。
しかしやがて爆発してしまったのです。

ジェフリーの犠牲となった17人の青少年は、かわいそうでなりません。
その遺族の心中を思えば、胸が痛みます。
ただ私は、その点についてばっかりが論じられる時代はもう過ぎたのではないか、そう感じるのです。

あなたは今、どう感じますか。

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