短針を掴んだ
アナログ時計の針を掴んで、ぐるぐるとやった。
時間の流れに焦りを感じて時計だけでも時間を進めた。
私が焦っても実際のところ何も起こらないのですぐに虚しくなった。
まだ老いないのが嫌だ。
早くしょうもない命にならなくてはいけない、死んでも誰も見向きもしない年齢にならなくてはいけない。
具体的に何歳だとかそういうことではなく、とにかく若さで計られる価値を失いたい。
文学や音楽の界隈において「作者の死」は作品に対するとても大きな付加価値だ。
若くして死んだという事実はその人を天才にしたり神様にしたりする。
私はそれを望まないが、その特大のバフがない限り私は永遠に天才にはなれない。
それは私の生への執着と拮抗するほどに有力な選択肢として人生にあらわれる。
それが嫌だから、私は老いなければならない。
自殺をしても美しくない年齢にならなくてはいけない、早く。
そんなことをぶつぶつ言いながら針を回していたら折れてしまった。
時間が止まる錯覚を覚え瞬間的な絶望を感じひどく動揺したから、家にある炭酸飲料を混ぜて変な味になったジュースを飲んだ。
こんなことで薄れる絶望がちょっとだけ可愛らしいやつに思えた。
毎日そうやって少し泣いてやり過ごすしかない。老いるまでそうするしかない。
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