【夢日記】田舎のムカデ

黒い半袖のTシャツ。グレーのスウェット。田舎の若者ファッションのいちテンプレートというか、ファッションというにはあまりにもお粗末なそれを身につけ、僕は夢の中の見たことのある道路を歩いていた。コンクリート舗装されたものの、年季の入った、自転車同士がすれ違えないような狭い道路。両脇を1メートルくらいの虫取り網のようなもので区切ってある、いわゆる農道のような道。実際のところその虫取り網の向こうには何も植っていない畑が見え、その先には数軒の家がある。
なんの場所かと問われても答えられない、なんでもない田舎の風景だった。そしてこの田舎は、紛れもなく僕の地元であった。

僕は農道を歩いて、その先のお店に向かっていた。時刻はおそらく昼過ぎ、15時くらいだろうか。30代のスウェット姿の男が、ぼさぼさの風体で出歩くには明る過ぎる時間帯に思えた。
お店というのは、なんの変哲もないドラッグストアで、歯ブラシや髭剃りといったアメニティを買いに出ていたのである。そしてどうやら、そのドラッグストアは高校生の頃に通ったゲームセンターの跡地に出来ているようだった。

買い物を済ませて店を出ると、そこにはよく見知った顔の女が2人いた。I川とM山だ。数年ぶりに会う2人だが、そこは子ども時代を共に過ごした間柄、どちらもすぐに分かった。
久しぶり、など挨拶をしつつ、地元に帰ってきてるんだね、と返ってきてお店の前で話を続けていると、続々と昔の友人が集まってきた。T橋やI山、U山たち、今度は男友達たちだった。それも、とても親交が深かったわけではない人たち。いまどこで何をしているか、わからない人たち。

なぜかその男たちに非常に歓迎された。そして彼らは大人と思えないくらいのカラフルな髪の色、まるで10代の頃のままのようだった。(おそらくそれしか知らない) 特に、同じ高校に進学したスズキに至っては、野球部時代の丸坊主のまま、僕より少し高い背丈によく焼けた肌で、健康そのものの出立ちで話しかけてくれた。

いつの間にか大所帯になった僕らは、来た道を引き返しながら積もる話をしていた。この農道に収まるサイズにはなっていないので、相当な人数で縦に延びていたことだろう。

みんなは今もこの地元に住んでいるのか、特にスズキについては都心に出たという設定があり僕と同じじゃないかと考えているらしく、「スズキ、お前地元帰ってきたんだって?」どうやら夢の中では地元に帰っていることを知ってるらしい。
焼けた肌に白い歯を光らせながら、「そうなんだよ、仕事も辞めてさ。やっぱり友達もいるし、空気も綺麗だから」とスズキは僕の後ろからついてきながら喋っている。そうなんだ。言うほど空気は綺麗なんだろうか。そりゃあ都心部よりは綺麗だろうが、まるで山奥のような言い方をする。ここではない別の田舎のことを言ってやいないか? 曖昧になりながらもああ、そうなんだ、わかるよとテキトーな相槌を打っていたら、農道を歩き終わって坂道に出た。両脇は使われていない駐車場、車はあまり通らなさそうで、所々の区画は畑になっている。

「お前も仕事辞めて戻ってきたら?」
スズキにそう切り出された頃だった。まあ、うーん確かにフリーで食っていくかーと思ってもない相槌をまた挟むやいなや、正面視界の端から、

ガリッ

と軽快な音が響いた。視線を向けるとそこには大きな蜘蛛の巣と、信玄餅の容器のような眉、その中からガリ、ゴリという音が響いている。同時に黒茶色の液体がその眉から弾け出していた。その映像を見て、この音が咀嚼音であることが理解できた。
「うわ、ゴキブリだ!」
スズキが大きな声を上げた。どうやら親グモが子グモに例の虫を与えているらしいと推測ができた。幸いにも、親グモの姿も子グモの姿も例の虫も目にしないで済んだが、いや、であれば大分オールスターだな、蜘蛛が益虫というのは本当だよななどと感心しているが、僕の背後にいた旧友たちは「いやー苦手なんだよな」と口々にしながら進行方向を変えていた。僕だって得意ではない。彼らに付いていく形で、右脇の道路に進路を変えた。

束の間、その先は節足動物の宝庫だった。道路上所狭しとムカデが湧いており、こればっかりはしっかりと見てしまった。うわ、こっちも負けず劣らず苦手だけどな、毒もあるし。見た目も、色とりどりで非常に鮮やかだった。サファイヤブルーのもの、エメラルドグリーンのもの。確かに宝庫、宝石箱の色彩だ。気持ち悪いが。
「こいつら退けていこう」と旧友たちはサンダルの足なり手なりでムカデをどけていく。毛虫もいるんじゃないか。そのやつらを勇敢にどけていく。さすが今も田舎に住む人たちだなあなどと思った。住んでいた当時も僕にはそれはできなかったけどなあ。

わさわさしながらもどかされた虫はわずかに道を空けていて、縫うように小走りで抜けていく。正直だいぶ不快感が強く、久しく会った友人に引っ張られるように歩いて行くのが精一杯であった。

が、その先。事態は更に悪化した。サファイヤブルー、鮮やかな青のムカデ。下半身は蠍なのではないかと言う針を持つそれが、こちらを威嚇している。他の道を探すも、どの道の先にも点々といる虫、虫、虫…
僕はもう限界だった。

子ども時代を少し精算するようにいい関係を築こうと努力していたがそれも限界だ、もう無理だ。だがそれはお前らに対してどうとかではない、虫が無理なんだ。足をなるべく地面につけないようにつま先走りで脱兎の如く逃げ出したところで、都内のマンションの一室で目が覚めた。


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夢占い。

・大量の虫
心身の疲弊。じゃなきゃ昼間に寝ないよ

・ムカデ
不幸の予兆 退治してくれたが逃げ出したのはどういう意味か。怪我や病気

・例の虫
コンプレックス。夢の内容そのものがコンプレックスな気もするが

・毛虫
疲労or変身願望

・明るい青の虫
味方の登場

総じて、いま現在非常に疲れており、何かしらの心身のトラブルの予兆なのかな。
正解やいかに。

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