株価と指標
前回までいろいろ数字をいじくってみたのだが、株価データや財務指標のほかに、業界横断的な指標や統計情報というのも大事である。
株価のレンジを読むのに、ヒストリカルデータをいじくることは有益だろう。ある程度数学的な素養があった方がよいことも確かである。ただ、時間経過に比例して不確実性は増大していき、レンジを定めるのが難しくなる。これはウィーナー過程の分散が時間増分に等しいことをイメージしてもらえればよい。つまり、短期的レンジはある程度想像がつくものの、長期では可能性が多すぎてわからん、ということだ。
そのため、株価の先行きや安定性を読むには何らかの予測が必要になる。その際にインプットすべき情報は必ずしも先行指標があるわけではなく、その会社が置かれた経営環境や何らかの定性情報から想像せざるを得ないことがある。例えばインフラ業種であれば、ドリフト項は低調であるものの、ボラティリティも低い、という想像ができるかもしれない(もちろん何らかのイノベーション、パラダイムシフトの可能性は否定できないが、それを組み込むかどうかも数字では判断できない)。
結局、有価証券報告書を隅から隅までよく読み込むとか、業界動向をしっかりリサーチするということは欠かせないわけだ。というか実務では資本コストの計算よりもこっちの方がよっぽど使われることが多いだろう。資本コストは、あればくっつけるくらいの付随情報だと思う。
例としてまたJALを考えてみる。
連結の経営指標をみると、2021年は営業収益48百億と前年比約1兆減となっている。とにかくキャッシュフローが流出しており、それを財務で止血しているという状況である。
https://www.jal.com/ja/investor/library/group.html
日本航空グループは関連会社も含めると100社超であり、連結子会社だけでも50社を超える。連結従業員数は3万6千人であり、ちょっとした市町村の規模である。
コロナの影響で2020年度の有償旅客数は国際線で前年比4%、国内線で前年比33%とトンでもない落ち込みである。特に客単価の高い国際線の落ちは手痛いどころの話ではないだろう。
https://www.jal.com/ja/investor/highlight/biz_data.html
経営環境がものすごい逆風であることは想像通りである。
では足元の回復はどうだろう。
おそらく最も重要な数値は旅客数であり、その中でも国内/国際、一般/ビジネス/ハイクラス、のような分類があると想像される。加えて、事業としては貨物やホテル、環境としてはエネルギー価格なども影響する。すべて把握するのは骨が折れるので、とりあえず国内外の旅客動向を考えてみる。
概して統計情報というのは1周回って後からしか見られないものが多い。しかし個別企業で見ると重要なKPIは早めに出していることが多く、JALもマンスリーレポートを出しており、それが割と早い。
https://press.jal.co.jp/ja/result/
2021年と2019年の旅客数(人)を比べてみると、国際線は10分の1、国内線は3分の1といったところだ。ただ10月の国内線は半分くらいまで戻ってきている。ANAも似たような状況で、航空輸送統計調査を確認しても同じような内容だ。
今後長い目で見れば旅客数は増えるだろう。足元の感染状況から見て、一時期に比べれば安心して旅行へ行くことができそうだ。旅行需要も溜まっているだろうし、飲食店が解禁され次は旅行産業をテコ入れすべく地域限定も含めたGotoが始まりつつある。原油高の懸念もあるが、総じて旅客数という指標で見れば、ダウンサイドよりもアップサイドのシナリオを考えたい。
一方で、コロナが始まる前の2020年2月頭くらいも実は同じように考えていた。新型のウイルスが流行っているが、やや下方修正の可能性あり、くらいである。つまりコロナショックというものは予見できなかった。
同じことはオミクロン株にも言える。他国では先んじてロックダウンに準ずる措置が始まりつつあり、日本国内でも必ず影響はある。その場合の落ち込みが一時的なものになるのか、それなりに時間がかかるのかはわからない。身も蓋も無いがどうなるかはよくわからんということだ。
オミクロンはひとまず置いておくとして、もし国内旅客数が回復したとして株価が上がるのかを考えてみる。
まず現在の株価は、足元の赤字に将来回復を見込んだ上での株価だと考えるべきだ。そもそもEPSがプラスであることがプライシングの絶対条件とも言え、今は将来予測により青田買いしている状況とも考えられる。もちろん赤字が続いて株券が紙切れとなるリスクを背負っての買いである。(※足元はEBITDAが黒字回復したようです。)
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2021-12-10/R3VZPXT1UM0W01
平均回帰的に過去の株価に向かって上昇するともみなせるだろうし、想像以上に回復が緩やかで失望売りとなる可能性もある。いずれにせよ、旅客数という指標はなんとなく予測できそうだが、それで投資判断するかは個人の裁量にゆだねられる。
というかどんな指標を持ってきたとしても、将来は不確実であり、結果が未観測の時点で正解はない。最終的には、様々なシナリオ、リスクの中で、それらしいシナリオにえいやっとベットするしかないように思える。
もちろんこれは「現物株の買い」という側面のみの話であり、オプション等を組み合わせたより高度な手法においてはこの限りではなかろう。
最後にコロナ後の先行ケースとしてアメリカの旅客を見てみる。
米国運輸統計局で国内/国際線の航空乗客数を確認すると、2021年7月にかけて回復しており、その後60百万人台で横ばいとなっている。コロナ前でもだいたい70百万人前後で推移していたことを考えるとかなり回復していたと言える(ただ足元は減っているはずである)。日本が国内線で半分~6割くらいであることを考えても非常に多い。一方株価を見てみると、サウスウエストは一旦コロナ前まで全戻ししたが足元では下がっており、デルタも半値くらい、その他はまだまだといったところだろうか。
こういったことをいろいろ考えたとしても、最善というのは出てこない。そもそも特定銘柄を微に入り細にわたって検討することがポートフォリオ最適化に寄与するのか。それは自身の戦略やアロケーション次第であるが、悩みは深まるばかりである。
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