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マルチファクターモデルによる推計(のさわり)

 自己資本を推計する方法のひとつにマルチファクターモデルによる推計がある。
 マルチファクターモデルといえばFama Frenchの3ファクターモデルが代表的である。ほかにもCarhartの4ファクターモデルもあるし、Fama Frenchの5ファクターモデルもある。マーケットポートフォリオだけに回帰するシンプルなCAPMと違って、いろいろ要素が入っており説明力が上がるということである。

 CAPMは個別銘柄リターンをマーケットポートフォリオ(あらゆるリスク資産)に回帰する。つまり個別銘柄はマーケットポートフォリオに対する感応度だけで評価できるという建付けだ。これはもちろん様々な前提条件を付した環境下での仮定である。
 3ファクターモデルは、それをもうちょっと現実的にしようじゃないかというモデルである。具体的には、マーケットのリターンに加え、小型株プレミアム、バリュー株プレミアムを組み込んでいる。小型株は時価総額を、バリュー株は時価簿価比率を基準に生成したポートフォリオのリターンである。なぜこれでリターンが説明できるのかというと、そういう「アノマリー」があるからである。つまり必ずしも理論的な関係ではなく(もちろん理論仮説はあるが)、経験則に近いものなのだ。
 もちろんこうしたファクターの選び方には賛否あり、また日本で同じファクターモデルが適切なのかという議論もある。ただしやはり正解がわからない以上、この議論にも決着は見られない。要素をたくさん追加すればいいわけではないし、ピンポイントでクリティカルなものを見つけることも相当難しい。つまるところ、過去データにも直感にも合うようなモデルを作るのは難しく、そういった意味では3ファクター(+モメンタムも)はよくできたモデルなのだ。

 さて、マルチファクターモデル全般に言えることだが、やることが決まっていて、データ取得等の環境が整っていれば実装はそこまで大変ではない。
ここで「決まっていて」というのがミソで、どこに目を瞑るかによって難易度はいかようにもなる。
 モデルの選択にあっては細かい論点が多量にあるため、基本的には複数モデルでやって結果を並べてみる、ということが一般的だろう。結果は出たけど本当にそのファクターが有効なのか、というそもそも論的な検証をするのであればさらに奥が深い。

 推計にあたってざっくりしたステップだけ示しておく。
①株のリターンを用意
②リスクフリーレートを用意
③マーケットポートフォリオとそのリターンを用意
④マーケットポートフォリオを分割して各ポートフォリオのリターンを計算
⑤各ポートフォリオリターンから各ファクターの数値を計算
⑥ファクタープレミアムを計算
⇒①~⑥で回帰係数算出、算出した係数と⑥で資本コスト計算

 これだけなら多少環境が整っていれば用意できるデータだろう。ただし前述のとおり、対象ユニバースの選定、ポートフォリオのリバランス、推計期間、決算期の取り扱い、ファクタープレミアムの計算方法etcといった様々な決めは必要になる。
 上記ステップの考え方は太田 他(2012)に従っているので、具体的な部分はそちらが参考になるだろう。

(なお、手元で①をyahoo financeから、③~⑥をFrench教授のData Libraryからいただいて超簡易的にやってみた。結果はもちろん箸にも棒にも掛からぬやつである。リスクフリーレートはT-bill、その他ファクターデータもドル建てなので当然の帰結だろう。まあ計算のガワをやってみただけということで自己満足。。)

 今回はベタベタに嚙み砕いて書いた内容だったら、CAPMとマルチファクターをさらっと繋いでしまった。しかし本来であればしっかりAPTの基礎を踏んでいくべきもので、数式も避けては通れない。でも数式は書くのがめんどくさい。なのでいつかやる気がでたらまとめよう。

 最後に、リスクファクターの評価方法として、ファーママクベス回帰やGMMがよく用いられる。ここら辺の話もまた別にしようと思う。

参考
キース・カットバートソン、 ダーク・ニッチェ[2013]「ファイナンスの基礎理論―株式・債券・外国為替 」慶應義塾大学出版会(吉野直行 菅原周一 上木原さおり 訳)
太田 浩司 斉藤 哲朗 吉野 貴晶 川井 文哉[2012] 「CAPM, Fama-French3 ファクターモデル, Carhart4ファクターモデルによる資本コストの推定方法につ
いて」 『関西大学商学論集』57(2) p1-24
https://mba.tuck.dartmouth.edu/pages/faculty/ken.french/data_library.html
https://finance.yahoo.com/

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