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マンチェスター・ユナイテッドの20-21シーズン前半戦を振り返りと後半戦の展望

プレミアリーグは毎年恒例の年末年始の過密日程に入っております。リーグ戦の消化はまだ半分に達していない16試合ですが、年も変わったことですのでここで前半戦の戦いを振り返って、なおかつ後半戦21年の戦いも簡単に展望したいと思います。

21年最初のゲームはヴィラ相手に勝ち切りました。

■シーズン前の補強

戦いを振り返る前にシーズン前の補強も振り返ってみたいと思います。

昨シーズンの終了後に上記レビューを書いた際に私は

①マグワイアの相棒となるCB

②マティッチの後釜

③ヨーロッパコンペティションで通用するアタッカー

④それ以外(最終ラインの層の薄さを特記)

の4点を補強ポイントだと記しました。それを踏まえて補強を見てみると

IN

ドニー・ファン・デ・ベーク(アヤックス 3900万ポンド)

アレックス・テレス(ポルト 1500万ポンド)

エディソン・カバーニ(パリ フリートランスファー)

ディーン・ヘンダーソン(シェフィールド・ユナイテッド ローンバック)

OUT

クリス・スモーリング(ローマ 1500万ポンド)

主要どころだけ抜き出しました。ファン・デ・ベークは②、テレスは④、カバーニは③に当てはまりそうです。

ファン・デ・ベークはマティッチとはタイプが異なりますが、中盤の層を厚くしています。バイタルでボールを受ける、前への推進力、テクニカルな部分は随所に見せてくれていますが、プレミアへの理解を深めるためなのかカップ戦中心の起用になっています。スールシャールもかなり慎重に起用している印象です。ブルーノ・フェルナンデス、マタとの相性は良さそうなので、長い時間のプレーを見てみたいです。

テレスは純粋な左利きの左SBがショーしかいない中、貴重な戦力となっています。コロナウイルスへの感染もあったりしましたが、プレミアのフィジカルにもすぐに慣れて問題なくディフェンスも対応しています。ショーが周りとの細かなパスやビルドアップにも貢献するタイプですが、テレスはぐーっとオーバーラップをして、早めにクロスを入れるタイプに見えます。カバーニのような点で合わせてくれるフォワードとの相性がよさそうです。

カバーニは最大のヒット補強でした。近年のユナイテッドにはいない9番タイプ、守備にも貢献してくれているし、シンプルなプレーの大切さを画面を通して教えてくれました。セインツ戦での2得点はあまりにもお見事でした。国際大会での経験も豊富ですし、マルシャル、ラッシュフォード、グリーンウッドにもいい刺激になっているようです。

セインツ戦のカバーニの2ゴールはまさにストライカーというべきゴールでした。

スールシャール就任後、ファン・ハール、モウリーニョ時代のような大金をつぎ込んだにも関わらず活躍できずに終わるという選手が皆無なのは、現場が求める選手と実際に獲得する選手が一致している証拠です。若く今後の成長が見込める(ワンビサカ、ジェームズ)、プレミアでの経験がある(マグワイヤ)、どのような環境でも適応できる(ブルーノ・フェルナンデス、カバーニ)が基本的な補強の方針のように見えますが、少なくともこのような補強が続くことがマイナスになることはありません。

■苦しんだ開幕直後

シーズン開幕当初は苦しみました。プレミアリーグ開幕6試合で2勝1分3敗。実質の開幕戦となったクリスタル・パレス戦は選手が全く動けておらず1-3の敗戦。2戦目のブライトン戦も勝利はしたものの(試合終了のホイッスル後のVARによるPK獲得で勝った試合)、内容は圧倒的にブライトン。3戦目のスパーズ戦も圧倒されて1-6の敗戦。

この結果の大きな要因はコンディションと考えられます。19-20シーズンはコロナウイルスの影響もあり、終盤は特に過密日程で戦いました。さらにユナイテッドはELの準決勝まで戦ったこともありシーズン終了は8月16日。開幕のパレス戦は9月19日。1ヶ月しかなかった準備期間はありませんでした。しっかりとオフを与え、プレーができる最低限の状態に持っていくのが精いっぱいだったと思われます。

全体の状態が上がってきたのはCLが始まった10月ごろからでしょうか。10月20日開催のCLのGS初戦はパリ相手に先制されながらも逆転で勝利をおさめ、28日のライプツィヒ戦は初めて採用した4-3-1-2で5-0の大勝。その直後のアーセナル戦は敗北を喫しましたが、その後プレミアでは10戦負けなし、8勝2分。シーズン序盤は動けていなかった選手たちもコンディションが整い、プレー強度が高まるにつれて結果も出てきたといえるのではないでしょうか。

■CLの敗退

上述の通りCLではパリ、ライプツィヒと連勝したものの、3節目のイスタンブール・バシャクシェルに手痛い敗戦。残り2試合で1ポイント取れば勝ち抜けというパリ、ライプツィヒとのリターンマッチで連敗し、3位。ELに回ることになってしまいました。

結果から考えるとパリ、ライプツィヒの連敗よりも3戦目にバシャクシェル相手に勝ちきれなかったこと、ポイントが取れなかったことがあまりにも痛すぎました。ポイントを計算できる相手にしっかり取らなければ、苦しくなるのは明白です。こういう部分は勝負弱くなってしまったのかな…と思ってしまう部分です。

ELのベスト32ではリーガで3位と好調のレアル・ソシエダとの対戦となりました。ユナイテッドは元来スペイン勢を苦手としています。難しい戦いになりそうです。モウリーニョ政権下でELを獲得した際はプレミアでも6位近辺を追走しており、CL出場のためにはELを優勝するしかないというモチベーションがありました。翻って今シーズンはプレミアで首位リヴァプールと勝ち点で並ぶ2位。ELへのモチベーション、プレミアとの兼ね合いが難しいのが事実でしょう。

モウリーニョ政権時のEL優勝の際はホーム&アウェイのノックアウトステージで両方勝利したのはベスト32のサンテティエンヌのみ。一発勝負のファイナルのアヤックス戦を除けば、残り3戦は1勝1分で突破をしています。180分でのゲームマネジメントを考えて、戦った結果とも言えそうです。ただでさえ過密日程の今シーズンですから、時には割り切って負けなければOKというゲームを作ることも必要になるかもしれません。

■プレミアでの復調

プレミアでの戦いに再び目を向けて現況で整理すると、8節のエバートン戦から17節ヴィラ戦までの10試合で8勝2分。一気に順位を上げて首位リヴァプールと勝ち点33で並んで2位。しかも未消化を1試合残しているという状況です。ユナイテッドを応援している人間が言ってはいけないのですが、まさかこれほど早くプレミアで「優勝争い」が見えてくるとは思っていませんでした(気は早いかもしれませんが…)

では、何が要因かと言われるとこれと言って出てこないのが難しいところです。昨シーズンからポゼッションが明確に改善された感じも受けないし、相変わらずブルーノ・フェルナンデス頼みだし、セットプレーでの失点も増えているし、見ていて上手くいっていないな…という試合も多いし。それでも何だかんだで勝ちを拾って2位まで来ているという印象なのです。

このウルブズ戦のようにアディショナルタイムで勝ち越した試合もすでに3試合あります。矛盾して申し訳ないのですが、こういう試合が増えてきたのはユナイテッドっぽいなとも思います。

19-20シーズンが終了したときに書いたnoteに「来季に向けての課題」として書いた部分です。とても改善しているとは思えません…

ただしこれはある意味ではユナイテッドらしさと言えるのかもしれません。ファーガソン政権下のユナイテッドも何か上手くいかないな~みたいな試合を何だかんだ勝ってしまう強さがあったし、そうしてしまう個の力、ファーガソンの選手掌握術があったといえるでしょう。(ただこれでは現代サッカーはいつかは行き詰まるのも事実。だからせめてコーチングスタッフにイングランド、プレミア以外の血を注入すべきだと思っています)

当時のような個の力があるとは思えないのですし、その次元にスールシャールがいるとも思えないですが、モイーズ、ファン・ハール、モウリーニョ時にメディアを通して聞こえてきたロッカールームの不協和音は聞こえてこないし、チームの雰囲気の良さは伝わってきます。


■今後の戦い方

週に2試合、インターナショナルマッチウィークもあると考えるとゲームモデルを埋め込む、ポゼッションを改善するといった大きな部分の改善は難しいでしょう。選手たちのコンディションを整えるのに精一杯だと思います。今後はうまくローテーションしながら大きな怪我人を出さずに乗り切っていくことが重要です

GKはデ・ヘアとヘンダーソンでローテーションできるでしょう。最終ラインはマグワイアが出ずっぱりなこと、リンデロフが背中の怪我を癖にしてしまっているようなのが非常に気になりますが、トゥアンゼベの起用に目途が立ち、バイリーも好パフォーマンスを披露しています。

中盤の底はマティッチ、マクトミネイ、フレッジの3枚で回す。ポグバ、ブルーノ・フェルナンデス、ファン・デ・ベークとボールプレーヤーがいることで4-3-1-2というオプションも生まれました。ブルーノ・フェルナンデスには怪我をされたら困るので、後半戦はファン・デ・ベークがどこまで絡んでくれるか。少しでも負担を減らしてくれるとありがたいですね。

両ウイングと1トップはラッシュフォード、マルシャル、カバーニ、グリーンウッド、マタ、ジェームズの6人で回していきたいところ。ブルーノ・フェルナンデスをサイドに出したり、ラッシュフォードを右サイドに移したりいくつかのオプションも使われています。

基本は4-2-3-1ですが、4-3-1-2や3バックも使うケースも見られます。昨シーズンはボールポゼッションを握られそうなチーム相手には、3バックで入ってカウンターを狙うという明確なゲームプランを持っていましたが、今シーズンはあまり使っていません。シティ相手にも4バックで戦っていました。

選手起用、システム変更含めてオプションを持つことは大切ですが、リヴァプール、シティなどの他のチームを見ているといかに怪我人を出さないかが過密日程の今シーズンは重要に見えます。リヴァプールのファン・ダイクのようにプレー中の怪我であれば致し方ありませんが、疲労蓄積による故障やそれに伴う判断の遅れ、サスペンションには注意していきたいところです。

■プレミア全体の状況

ここまで16試合消化で33ポイントですが、昨シーズンは24ポイントでした。ちなみに前回優勝の12-13シーズンの39ポイント、2位になった17-18シーズンの35ポイント以来のペースで勝ち点を稼いでいます。プレミア全体の事でいえば、16試合消化で40ポイントに届くチームがないのはレスターが優勝した15-16シーズン以来のこと(この時のレスターは35ポイント)。

レスターが優勝した15-16シーズン以降、プレミアリーグでは優勝チームの勝ち点のインフレが続いていました。16-17シーズンのチェルシーは93、17-18のシティが100、18-19のシティは98(この時の2位のリヴァプールは97)、19-20のリヴァプールは99です。90ポイントを取らなければ優勝できないというシーズンが続いています。

15-16シーズン以前を見てみると、14-15のチェルシーが87、13-14のシティが86、12-13のユナイテッドが89となっています。80後半で優勝できるシーズンが続いていました。これらのシーズンでも16試合消化時点で、今シーズン現在首位のリヴァプールの33ポイントは少ないのです。最小は最終的にはシティが優勝した13-14シーズンの首位だったアーセナルの35ポイント。届きません。

16試合消化で首位のチームが33ポイントというのは勝ち点80後半が優勝ラインだった13-14シーズン、15-16シーズンを81ポイントで優勝したレスターの35ポイント両方に届いていませんので、単純にその間を取ると優勝ラインは80中盤くらいになりそうです。

今シーズンのプレミアでの戦いを見ると楽に勝てたゲームは3分間で2点を取れたリーズ戦くらいで、残りは先に取られて何とか逆転をしたり、スコアレスで行って1点もぎ取ってという展開です。こうした苦しいゲームをしっかりと勝ち切りつつ、時には負けなければOKという展開も出てくるでしょう。リヴァプールもシティもここ2,3年の圧倒的な強さはありません。離されずついていくことが重要になりそうです。

■今シーズンの目標

上記で「優勝争い」という言葉を使いましたが、もちろんそれを狙いながらも現実的な部分ではCL出場権を確実に毎年確保していくことが重要になります。その上に優勝争い、優勝というものが見えてくるような気がします。

デ・ヘアも上記のように話しています。とはいえスールシャールがフルシーズン指揮を執るのは2シーズン目となるわけですから、タイトルが欲しいというのも現実的な目標になるでしょう。幸いカラバオカップ、FAカップ、EL、プレミアと4つのコンペティションが残っています。

過密日程で厳しいゲームが続いていきますが、だからこそローテーションしながらクラブの総合力が問われるシーズンになりそうです。

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