クローン羊「ドリー」から学べるもの

1997年、1頭の羊が世界を驚かせた。その名は「ドリー」。この羊は、世界ではじめてクローン技術によってスコットランドにあるロスリン研究所で誕生したと発表された。クローンというのは、細胞核のDNAが基とした個体とまったく同じということらしいです。

クローンというと、コピーされた全く同じ動物というふうに思ってしまいがちだが、世代をまたいだ一卵性双生児のようなものということのようだ。そうなるとまたイメージは変わってくる。いわゆる双子というのは、性格も違うし、まったく異なる別の生命として認識されている。もちろん人権もしっかりある。

クローンという言葉を聞くとなんだか恐ろしいSFの世界に迷い込んでしまった気にもなるが、双子が生まれた、ということだと解釈するとこんなことよくある日常生活の一部である気もしてくる。

科学技術は、解釈の仕方によって価値や意義が異なってきてしまうのだろう。当の科学者たちであっても、思い込みやイメージというのはやっかいなものなのだろうと推測できる。

このドリーは、テロメアという遺伝子を運ぶ物質である染色体の末端にある細いひも状のタンパク質が、極端に短かったらしい。テロメアの働きそのものは正確にはわかっていなかったそうだが、細胞を保護・修復するのに役立っていて、年を重ねるに連れテロメアの長さは短くなっていくというもののようだ。ドリーは、6歳の雌ヒツジの乳腺から採取した細胞を基にされたため、生まれつきの同じ年齢の平均的なヒツジよりも短かったということだった。そういったわけで、ドリーは平均的なヒツジとは違って6歳で肺がんと重度の関節炎を患い2004年に安楽死させられた。

しかし、あとからの研究で、子供のヒツジがそういった疾患を持って産まれることは「稀ではない」ということが明らかになった。研究チームは、「クローン作製が原因でドリーが早発型の変形性関節症を発症したとする当初の懸念は事実無根だった」と言い、事実関係を明確にしたい、という「願い」に後押しされたと語ったそうだ。

「願い」というのは、なんともやっかいなものである。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?