「私は宇宙人のクビをすげかえた!」「電車に宇宙人が乗っていたのでテレパシーで話しかけてみた」など
『詩人オウムの世界』について
先日、ちょっと若い方の配信を聞いていたところ、
筋肉少女帯の『詩人オウムの世界』という曲って、オウム真理教の事件の影響で作った曲なの?
という疑問を話しておられました。
『詩人オウムの世界』というのは、なんとなく次のような内容の歌です。
オウムという詩人が、世界を憎んでいた。
彼の言葉は蝶の群れとなって、街の空を紫色におおった。
その紫色に触れた者は、気がふれてしまう。
「詩をつづろう オーム オーム オーム オーム 世界を憎む詩を」
しかし、「おびえたピエロの密告で 詩人は警官隊の銃弾に倒れた」
それでも言葉だけは風に乗り、オーム オーム オーム オーム……。
「オウム」「狂気」「毒ガス的な鱗粉」「警察と戦ったのちの死」みたいな感じが、狂った教団・サリンによる無差別テロ・麻原彰晃さんの逮捕と死刑といった事件を思わせます。
また、筋肉少女帯の曲には、津山三十人殺しの都井睦雄(とい むつお)さんを題材にした歌『ムツオさん』なんてのもあるので、オウム事件の曲があってもおかしくない気はします。
しかし、『詩人オウムの世界』は、1990年2月に発売されたアルバムの収録曲。
地下鉄サリン事件や麻原彰晃さんの逮捕は1995年(死刑確定は2006年)なので、一連の事件の前に作られた歌でした。
作詞した大槻ケンヂさんは、岡田斗司夫さんとの対談(URL)で、次のように述べています。
僕は、オウム真理教事件が起こる数年前、オウム真理教が世の中に出始めたころに『詩人オウムの世界』という詩を書いてるんです。
それがまるで事件を予言したような展開になったことは、ご本人としても「何かすげえな」と不思議に思われているようです。
「オーム」のイメージ
また、2015年の『人生で大切なことはオカルトとプロレスが教えてくれた』を読むと、大槻ケンヂさんは、諸星大二郎作品の「オーム オーム」に言及しています。
諸星大二郎先生のマンガの中に、みんなが宗教的法悦に入ったときに、オウムオウムっていう声になるというのがあって、オウム(真理教の人たち)はやっぱり諸星大二郎も読んだのかなぁと思いましたね。
もちろん「オーム」という言葉自体はいろいろ意味があるんだろうけど。
てことで、大槻ケンヂさんの中では、「オウム真理教」より先に、諸星大二郎先生の「オーム オーム」があったようです。
『孔子暗黒伝』(1977年からジャンプで連載)
もしかして、『詩人オウムの世界』の「オーム オーム オーム」という部分も、そのイメージが入っていたのかも……?
という疑問に、2020年の大槻ケンヂさんのnoteで触れられていました。
あまり内容を書くとアレですが、これによると、「オーム」というフレーズは、やはり諸星大二郎作品が元だったそうです。
ザイン、マハーポーシャのこと
なお、『人生で大切なことはオカルトとプロレスが教えてくれた 』では、大槻ケンヂさんは「オウムより先にZが事件を起こすと思っていた」とも述べています。
当時、Z(ザイン)という宗教がありました。(以前のnoteでも紹介)
「われわれ古代帝國軍は神の軍団であり、日本の民主主義を滅ぼし、帝政を復活させて、小島露観が皇帝になる」
みたいなことを叫ぶ謎の街宣車を走らせて、本気で政府転覆を目指している、どう見てもマトモではない人たちでした。
大槻ケンヂさんは、こんな感覚だったそうです。
Zヤバイなと思っていたら、その頃うちのバンドのメンバーが、オウム真理教っていうゾウのお面とかかぶって選挙出たりしてる人いるじゃない? と言い出したんですよ。
彼らが秋葉原でお店をやっている、と。
(略)
そこから変な蒸気が上がったり、異臭がするって噂になってるらしいよ、という話を教えてくれたんです。
いやあっ、こっちにはZがいるから(笑)って思ってたら、その後、地下鉄サリン事件が起こった。
あのときは、まず「あれ、Zじゃなかったの?」って驚きました。
当時、オウム真理教はそこまで危険視されておらず、そういうのはザインの担当じゃないの? と驚いた感覚は分かります。
ところで、オウムの秋葉原のお店(マハーポーシャ)は1990年1月14日設立らしく、話題になった選挙は1990年2月です。
なので、この話をそのまま受け止めるなら、
「選挙パフォーマンスで話題になってたヤツら、秋葉原で店やってて、異臭とかヤバイって噂になってるよ」
「いやあ、うちはザインが近所だから(笑)」
……みたいな会話をした時点で、『詩人オウムの世界』発表の少しあとだったことになります。
『詩人オウムの世界』がオウム真理教の歌なら、もっと早い時期にメンバー同士で話題にしているのが自然だと思います。
この会話があったなら、『詩人オウムの世界』がオウム真理教の歌だという共通認識は筋肉少女帯にはなかったという気がします。
大槻ケンヂさんなら、オウム真理教の情報を目にする機会は多かったハズです。
しかし、どうやら『詩人オウムの世界』を作った時点では、オウム真理教にはそれほど関心がなかったらしいです。
参考:当時のオウム真理教のこと
オカルト界隈では、オウム真理教は1980年代には有名でした。
たとえば、オカルト雑誌『ムー』の1985年10月号には、麻原彰晃さんのあぐらジャンプ写真……じゃなくて空中飛行が載っています。
また、『TZ』の1988年11月号では、麻原彰晃さんが「ピラミッドはポアのための特殊装置だったのだ」と語っています。
こういう記事は珍しくなく、「オウム真理教の麻原彰晃」「幸福の科学の大川隆法」「ザインの小島露観」「GLAの高橋圭子」といったヤベー奴らのことは、この界隈では、だいぶ認知されていたと思います。
大槻ケンヂさんも『ワンダーライフ』までチェックしていたマニアで、こういうのは目にしていたハズです。
それから、1989年に『サンデー毎日』が「オウム真理教の狂気」という告発キャンペーンを展開。(11月に坂本弁護士一家が失踪…)
オウムへの批判や擁護がある中、1990年2月の衆議院選挙に、「真理党」として麻原彰晃さんが出馬しました。
選挙活動中のオウムガールたち(『いまどきの神サマ』より)
選挙では、ガネーシャの帽子をかぶった信者たちが「しょーこー しょーこー しょこしょこしょーこー」と歌ったり、麻原彰晃のお面をかぶった200人の信者たちが行進したり……。
それが話題になって、近所の小学生が下校中に「しょーこー しょーこー」と歌ってるレベルの知名度になりました。
(なお、選挙自体は惨敗)
『詩人オウムの世界』が発表されたのは、その選挙期間の直前くらいの時期でした。
(そのあとに、筋肉少女帯のメンバーで「選挙で話題になったオウムって知ってる? そいつらの秋葉原の店で……」みたいな会話)
それから、1990年7月ごろに、宗教学者の島田裕巳さんが「オウム真理教はディズニーランドである!」という分析を発表。
弁護士一家の失踪とオウムについて「関連をうかがわせる証拠はバッジ以外にいっさい発見されなかった」などと書きました。
また、ビートたけしさんも「幸福の科学」に比べれば、オウム真理教のほうがわかるといった話をしています。
この時期、オウムは意外とちゃんとした仏教で、若いヤツらに向いた時代の子なんだというイメージが作られて、批判よりも擁護が強かったと思います。
(そして1995年の地下鉄サリン事件で終わります)
『詩人オウムの世界』の話、まとめ
そんなこんなで、『詩人オウムの世界』について。
あいまいな点もありますが、おおまかに書くと、次のような感じみたいです。
・「詩人○○の世界」というフォーマットは、ディープ・パープルのアルバムの邦題『詩人タリエシンの世界』から
・主に諸星大二郎先生の漫画の「オーム オーム」のイメージで、曲名や歌詞に「オーム」という言葉が入った
(その時点で、オウム真理教は週刊誌で叩かれたりしていたが、大槻ケンヂさんはそれほど興味を持っていなかった)
・『詩人オウムの世界』を出して間もなく、オウム真理教が選挙で話題に。その後、筋肉少女帯のメンバーからオウムの話題を振られたときも、大槻ケンヂさんの関心はむしろザインに向いていた
・数年後、地下鉄サリン事件が発生。結果的に事件を予言するような曲になったことを、大槻ケンヂさんも不思議に感じている
結論としては、曲を作った時点では、オウム真理教はほとんど関係なかったみたいです。
大槻ケンヂさんのUFOネタ
……と、軽い前置きのつもりが、無駄に長く書いてしまいました。
大槻ケンヂさんはオカルト好きで、特にUFOへの関心が高く、1994~1997年ごろには
「1日の半分くらいをUFOのことを考えて暮らしている」
と述べていたほどの猛者です。(『ボクはこんなことを考えている』)
自律神経失調症になって心療内科に行ったところ、
「大槻さん、しばらくUFOやめなさい」
と言われたので、それを「医者にUFOを止められた男」というネタにして、「UFO断ち」をしていた時期もありました。
大槻ケンヂさんのエッセイにはUFOの話題が多く、特に、『のほほん人間革命』の「コンタクティー岡さんを見よっ!」は傑作と名高いです。
(対談相手のUFOコンタクティー岡さんのキャラがヤバイ)
(Kindle Unlimited で読めます)
ガゼッタ岡さんは1928年生まれで、生きていれば92歳なのですが、やっぱり亡くなっているのでしょうか……。
(92歳というか、1億5000万歳なのですけど)
と、UFOネタは大槻ケンヂさんのテリトリーという印象があって、大槻ケンヂさんのエッセイで紹介されている話題に触れるのは、「ちゆ12歳」では少し避け気味でした。
ただ、最近はその辺りに、あまりこだわらなくてもいいかなという気持ちも、少ししてきて……。
(なんというか、人と話していると、みんながみんな有名UFOネタをチェックしているわけでもないのですよね)
なので、今日は思い切って、大槻ケンヂさんがよく話すヤツと被った話をしてみようと思います。
『のほほん人間革命』や『人生で大切なことはオカルトとプロレスが教えてくれた』などで紹介されている、オーケンファンにはメジャーな宇宙人の首すげかえ事件の話です。
(なんというか、いまさらな話題で恐れ入ります。いちおう、大槻ケンヂさんの本に載っていないことも含みます)
宇宙人の首すげかえ事件
大槻ケンヂさんがこの話をするときは、『にっぽん宇宙人白書』に載っている話という形で紹介されています。
(※ヤフオクでは通常1000~4000円くらいですが、出品は少ないです)
ただ、この本が初出というわけではなく、この事件が最初に紹介されたのは『UFOと宇宙』の1976年6月号だと思います。
『UFOと宇宙』は、1973年~1983年に刊行された雑誌。
この号の表紙からして「私は宇宙人のクビをすげかえた! 深夜の国道で起きたコンタクト事件レポート」という、すごい書物です。
問題の記事は、こんな感じでした。
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